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農場の少年 6 Candy Pull

「ねえ、アイスクリームをつくろうや!」ローヤルが大声をあげた。
イライザ・ジェインは、アイスクリームが大すきなのだ。
ちょっとためらったが、「そうねえ…」という。

ローヤルのあとからアルマンゾは氷蔵へ駆けていった。
ふたりでおがくずから氷をひとかたまり掘りだすと、
穀物をいれる麻袋にいれた。
その袋を裏ポーチにおいて、手斧でたたいて氷をくだいた。

タマゴのしろみを深皿で泡だてながら、アリスが外へ出てきてそれをながめていた。
アリスはフォークでしろみを細かくくだいて、
深皿をかたむけても流れおちなくなるほどかたく泡だてた。

イライザ・ジェインはミルクとクリームをカップではかり、
食料部屋の樽の砂糖をすくい入れた。
それはふだんづかいのメイプル・シュガーではなく、
店で買った白砂糖だった。

母さんはお客さんのときにしか使わないのだ。
イライザ・ジェインはカップにたっぷり六ぱい分すくいとると、
残りの砂糖を平らにならしてあとでわからないようにした。

イライザ・ジェインは、大きな乳桶一ぱいの黄色いアイスクリームのもとをつくった。
その桶をたらいのなかに据え、そのまわりにごく細かくくだいた氷を塩をふりながらつめ、
上からすっぽり毛布をかぶせた。
二、三分おきにその毛布をどけて、桶のふたをとり、
かたまりかけのアイスクリームをかきまわした。

アイスクリームができあがると、
アリスがお皿とスプーンを持ってきて、
アルマンゾは大きなケーキと肉切り包丁をもちだしてきた。
アルマンゾはケーキをとてつもなく大きく切りわけ、
イライザ・ジェインがお皿に山盛りにアイスクリームを盛りつけた。
みんな心ゆくまでアイスクリームとケーキが食べられた。
誰もとめる人がいないのだから。

正午になると、みんなは残りのケーキ全部と、アイスクリームをほとんど食べてしまった。
イライザ・ジェインは昼ごはんのしたくをしなくてはといったが、
誰も昼ごはんあんか食べたくないというのだった。

アルマンゾはいった。
「食べたいのはスイカだけだ」
アリスはパッと立ちあがる。
「そうだっ!とりに行ってこようよ!」

***
アリスとアルマンゾは、暑いスイカ畑へはいっていった。
しおれかかったひらたい葉の上に、
スイカはコロコロならんでいた。
アルマンゾはその緑の皮を指ではじいて、耳をすます。

よく熟しているときには、じゅくした音がするし、
まだ若いとわかい音がするのだ。

***
そこで、結局、ふたりはいちばん大きいのを六個とって、
ひとつずつ氷蔵に運びこみ、しめった冷たいおがくずの上にのせた。

そのあと、アリスは朝の食事のあとかたづけに家へゆき、
アルマンゾは自分は何もしないつもりだといった。
***
台所では、イライザ・ジェインとローヤルが、キャンディーのことで口あらそいをしていた。
ローヤルはキャンディー・プルをしたいといい、
イライザ・ジェインはそれは冬の夜だけのものだというのだ。

ローヤルは、キャンディー・プルは夏だってしてわるいはずはないといっている。
アルマンゾも同じ意見だった。
そこでなかへはいってローヤルの味方をした。

キャンディー・プルをするためには、まず熱くとけたキャンディーをつくらなければならない。
アリスはその作りかたを知っているといった。
イライザ・ジェインは反対した手前つくろうとしない。

それで、アリスが砂糖と糖蜜(モラセス)をまぜ、
火にかけて煮たてた。
それから、バターを塗った深皿に、とけたキャンディーを流しこみ、
ポーチにおいてさました。

みんな袖口をまくりあげ、
手にはバターを塗りつけてキャンディー・プルのしたくをした。
反対したイライザ・ジェインまでが、やはり手にバターを塗っている。

その間ずっと、ルーシイはアルマンゾをキーキーと呼びたてていた。
アルマンゾは、キャンディーがほどよくさめたかどうか見にポーチに出ていき、
自分の豚にもすこしわけてやってもいいだろうと思った。

キャンディーはもうさめていた。
誰も見ていないので、やわらかい茶色のキャンディーをひとつかみとると、
ルーシイの大きくあけた口に、ポーチの端からポンとほうりこんでやった。

いよいよキャンディー・プルがはじまった。
みんなバターを塗った手でやわらかいキャンディーをギューッと引っぱってつかみあげ、
細長くなったのをふたつ折りにし、またギュッとのばした。
そうやって引っぱるたびに、ひとくち口にいれる。

そのキャンディーはものすごくべたついた。
歯にくっつき、指にも顔にもべたべたつき、
どういうわけか髪の毛にまでくっついてしまい、
アルマンゾが床に落とすと、べったりはりついてとれなくなった。
いつもは、はじめはべたべたしても、じきにかたくなってカリカリしてくるのに、
これはそういかないのだ。

みんな、何度となくふたつ折りにしてはギュッとのばしてみた。
いつまでたってもキャンディーはやわらかくてべたべたしていた。
寝る時間はとっくにすぎてしまい、とうとうみんなあきらめて寝にいったのだった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
by foodscene | 2012-07-16 15:59 | アメリカ


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