その日、また、アイスクリームをみんなで作った。
アリスはパウンドケーキの作りかたを知っているというのだ。 まずパウンドケーキを作り、それから客間へ行ってすわるのだという。 午後になると、アルマンゾは、パウンドケーキが焼けたかどうか見に、 台所へはいっていった。 アリスがちょうど天火からそれを出しているところだった。 すごくいい匂いなので、アルマンゾははじっこをちょっと失敬した。 すると、アリスが、欠けた所をごまかすためにひと切れ切り、 それからもうふた切れ、最後のアイスクリームといっしょに食べた。 「もっとアイスクリームをつくれるけど」アリスはいった。 イライザ・ジェインは二階にいる。 で、アルマンゾはいった。 *** ちょうど十時ごろ、母さんが食事を知らせるときにつかうラッパを吹いた。 アルマンゾは、それがなんの合図か知っていた。 フォークを地面につっ立てると、走ったりスキップしたりして牧草地を家までとんでいった。 裏のポーチでは、牛乳桶にあふれるほど冷たいエッグ・ノッグをいれたのを手に、 母さんが待っていた。 エッグ・ノッグは、ミルクとクリームにタマゴと砂糖をたっぷり入れてつくるのだ。 上のよく泡のたったところには香料がケシ粒のように浮んでいて、 氷のかけらがあちこちに見えていた。 牛乳桶の外側は、露がびっしりついている。 アルマンゾは、その重い桶をさげひしゃくを持って、 草狩り場までよろよろ歩いていった。 ふとアルマンゾは思うのだった。 桶には縁までいっぱいエッグ・ノッグがはいっているから、 もしかするとすこしこぼれてしまうかもしれない。 母さんは、もったいないからすこしでもむだにしないようにといったのだ。 たしかにひとしずくでもむだにしたら、とてももったいない。 だから、なんとかしなくては。 そこで、アルマンゾは、桶を置いて、ひしゃく一ぱいすくうと、 エッグ・ノッグを飲んだ。 冷たいエッグ・ノッグはのどをするっと通っていき、 からだの芯がずっとすずしくなった。 草狩り場へつくと、みんなが仕事の手をとめた。 カシの木の日かげに立って、帽子を押しあげ、 順ぐりにひしゃくを手わたしながら、エッグ・ノッグがすっかりなくなるまで飲んでしまった。 アルマンゾも自分のはたっぷり飲んだ。 いまは、そよ風までがすずしく感じられ、レイズィー・ジョーンは口ひげについた泡をふきながらいった。 「ああ、うまかった!これで生きかえったよ!」 ここで、父さんたちは大鎌を砥いだ。 グラインダーは鎌の刃に陽気な音をたてた。 そして、みんな元気いっぱいで仕事にもどっていったのだ。 父さんは、午前と午後に休んでエッグ・ノッグをたっぷり飲めば、 一日分の仕事をうわまわるくらいの働きができるのだと、いつもいっていた。 *** いまは誰も休む暇もあそぶ暇もなかった。 ロウソクの火をつけて起きだし、 ロウソクをつけるまで働いた。 母さんと女の子たちは、キュウリのピクルス、あおいトマトのピクルス、スイカの皮のピクルスをつくっている。 トウモロコシを粒にして干したり、リンゴを切って干したり、 プリザーブをつくったりもしている。 何もかも手ぎわよく保存しなければならないのだ。 夏の恵みのすべてを、すこしでもそまつにはできない。 リンゴの芯までが、酢をつくるためにとっておかれたし、 カラス麦の麦わらの束も裏ポーチのたらいにつけてあった。 母さんは、ほんのちょっとでも暇があると、来年の夏の帽子をつくるために、 カラス麦のわらを一インチでも二インチでも編んでおくのだった。 *** ジャガイモは、外側は真黒にこげていたが、なかは白くてほくほくしていて、 ものすごく香ばしいまる焼きジャガイモの匂いがパーッとたちのぼった。 ふたりは、ちょっとさましてから、こげた皮のなかがわを歯ですくうようにして食べていったが、 そのおいしさといったら、生まれてはじめてのような気がした。 すっかり元気がでて、ふたりはまた仕事にもどっていった。 *** 教会の食堂はもう人でいっぱいだった。 長いテーブルのどの席もふさがっていて、イライザ・ジェインとアリスはほかの女の子たちにまじって、 台所から山盛りの大皿を運ぶのにおおいそがしだった。 ありとあらゆるいい匂いがしてきて、 アルマンゾはおもわずつばをのみこんだ。 父さんが台所へはいっていくのについて、アルマンゾもなかへはいっていった。 台所は女の人でいっぱいだった。 せかせかとゆでハムやロースト・ビーフをうすく切ったり、 ロースト・チキンを切りわけたり、野菜を盛りつけたりしている。 母さんは、ものすごく大きな料理用ストーブの天火をあけて、 ローストした七面鳥やカモをとりだしていた。 壁ぎわに三つの大樽がおいてあり、 ストーブの上で煮たっている大釜から、長い鉄のパイプが樽のなかへはいっていた。 樽のすき間というすき間からは、湯気がプープーふきだしていった。 父さんがひとつの樽の蓋をぎゅっとまわしてあけると、 湯気がもうもうとあがった。 アルマンゾがのぞいてみると、なかは、ホカホカ湯気をたてているきれいな茶色の皮つきのジャガイモで、 いっぱいになっていた。 外の空気があたると、皮がはじけ、くるっとめくれて白いなかみがのぞく。 アルマンゾのまわりには、いろいろな種類のケーキやパイがずらっとならんでいて、 おなかがペコペコなので、それを全部でも食べられそうな気がする。 けれど、もちろん、たったひとかけらにでも、アルマンゾは手をだしたりはしなかった。 やっと、アルマンゾと父さんも食堂の長いテーブルの席にありついた。 誰も彼も、笑ったりしゃべったり、とてもたのしそうだったが、 アルマンゾはただ夢中で食べていた。 ハム、チキン、七面鳥にそのつめものだのジェリイだのをそえて食べた。 ジャガイモには肉汁をかけ、豆とトウモロコシの煮たの、 ベイクド・ビーンズ、豆の煮こみ、タマネギなどを、白パンやインディアン風カラス麦パン、 ライ・アン・インジュンをそえて食べ、あまいピクルスだのジャムだのプリザーブを食べた。 ここでひと息ついて、こんどはパイを食べだした。 パイを食べはじめてみて、アルマンゾはほかのものは何も食べなければよかったと後悔した。 パンプキン・パイをひときれ、カスタード・パイもひときれ、 そして、タマゴのかわりに酢をつかった皮でつくったヴィニガー・パイもほとんどひときれ食べてしまった。 干しブドウやリンゴをひき肉にまぜて香料をいれたミンス・パイにも手をだしたが、 さすがに食べきれなかった。 まだほかに、ベリイ・パイ、クリーム・パイ、レイズン・パイなどおいしそうなパイがあったが、 なんとしてももう食べられない。 アルマンゾのおなかは、いまにもはち切れそうだった。 ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
by foodscene
| 2012-08-06 16:00
| アメリカ
|
カテゴリ
全体 日本 中国 フランス アメリカ ノンフィクション日本 ノンフィクション・アメリカ 食堂 ギリシャ イタリア テヘラン インド イギリス 韓国 ヴェトナム ロシア オーストリア フィンランド アイルランド My America Books me 学習 ドイツ 香港 English メキシコ 東南アジア GOD オーストラリア ノンフィクション・イギリス 未分類 以前の記事
2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 04月 2009年 02月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 08月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 02月 2007年 03月 2007年 02月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 メモ帳
検索
その他のジャンル
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||