農場の少年 4 日曜日とカエデ糖

食料部屋では、母さんが、6クォート(約5.7リットル)入りの鍋に
ゆでた豆をいっぱいにして、タマネギ、コショウ、豚の脂身をひと切れいれると、
糖蜜をその上からたっぷりかけた。
ベイクド・ビーンズの下ごしらえだ。

こんどは、粉の樽をあけているのが、アルマンゾの所から見える。
母さんは、大きな黄色い瓶に、ライ麦粉とひきわりトウモロコシをパッパッと投げこみ、
ミルクとタマゴなどをかきまぜながら流しこみ、
大きな天火の焼き皿に、その灰黄色のインディアン風ライ麦パン(ライ・アン・インジュン)のたねをいっぱいにいれた。

「アルマンゾ、ライ・アン・インジュンを持ってっておくれ。
こぼさないようにね」
母さんはそういうと、豆の鍋をさっと持ちあげ、
アルマンゾは、重いライ・アン・インジュンの天火皿を持って、
こぼさないように気をつけながら母さんについていった。

父さんが、暖房用のストーブの天火の大きな扉をあけ、
母さんが豆とパンだねをなかへすべりこませた。
こうしておくと、日曜の昼までに、両方ともゆっくりいいぐあいに仕上がるのだった。

***
翌朝、アルマンゾが、両手に乳桶をさげてよたよたしながら台所にはいっていくと、
母さんがホットケーキを何段にも積みあげたのを焼いていた。
日曜日だからだ。

ストーブの上には、直火のあたらないわきによせて、
ぷっくりしたソーセージを山のように盛った大きな藍色の盛り皿がのっているし、
いつものように、イライザ・ジェインはアップル・パイを切っているし、
アリスはオートミールを盛りつけていた。

いつもとちがうのは、小さな青い盛り皿が、さめないようにストーブの奥においてあり、
何段も積みかさねたホットケーキが、十山ならんでいることだった。
ジュージュー煙のたつ焼盤の上では、一度に10枚分のホットケーキが焼け、
母さんは焼けるはしから、重ねたホットケーキの上に1枚ずつ手早くのせていって、
バターをたっぷりぬってメイプル・シュガーをふりかける。
バターとメイプル・シュガーはとけてまざりあい、
ふわふわしたホットケーキにしみこみ、
カリッとした縁をつたってしたたりおちた。

これが「重ねホットケーキ」だった。
アルマンゾは、ホットケーキの種類のなかでは、これがいちばんすきだった。

母さんは、みんながオートミールを食べ終わるまで、
ホットケーキを焼きつづけている。
この重ねホットケーキは、いつも、どんなにたくさん焼いてもたりないほどだった。
みんなホットケーキの山をつぎからつぎへとたいらげ、
アルマンゾがまだ食べつづけていると、母さんがあわてて椅子をうしろへ引くといった。
「まあたいへん!8時じゃないの!さあいそがなきゃ!」

***

日曜の昼食のごちそうを前にテーブルにつくと、
アルマンゾはすこし元気が出てきた。

母さんは、自分のお皿の横においたパン切り板で、ほかほかしているライ・アン・インジュンパンをうすく切りわけている。
父さんはスプーンをチキン・パイの下までぐっといれた。
厚い皮を大きくひとすくいすると、
フカフカした下側を上にお皿に盛りつける。
それにグレイビイをたっぷりかけ、やわらかい鶏肉の大きな切れを、
白身と赤身を骨からはずしながらその上にすくいとった。

そのそばにベイクド・ビーンズをひと山盛ると、
プルプルしている豚の脂身をひときれのせた。
お皿の端には、真紅の赤カブのピクルスをそえ、
父さんはそのお皿をアルマンゾに渡した。
アルマンゾはだまってそれを全部たいらげた。

そのあと、カボチャのパイをひと切れたべると、
さすがにおなかがいっぱいになった。
それでもまだ、アップル・パイをひと切れ、
チーズをそえてたいらげた。

食事がすむと、イライザ・ジェインとアリスがあと片づけをし、
父さんと母さんとローヤルとアルマンゾは、仕事は何もしなかった。
午後じゅうずっと、みんな眠気をさそうあたたかい食堂にすわっていた。
母さんは聖書を読み、イライザ・ジェインは本を読んでいた。

***

ときどき、アルマンゾも生のニンジンのかけらをたべる。
外側のところが一番おいしかった。
厚くてきめの細かい外の皮はポロッとまるくむけ、甘味がある。
中側はもっと汁気があって黄色い氷のようにすきとおっていたが、
かすかにピリッとからい味がした。

***
正午には、樹液はぜんぶあつめられ、鉄鍋のなかで煮たっていた。
父さんはお弁当をひろげ、アルマンゾは、父さんとならんで丸木に腰をおろした。
ふたりは食べたり話したりする。
足を火のほうにのばし、うしろには丸木が山と積んであり、
よりかかるのに具合がいい。
ふたりのまわりは、一面に氷と深い森だけだったが、
そうしていると、とてもいごこちがよくいい気分だった。

お弁当を食べおわると、父さんは、樹液の煮えかげんをみているために、
焚火のそばで番をしていたが、
アルマンゾはヒメコウジ(ウィンター・グリーン)の実をさがしにいった。

南の斜面の雪の下に、厚い緑の葉の間に、
真赤な実がなっていた。
アルマンゾはミトンをとって、素手で雪をかきわけた。
赤い実がかたまっているのをみつけ、
口いっぱいにほおばる。
冷たい実が歯にきしみ、香ばしい汁がほとばしりでた。

雪のなかから掘りだしたウィンター・グリーンの実ほどおいしいものは、
そうはないのだった。
アルマンゾの服は雪にまみれ、指はかじかんで赤くなっていたが、
南の斜面を全部あさりつくすまでは、そこをはなれなかった。

カエデの幹の間に太陽がひくくなっていくと、
父さんは、焚火に雪を投げこみ、火は、ジュージューいって、
湯気をあげながら消えていった。

父さんは、火が消えると、熱い煮つまったシロップを桶にくみこんだ。
父さんとアルマンゾは、また天秤棒をかついで、
桶を家まで運んで帰った。

ふたりは、台所のストーブの上にある大きな赤銅の鍋に、
運んできたシロップをあけた。
それから、アルマンゾは夕仕事にかかり、父さんは、
残りのシロップを森にとりにいった。

夕食がすんだときには、シロップはもう固めることができるようになっていた。
母さんは、6クォートの牛乳鍋に、シロップをひしゃくでくみいれ、
そのままさますように置いておいた。
朝には、かたいカエデ糖の大きなかたまりが、どの鍋にもできあがっていた。

母さんは、そのまるい金茶色のかたまりを、鍋をポンとひっくり返してだすと、
食料部屋のいちばん上の棚にしまった。

毎日毎日、樹液は流れだし、毎朝、
アルマンゾは父さんといっしょに出かけては、
それをあつめて煮つめ、毎晩、母さんがそれをメイプル・シュガーに仕立てた。
もう、一年分のメイプル・シュガーはたっぷりできてしまったのだ。
そして、最後のシロップは、たた煮つめて、
そのまま大きな瓶に入れて、地下室にたくわえた。
これが一年分のメイプル・シロップになるのだった。

アリスは学校から帰ると、アルマンゾのまわりをかぎまわって、大声をあげた。
「あらっ、ウィンター・グリーンの実を食べたわね!」
アリスは、自分は学校へ行かなければならないのに、
アルマンゾは、樹液をあつめにいって、ウィンター・グリーンの実を食べたりしているのは、
とても不公平だというのだ。

***

そして、日曜のたびに、ふたりいっしょにそこへ出かけて、
雪をかきわけるのだった。
アルマンゾが赤い実をひとかたまり見つけると大声でわめき、
アリスが見つけると金切声をあげ、
ときどきは半分ずつわけ、ときどきは全部ひとりじめした。

そして、その南の斜面を、ふたりは四つんばいになってさがしまわり、
午後いっぱいウィンター・グリーンの実を食べた。

アルマンゾは、厚い緑の葉を桶一ぱい持って帰り、
アリスがそれを大きなびんにつめこんだ。
母さんがそれにウィスキーを口までそそぎ、
そのまま地下室においた。
これが、母さんがケーキやクッキーをつくるときに使う、
ウィンター・グリーン香味になるのだった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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by foodscene | 2012-07-09 16:34 | アメリカ


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