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病気はみこころではない

舞衣子は軽やかな蟹のサラダをオードブルに頼み、
その後は冷たいゴボウのクリームスープをすすった。
ぜひ試して欲しいと店の男が勧めたものである。
その後魚料理が出たが、これは平凡な一品だった。

「ゴボウのクリームスープなんて初めてだわ。
ヴィシソワーズとか、お豆のスープは飲んだことがあるけど」
「ここのシェフは、日本の野菜を使って面白いものをつくる。
ものすごくいろんなことを工夫していいよ...っていうのは、
これまたグルメの友人の受け売りなんだけどね」
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その日のスクールでのメニューは、ガスパッチョと仔牛のハーブ焼きである。
ガスパッチョは、夏向きの冷えた野菜スープだ。
「バルサミコ酢は必ず使ってくださいね。
他のお酢では絶対に代用がききませんからね」
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「お嬢さん方のために、白桃でベリーニにしてもらった」
「うん、いいね」
その後2人の男は、ワインについての相談を始めた。
この知識は瀬口の方が断然詳しく、
牟田はあいづちをうつ、といった役割である。

前菜は菓子のような一品が運ばれてきた。
サーモンと帆立貝のミルフィーユである。
これを崩さないようにナイフで切り分けるのは大層むずかしい。
舞衣子は息をこらし、薄桃色のソースのかかった層に刃を入れた。

「お料理もワインも最高だわ」
「そりゃ、そうだよ。
最初からムルソー・シャルムの89年という正統コースですからね」
瀬口が言い、それから季節のうまいものの話となった。
「こういう暑い時に、京都でうまいものを食べるのが最高なんだよ。
—で鱧食べて、—で鮎を焼いてもらう。
あそこは持ち込みOKだからさ、いい白に合わせて何かつくってもらう」
「ああ、いいね、いいね」

林真理子「花探し」
by foodscene | 2010-05-03 14:52 | 日本


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