朝食を食べさせる定食屋が開いていたので、
そこであたたかいごはんと味噌汁と菜の漬けものと玉子焼を食べた。 *** 私たちは毎日キノコをとったり栗を拾ったりして食べています。 栗ごはん、松茸ごはんというのがずっとつづいていますが、 おいしくて食べ飽きません。 *** やがて彼は僕にもう飯は食べたかと訊ねた。 食べてないけれど、リュックの中にパンとチーズとトマトとチョコレートが入っていると僕は答えた。 昼には何を食べたのかと彼が訊いたので、 パンとチーズとトマトとチョコレートだと僕は答えた。 すると彼はここで待ってろよと言ってどこかに行ってしまった。 僕は止めようとしたけれど、彼は振りかえりもせずにさっさと闇の中に消えてしまった。 僕は仕方なく1人でコップ酒を飲んでいた。 砂浜には花火の紙屑が一面に広がり、 波はまるで怒り狂ったように轟音を立てて波打ち際で砕けていた。 やせこけた犬が尾を振りながらやってきて 何か食べものはないかと僕の作った小さなたき火のまわりをうろうろしていたが、 何もないとわかるとあきらめて去っていった。 30分ほどあとでさっきの若い漁師が寿司折をふたつと新しい一升瓶を持って戻ってきた。 これ食えよ、と彼は言った。 下の方のは海苔巻きと稲荷だから明日のぶんにしろよ、と彼は言った。 彼は一升瓶の酒を自分のグラスに注ぎ、 僕のグラスにも注いだ。 僕は礼を言ってたっぷりと2人分はある寿司を食べた。 それからまた2人で酒を飲んだ。 村上春樹「ノルウェイの森」
by foodscene
| 2009-12-29 14:37
| 日本
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