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わたしのオックスフォード 2

食べ物も違う。
寒いせいか炭水化物や油ものを多くとり、
ずっしり重い生地のミートパイや、ジャガイモやスウィード(カブの一種)をふんだんに使った料理が目立つ。
ジャネットに言わせると
「フィッシュ・アンド・チップス」も本場は北なのだとか。
南のチップスは身も衣も貧弱で頼りないらしい。
その南のチップスでさえもしつこく感じる私は、
北のチップスは遠慮しておこう、と心に決めている。
朝食でベーコンエッグなどに加えてブラック・プディング(血のソーセージ)を食べるのも、
北、とくにヨークシャーの伝統である。

***
朝食は8時15分から9時半まで、食堂に用意されている。
入口の横に置いてあるジュースやコーン・フレークスをとって席につく。
卓上にはコーヒー、紅茶、バター、ジャムなどが並ぶ。
出来たてのトーストを係の人がラックに入れて持ってきてくれる。

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12時半。さて、お昼はどうしようかな。
「ヒーローズ」あたりで好物のチキンとアボカドのサンドでも買って部屋で食べようか、
とも思ったが、結局、カレッジの食堂に舞いもどってしまった。

朝と違って昼食はセルフ・サービスである。
「質より量」主義で、率直にいて、すべてがとてもまずい。
ミートパイ、コーニッシュ・パスティ、フィッシュ・アンド・チップス、スパゲッティ・ボロネーゼなど一通り食べてはみたのだが、
例外なく失望されられた。
いちばん無難なのはベークド・ポテトに温野菜という平凡な組み合わせで、カレッジで昼食を食べるときはこれに決めている。

ただ一つのとりえは安いこと。
私の「おすすめ」セットは60ペンスだし、デヴィッドたちはいつも、よく落っこちないな、と感心するほど
大量の料理をお皿に積みあげているが、それでも1ポンドをオーバーすることはめったにない。

食堂でダンカンといっしょになり、ほかの仲間たちと食後のコーヒーを彼の部屋へ飲みにいく。
彼は「カプチーノ・メーカー」なるものを持っているので、
自然に人が集まってくるのだ。

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ダージリンとビスケットをごちそうする。
テュートリアルから出てきた者はやさしくねぎらってやるのが常識なのである。
そのあとカレッジの図書館へ。
ストラウド氏との対決をつづける。

***

カレッジの夕食は7時15分からだが、今夜は外食する予定がある。
キーブル・カレッジの友人、デビーの誕生日なので、
最近、駅の近くに開店した「バンコク・ハウス」という店にタイ料理を食べにいくことになっている。
私もデビーもタイ料理が大好き。
とくにあのくせのつよいカレーがたまらない。

しかしデビーの友人マイケルは食べ物に関しては救いようのない「保守派」である。
困惑の表情でメニューを検討する彼の目が、突然、輝いた。
マイケルのようなお客のために、英国料理が何品か用意してあったのだ。
オックスフォードに数多いインド料理店にも、
たいていフィッシュ・アンド・チップスなどの「イングリッシュ・メニュー」がある。
本当にイギリス人はしょうがないわね、とからかっても、
マイケルは平然とチップスにおきまりの酢をかけているところ。

***

ひきかえに自分のガウンを受け取って、
私たちは父兄ともどもランドルフ・ホテルにハイ・ティーを楽しみに行った。
おきまりの紅茶とスコーンに、
スモーク・サーモンやキュウリのサンドイッチ、ケーキなどがつく
伝統的なティー・タイムのごちそうである。

川上あかね著「わたしのオックスフォード」
by foodscene | 2012-05-28 15:33 | 日本


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