「ねえ、私たち反革命なのかしら?」と教室を出てから緑が僕に言った。
「革命が成就したら、私たち電柱に並んで吊されるのかしら?」
「吊される前にできたら昼飯を食べておきたいな」と僕は言った。
「そうだ、少し遠くだけれどあなたをつれていきたい店があるの。
ちょっと時間がかかってもかまわないかしら?」
「いいよ。2時からの授業まではどうせ暇だから」
緑は僕をつれてバスに乗り、四ッ谷まで行った。
彼女のつれていってくれた店は四ッ谷の裏手の少し奥まったところにある弁当屋だった。
我々がテーブルに座ると、
何も言わないうちに朱塗りの四角い容器に入った日変りの弁当と吸物の椀が運ばれてきた。
たしかにわざわざバスに乗って食べにくる値打のある店だった。
「美味いね」
「うん。それに結構安いのよ。
だから高校のときからときどきここにお昼食べに来てたのよ」
村上春樹「ノルウェイの森」