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6 まだ青いカボチャを煮ると、煮リンゴの味がする〜

とうさんが出かけると、かあさんがいった。
「みんな、あとでとうさんを驚かしてやりましょうよ」
洗い桶で皿を洗っていたローラとキャリーは、くるりと振り向いた。
ベッドをととのえていたメアリも、はっと体をおこした。
「えっ、何?」
3人はいっせいにたずねた。

「さっさと仕事を片づけてしまいなさい。
そしたら、ローラ、トウモロコシ畑へ行って、まだ若い青いカボチャをひとつとっていらっしゃい。
じつはね、パイを作ろうと思うのよ!」
「パイ!でも、どうやって...」
メアリはびっくりしている。すかさずローラはたずねた。
「青いカボチャのパイ?
そんなの、聞いたこともないわ、かあさん」
「わたしだって。でも、だれも聞いたことがないことでも、やってみなければ、
できるかどうかわらかないでしょう」

ローラとキャリーは皿洗いをていねいに、でも、おおいそぎですませた。
それから、ローラは、しとしと降る冷たい雨の中を、トウモロコシ畑へ走り、
いちばん大きな青いカボチャをもぎとって、ひきずりながら運んできた。

「オーブンのそばで服を乾かしなさい」かあさんがしかった。
「ローラ、あんたはまだ子どもだけど、いわれなくてもショールくらいはおっていく知恵はあるでしょうに」
「早く走ったから、雨をかわしていけたわ」
ローラはいいわけした。
「だからね、かあさん、あまりぬれてないわ、ほんとうよ。
さあ、これからどうすればいいの?」

「カボチャを薄切りにして、皮をむいてちょうだい。
わたしはパイ皮を作るから。それからどうなるか、お楽しみ」

かあさんはパイ皮をパイ皿に敷き、底をブラウン・シュガーとスパイスでおおった。
それから青いカボチャの薄切りをいっぱいに敷きつめた。
その上から、酢を半カップ注ぎ、いちばん上にバターの小さなかたまりをのせ、
最後に上皮をすっぽりかぶせた。
「できた」
パイの縁をつまんでひだを作ると、できあがりだった。

「こんなのができるなんて、知らなかった」
目を丸くしてパイを見つめ、キャリーがほうっと息をついた。
「まあ、わたしにもまだわからないけれど」
そういいながら、かあさんはパイをするりとオーブンにいれ、とびらをしめた。
「でもね、まずやってみないことには、わからないでしょう。
昼ごはんには、結果が出ますよ」

みんなはきれいに片づいた家で、そろって座ってとうさんを待っていた。
メアリは編み物にせいを出した。
寒い季節がくるまえに、キャリーのために暖かい長靴下を編んでいたのだ。
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とはいうものの、パイのほうはみごとに美しく焼けていた。
かあさんがとうさんのために縫っていたシャツをおいて、
オーブンのとびらをあけると、
焼けたパイのこうばしいあまい香りがぷーんとただよってきた。
キャリーとグレイスは立ったまま、中をのぞき、かあさんはパイ皿の位置を変えて、
焼けむらがないようにした。
「うまく焼けているわ」
かあさんはうれしそうだ。
「わあ、きっととうさんは驚いちゃうね」キャリーが声をあげた。

昼食のほんの少しまえに、かあさんはオーブンからパイをとりだした。
とてもきれいに焼けている。
それから、1時ごろまで昼食を待った。
でも、とうさんは帰ってこない。
狩りにいくと、とうさんは食事の時間など気にしなくなる。
そこでとうとう、みんなは先に食べることにした。
パイは、とうさんが明日のごちそうの太ったガンを持って帰ってくる、夕食までおあずけだ。

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ほんとうに冷えびえとしてきた。
寒さがテーブルの下にまでしのびより、ローラのはだしの足から、
スカートの下の膝にまではいあがってきた。
けれど、夕食は温かくて、おいしかった。
ランプの明かりに照らされたみんなの顔が、とうさんの知らない秘密のびっくりをかくしていて、
きらきら光っていた。

とうさんはみんなの様子にぜんぜん気づいていない。
おなかをすかせていたので、がつがつ食べ、
何を食べているのかにもむとんちゃくだった。
そして、繰り返し、いうのだった。
「奇妙だ。カモもガンも、ここへとまって休もうとしないんだから」

とうさんは空になった皿を押しやった。
かあさんがローラに目配せした。
「さあ、いよいよ!」
とうさん以外のみんなの顔にぱっとほほえみが広がった。
椅子に座ったキャリーはもぞもぞ体を動かし、
グレイスはかあさんの膝でぴょんぴょんはねた。
ローラがパイをテーブルにおいた。

一瞬、とうさんはそれが目に入らなかった。
それから叫んだ。
「やあ、パイだ!」
その驚きは、みんなが想像したよりずっと大きかった。
グレイスとキャリーと、ローラまでが大声で笑った。

「キャロライン、パイなんて、どうやってこしらえたんだい?」
とうさんは声をあげた。
「中身はなんだい?」
「食べてのおたのしみ!」
かあさんはパイを切りわけ、1切れをとうさんのお皿にのせた。

三角にとがったところをフォークで切ると、
とうさんはそれを口にいれた。
「アップル・パイだ! いったいぜんたい、どこでリンゴを手にいれたんだ?」
もうキャリーはだまっていられなかった。思わず声をはりあげた。
「カボチャなの! かあさんが、青いカボチャで作ったのよ」
とうさんはもう1切れ、小さなのを口にいれて、ゆっくり味わってみた。
「見当もつかなかったよ。
かあさんの料理は、いつだってこの国いちばんさ」
かあさんは何もいわなかったけれど、頬がぽっと赤らんだ。
そして、みんながおいしいパイを食べている間じゅう、
目にたたえたほほえみはずっと消えなかった。

みんなはゆっくり、ゆっくり味わった。
そのあまい、スパイスのきいたパイを、
ほんの少しずつ、できるだけ長持ちさせるように、食べた。
それは楽しい夕食だった。
ローラはこれがずっと続いてほしいと思った。

ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」
by foodscene | 2009-11-23 15:26 | アメリカ


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