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「こんな簡単な朝ごはんだから、手伝いはいらなかったのよ」と、
かあさんがいった。
「1人にビスケットがひとつずつ、それも小さいのしかできなくて、
これで最後の小麦を使ってしまったわ」
「あたし、ひとつもいらないわ」
ローラはいった。
「みんなであたしの分を食べて。
汽車がくるまで、おなかなんかすかないもの」
「ちゃんと自分の分は食べなさい」とうさんがさとす。
「そして、みんなで待とう。
汽車がくれば、食べ物もくるんだから」

そこで、みんなで楽しく最後のビスケットを食べた。
かあさんは、とうさんがいちばん大きいのを食べるべきだといった。
とうさんはうなずいてそうすると、
次に大きいのをかあさんがとるべきだといった。

もちろん、次はメアリだ。
ローラとキャリーの番になったときが、ちょっとやっかいだった。
ほとんど同じ大きさのがふたつあったのだ。
最後はグレイスで、いちばん小さいのをとった。

「どれも同じ大きさにしたはずなんですけどね」
かあさんがいいわけする。
「さすが、スコットランド出のかあさんだ」
とうさんがからかった。
「汽車がくるまで、小麦をたやさず、最後に使いきっただけでなく、
わたしら6人の大きさにあわせてビスケットを焼いたんだからな」
「そういえば、ほんとうにぴったりうまくいきましたよね」
かあさんもうなずいた。
「キャロライン、おまえはすばらしいよ」
とうさんはかあさんにほほえみかけた。
そして、立ち上がると、帽子をかぶった。

「ああ、実にいい気分だ!」と、声をあげた。
「ついに、冬をやっつけちまったんだからな!
切り通しから猛吹雪のなごりはどかしたし、
汽車はやってくるし!」

ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」
by foodscene | 2009-12-12 17:41 | アメリカ


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