「バッカね、私って!」とマギーは袋の中のチキンをがさがさと混ぜながら言った。
「バカなおせっかい婆さん!」。 ガスレンジの上に鍋をドシンと載せ、油を多すぎるほど注ぎ、レンジのつまみを乱暴にひねると、後ろに下がって油が熱くなるのを待った。ほら、見てよ。よそゆきのドレスに油のハネがあがった。おなかのところにぽつぽつと。ぶざまにおなかをポコンと出して、お料理しているというのにエプロンもつけないでいるから。しかも、このドレスはヘクトの店で64ドルもしたのだ。アイラに知られたら、またひと騒ぎだ。 油の温度はまだ十分上がってなかったが、マギーは肉を入れはじめた。チキンはたくさんあった。今となっては多すぎるほどだった。(食事の前にジェシーが戻ってくれば話は別だが。) 最後の2、3本は、鍋の中に落としこんで入れた。 サヤエンドウかサヤインゲンか。マギーは布巾で手を拭うと、どちらにするか訊くために居間に入っていった。「ルロイ、どっち―?」 マギーはフライドチキンのぎっしり詰まった容器を、アイラがすぐにわかるように、冷凍庫のいちばん手前にしまった。 食器を片づけると、自分のために大きな鉢にアイスクリームを盛った。やっぱりチョコレート・ミントを買ってくればよかった。ファッジ・リップルはミルクの味が強すぎる。マギーはアイスクリームをスプーンでつつきながら、階段をのぼっていった。デイジーの部屋の前に来て、中を覗いてみると、デイジーは床に膝をついて段ボール箱に本を詰めていた。 「アイスクリーム、いる?」 デイジーが顔をあげた。「ううん、いらない」 「ドラムスティックを1本食べただけでしょ」 「おなか、空いてないの」 (アン・タイラー著 中野恵津子訳 「ブリージング・レッスン」より)
by foodscene
| 2006-04-07 02:26
| アメリカ
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