「ねえ、アイスクリームをつくろうや!」ローヤルが大声をあげた。
イライザ・ジェインは、アイスクリームが大すきなのだ。 ちょっとためらったが、「そうねえ…」という。 ローヤルのあとからアルマンゾは氷蔵へ駆けていった。 ふたりでおがくずから氷をひとかたまり掘りだすと、 穀物をいれる麻袋にいれた。 その袋を裏ポーチにおいて、手斧でたたいて氷をくだいた。 タマゴのしろみを深皿で泡だてながら、アリスが外へ出てきてそれをながめていた。 アリスはフォークでしろみを細かくくだいて、 深皿をかたむけても流れおちなくなるほどかたく泡だてた。 イライザ・ジェインはミルクとクリームをカップではかり、 食料部屋の樽の砂糖をすくい入れた。 それはふだんづかいのメイプル・シュガーではなく、 店で買った白砂糖だった。 母さんはお客さんのときにしか使わないのだ。 イライザ・ジェインはカップにたっぷり六ぱい分すくいとると、 残りの砂糖を平らにならしてあとでわからないようにした。 イライザ・ジェインは、大きな乳桶一ぱいの黄色いアイスクリームのもとをつくった。 その桶をたらいのなかに据え、そのまわりにごく細かくくだいた氷を塩をふりながらつめ、 上からすっぽり毛布をかぶせた。 二、三分おきにその毛布をどけて、桶のふたをとり、 かたまりかけのアイスクリームをかきまわした。 アイスクリームができあがると、 アリスがお皿とスプーンを持ってきて、 アルマンゾは大きなケーキと肉切り包丁をもちだしてきた。 アルマンゾはケーキをとてつもなく大きく切りわけ、 イライザ・ジェインがお皿に山盛りにアイスクリームを盛りつけた。 みんな心ゆくまでアイスクリームとケーキが食べられた。 誰もとめる人がいないのだから。 正午になると、みんなは残りのケーキ全部と、アイスクリームをほとんど食べてしまった。 イライザ・ジェインは昼ごはんのしたくをしなくてはといったが、 誰も昼ごはんあんか食べたくないというのだった。 アルマンゾはいった。 「食べたいのはスイカだけだ」 アリスはパッと立ちあがる。 「そうだっ!とりに行ってこようよ!」 *** アリスとアルマンゾは、暑いスイカ畑へはいっていった。 しおれかかったひらたい葉の上に、 スイカはコロコロならんでいた。 アルマンゾはその緑の皮を指ではじいて、耳をすます。 よく熟しているときには、じゅくした音がするし、 まだ若いとわかい音がするのだ。 *** そこで、結局、ふたりはいちばん大きいのを六個とって、 ひとつずつ氷蔵に運びこみ、しめった冷たいおがくずの上にのせた。 そのあと、アリスは朝の食事のあとかたづけに家へゆき、 アルマンゾは自分は何もしないつもりだといった。 *** 台所では、イライザ・ジェインとローヤルが、キャンディーのことで口あらそいをしていた。 ローヤルはキャンディー・プルをしたいといい、 イライザ・ジェインはそれは冬の夜だけのものだというのだ。 ローヤルは、キャンディー・プルは夏だってしてわるいはずはないといっている。 アルマンゾも同じ意見だった。 そこでなかへはいってローヤルの味方をした。 キャンディー・プルをするためには、まず熱くとけたキャンディーをつくらなければならない。 アリスはその作りかたを知っているといった。 イライザ・ジェインは反対した手前つくろうとしない。 それで、アリスが砂糖と糖蜜(モラセス)をまぜ、 火にかけて煮たてた。 それから、バターを塗った深皿に、とけたキャンディーを流しこみ、 ポーチにおいてさました。 みんな袖口をまくりあげ、 手にはバターを塗りつけてキャンディー・プルのしたくをした。 反対したイライザ・ジェインまでが、やはり手にバターを塗っている。 その間ずっと、ルーシイはアルマンゾをキーキーと呼びたてていた。 アルマンゾは、キャンディーがほどよくさめたかどうか見にポーチに出ていき、 自分の豚にもすこしわけてやってもいいだろうと思った。 キャンディーはもうさめていた。 誰も見ていないので、やわらかい茶色のキャンディーをひとつかみとると、 ルーシイの大きくあけた口に、ポーチの端からポンとほうりこんでやった。 いよいよキャンディー・プルがはじまった。 みんなバターを塗った手でやわらかいキャンディーをギューッと引っぱってつかみあげ、 細長くなったのをふたつ折りにし、またギュッとのばした。 そうやって引っぱるたびに、ひとくち口にいれる。 そのキャンディーはものすごくべたついた。 歯にくっつき、指にも顔にもべたべたつき、 どういうわけか髪の毛にまでくっついてしまい、 アルマンゾが床に落とすと、べったりはりついてとれなくなった。 いつもは、はじめはべたべたしても、じきにかたくなってカリカリしてくるのに、 これはそういかないのだ。 みんな、何度となくふたつ折りにしてはギュッとのばしてみた。 いつまでたってもキャンディーはやわらかくてべたべたしていた。 寝る時間はとっくにすぎてしまい、とうとうみんなあきらめて寝にいったのだった。 ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
by foodscene
| 2012-07-16 15:59
| アメリカ
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