瑞枝は冷蔵庫からベーコンと玉子を取り出し、
フライパンをレンジにかけた。 賞味期限をいくらか過ぎていたベーコンであったが、脂が溶け、 うまそうにゆっくりと縮れていく。 現金な母親だと言われそうだが仕方がない。 今朝の瑞枝は、日花里に対して幾つか負い目をつくってしまったのだ。 --- 「昨日はごめんね」 瑞枝は皿にベーコンエッグを盛りながら後ろ向きで言った。 「泣いちゃったりして、お母さん、どうかしてたね」 --- 瑞枝は娘のためにトーストにマーガリンを塗ってやる。 もっと薄くてもいいよと日花里は言った。 --- レンジの上の小鍋に泡が立ち上がり、こぼれ落ちようとする寸前であった。 あわてて火を消す。 全く牛乳というのは悪意のように、 ほんの一瞬目を離した隙に、突然沸騰し鍋からはみ出そうとするのだ。 それを茶碗に注いでやると日花里はこくこくと飲み始めた。 --- ベーコンエッグの皿を残し、日花里は立ち上がった。 「これ、せっかくつくったんだから食べなさいよ」 「いいよ。私、朝はあんまり食べない。ミルクとパンだけだもの」 日花里が出ていった後、それは瑞枝が食べることになった。 気をつけて焼いたつもりであるが、 黄身が固まり裏側が焦げていた。 インスタントコーヒーをいれ、それで流し込むように喉に入れた。 最近これほど早く起きたことはないので瑞枝とて食欲がない。 林真理子「ロストワールド」
by foodscene
| 2010-02-28 12:58
| 日本
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