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エスニックレストラン

2人のテーブルには、ほかほかと湯気の立つ料理が運ばれてきた。
奇妙なかたちの肉塊が皿の真中に横たわっている。

「あら、トリの唐揚げ頼んだかしら」
「トリじゃないよ。カエルの唐揚げだよ。さっきオレが頼んだのさ」
「イヤだわ。カエルなんて」

千葉の郊外で育った奈々子は、幼い時カエルの鳴き声をさんざん聞いた。
学校の帰りに、いじめっ子に雨蛙を目の前につきつけられたこともある。
そんな小動物とフライというのがどうしても結びつかない。
メニューでその文字を見てもオーダーする気にはなれなかった。

「カエルっていっても、食用ガエルだよ。あっさりしたチキンみたいでうまいぜ」
食い道楽を自認する俊は、目を細めてひときれを自分の皿に盛った。

「この店って、お料理はタイ風あり、マレーシア風ありって感じで、
どこの国の料理かわからないわよね」
「だからエスニック・レストランって名づけてるんだよ。
なんでも無国籍にしちゃうのが東京のいいところだからな」
俊は器用に箸を使って、カエルの骨をとりのぞいている。

「ね、カエルなんておいしいの」
「だからひとつ食ってみろよ」
「そんなの食べる人、本当にいるのかしら」
「あたり前だよ。確かこれ、ベトナム人の大好物だって聞いてるぞ」
「ふうーん、ベトナム人がねえ......」

(林真理子著「戦争特派員」より)
by foodscene | 2009-02-08 14:11 | 日本


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