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農場の少年  7 豊かな感謝祭

その日、また、アイスクリームをみんなで作った。
アリスはパウンドケーキの作りかたを知っているというのだ。
まずパウンドケーキを作り、それから客間へ行ってすわるのだという。

午後になると、アルマンゾは、パウンドケーキが焼けたかどうか見に、
台所へはいっていった。
アリスがちょうど天火からそれを出しているところだった。
すごくいい匂いなので、アルマンゾははじっこをちょっと失敬した。
すると、アリスが、欠けた所をごまかすためにひと切れ切り、
それからもうふた切れ、最後のアイスクリームといっしょに食べた。

「もっとアイスクリームをつくれるけど」アリスはいった。
イライザ・ジェインは二階にいる。
で、アルマンゾはいった。
***
ちょうど十時ごろ、母さんが食事を知らせるときにつかうラッパを吹いた。
アルマンゾは、それがなんの合図か知っていた。
フォークを地面につっ立てると、走ったりスキップしたりして牧草地を家までとんでいった。
裏のポーチでは、牛乳桶にあふれるほど冷たいエッグ・ノッグをいれたのを手に、
母さんが待っていた。

エッグ・ノッグは、ミルクとクリームにタマゴと砂糖をたっぷり入れてつくるのだ。
上のよく泡のたったところには香料がケシ粒のように浮んでいて、
氷のかけらがあちこちに見えていた。
牛乳桶の外側は、露がびっしりついている。

アルマンゾは、その重い桶をさげひしゃくを持って、
草狩り場までよろよろ歩いていった。

ふとアルマンゾは思うのだった。
桶には縁までいっぱいエッグ・ノッグがはいっているから、
もしかするとすこしこぼれてしまうかもしれない。
母さんは、もったいないからすこしでもむだにしないようにといったのだ。
たしかにひとしずくでもむだにしたら、とてももったいない。
だから、なんとかしなくては。

そこで、アルマンゾは、桶を置いて、ひしゃく一ぱいすくうと、
エッグ・ノッグを飲んだ。
冷たいエッグ・ノッグはのどをするっと通っていき、
からだの芯がずっとすずしくなった。

草狩り場へつくと、みんなが仕事の手をとめた。
カシの木の日かげに立って、帽子を押しあげ、
順ぐりにひしゃくを手わたしながら、エッグ・ノッグがすっかりなくなるまで飲んでしまった。
アルマンゾも自分のはたっぷり飲んだ。

いまは、そよ風までがすずしく感じられ、レイズィー・ジョーンは口ひげについた泡をふきながらいった。
「ああ、うまかった!これで生きかえったよ!」

ここで、父さんたちは大鎌を砥いだ。
グラインダーは鎌の刃に陽気な音をたてた。
そして、みんな元気いっぱいで仕事にもどっていったのだ。
父さんは、午前と午後に休んでエッグ・ノッグをたっぷり飲めば、
一日分の仕事をうわまわるくらいの働きができるのだと、いつもいっていた。

***
いまは誰も休む暇もあそぶ暇もなかった。
ロウソクの火をつけて起きだし、
ロウソクをつけるまで働いた。

母さんと女の子たちは、キュウリのピクルス、あおいトマトのピクルス、スイカの皮のピクルスをつくっている。
トウモロコシを粒にして干したり、リンゴを切って干したり、
プリザーブをつくったりもしている。
何もかも手ぎわよく保存しなければならないのだ。
夏の恵みのすべてを、すこしでもそまつにはできない。

リンゴの芯までが、酢をつくるためにとっておかれたし、
カラス麦の麦わらの束も裏ポーチのたらいにつけてあった。
母さんは、ほんのちょっとでも暇があると、来年の夏の帽子をつくるために、
カラス麦のわらを一インチでも二インチでも編んでおくのだった。

***
ジャガイモは、外側は真黒にこげていたが、なかは白くてほくほくしていて、
ものすごく香ばしいまる焼きジャガイモの匂いがパーッとたちのぼった。
ふたりは、ちょっとさましてから、こげた皮のなかがわを歯ですくうようにして食べていったが、
そのおいしさといったら、生まれてはじめてのような気がした。
すっかり元気がでて、ふたりはまた仕事にもどっていった。

***
教会の食堂はもう人でいっぱいだった。
長いテーブルのどの席もふさがっていて、イライザ・ジェインとアリスはほかの女の子たちにまじって、
台所から山盛りの大皿を運ぶのにおおいそがしだった。
ありとあらゆるいい匂いがしてきて、
アルマンゾはおもわずつばをのみこんだ。

父さんが台所へはいっていくのについて、アルマンゾもなかへはいっていった。
台所は女の人でいっぱいだった。
せかせかとゆでハムやロースト・ビーフをうすく切ったり、
ロースト・チキンを切りわけたり、野菜を盛りつけたりしている。
母さんは、ものすごく大きな料理用ストーブの天火をあけて、
ローストした七面鳥やカモをとりだしていた。

壁ぎわに三つの大樽がおいてあり、
ストーブの上で煮たっている大釜から、長い鉄のパイプが樽のなかへはいっていた。
樽のすき間というすき間からは、湯気がプープーふきだしていった。
父さんがひとつの樽の蓋をぎゅっとまわしてあけると、
湯気がもうもうとあがった。
アルマンゾがのぞいてみると、なかは、ホカホカ湯気をたてているきれいな茶色の皮つきのジャガイモで、
いっぱいになっていた。
外の空気があたると、皮がはじけ、くるっとめくれて白いなかみがのぞく。

アルマンゾのまわりには、いろいろな種類のケーキやパイがずらっとならんでいて、
おなかがペコペコなので、それを全部でも食べられそうな気がする。
けれど、もちろん、たったひとかけらにでも、アルマンゾは手をだしたりはしなかった。

やっと、アルマンゾと父さんも食堂の長いテーブルの席にありついた。
誰も彼も、笑ったりしゃべったり、とてもたのしそうだったが、
アルマンゾはただ夢中で食べていた。

ハム、チキン、七面鳥にそのつめものだのジェリイだのをそえて食べた。
ジャガイモには肉汁をかけ、豆とトウモロコシの煮たの、
ベイクド・ビーンズ、豆の煮こみ、タマネギなどを、白パンやインディアン風カラス麦パン、
ライ・アン・インジュンをそえて食べ、あまいピクルスだのジャムだのプリザーブを食べた。
ここでひと息ついて、こんどはパイを食べだした。

パイを食べはじめてみて、アルマンゾはほかのものは何も食べなければよかったと後悔した。
パンプキン・パイをひときれ、カスタード・パイもひときれ、
そして、タマゴのかわりに酢をつかった皮でつくったヴィニガー・パイもほとんどひときれ食べてしまった。
干しブドウやリンゴをひき肉にまぜて香料をいれたミンス・パイにも手をだしたが、
さすがに食べきれなかった。
まだほかに、ベリイ・パイ、クリーム・パイ、レイズン・パイなどおいしそうなパイがあったが、
なんとしてももう食べられない。
アルマンゾのおなかは、いまにもはち切れそうだった。


ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
by foodscene | 2012-08-06 16:00 | アメリカ


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