アルマンゾはインディアンごっこにあきると、アリスとならんで丸木に腰かけ、
ブナの実を歯で割った。 ブナの実は三つ角があって、小さくてピカピカした黄色なのだ。 殻は小さいけれど、なかにはびっしり実がつまっている。 とにかくとてもおいしいので、いくら食べてもあきないほどだった。 アリスはともかく、アルマンゾは、ワゴンが帰ってくるまで、 食べつづけに食べていてもあきないのだった。 *** 午後ずっと、父さんたちは肉を切り分けることをつづけ、 ローヤルとアルマンゾはそれをそれぞれの置場に運んだ。 脂身のブタ肉は、地下室の樽のなかに塩にまぶしておさめた。 尻肉と肩肉は、茶色のポーク・ピックルの桶に、 はねかさないようにそっとすべらせて入れた。 ポーク・ピックルは、母さんが塩とメイプル・シュガーと硝石に水をくわえて、 煮たててつくっておいたのだ。 その強い匂いをかぐと、いまにもくしゃみがでそうな気がする。 骨つきあばら肉、背骨、肝臓、舌、そしてソーセージにするこまかい肉は、 ぜんぶ薪部屋の屋根裏に運びあげなければならなかった。 父さんとジョウは、牛肉の四分の一もそこへつるしたのだった。 その肉は屋根裏で凍ってしまい、冬じゅうそのまま冷凍されたままでいるのだ。 晩までには何もかもが片づいてしまった。 フレンチ・ジョウとレイズィー・ジョーンは、 その日の日当にあたらしい肉をもらって、 口笛を吹きながら帰っていった。 母さんは夕食に骨つきあばら肉(スペヤー・リブ)を天火で焼いてくれた。 長くひらたい、反りのある骨にくっついた肉を、 かじったりしゃぶったりするのがアルマンゾは大すきだった。 なめらかなマッシュポテトにかかっているとび色の豚の肉汁もおいしかった。 つぎの週はずっと、母さんと女の子たちは働きどおしで、 母さんはいつもアルマンゾを台所にいさせて、用をいいつけた。 いちばんはじめはラードづくりだった。 豚の脂を小さく切って、ストーブにかけた大きな鍋で煮たてる。 脂がとけきると、母さんは白い布で漉して、よく澄んだ熱いラードを大きな石の瓶に流しこむのだ。 母さんがラードをしぼりきると、布のなかには、 カリカリした、茶色のしぼりかすが残る。 アルマンゾは、すきを見ては、それをふたつ三つつまんでこっそり食べるのだ。 母さんは、油っこすぎるからと、アルマンゾに食べさせてはくれないのだった。 母さんは、このしぼりかすを、トウモロコシパンの味つけにするのにとっておくのだ。 つぎに、母さんは頭肉チーズをつくった。 母さんは、まず、六つ分の頭を、肉が骨からはなれるまでよくゆでた。 その肉をこまかくきざみ、味つけをして、そこへゆで汁をくわえて、 六クォート入りの平鍋に流しこんだ。 よくさめると、プルプルしたジェリイのようになる。 骨からゼラチンがでるからだった。 つぎに、母さんは、ミンス・パイなどにつかうミンス・ミートをつくった。 牛肉と豚肉のくず肉のなかでいちばんいいところをよって、 ゆでてからごく細かくきざんだ。 それに、レイズンや香料や砂糖や酢やリンゴのきざんだものにブランデイもいれてよくまぜあわせ、 大きな瓶ふたつに、そのミンス・ミートをつめた。 匂いだけでもすばらしくおいしそうなのを、ボールにくっついて残ったのを母さんは アルマンゾに食べさせてくれた。 母さんがそうやってつぎつぎにいろいろつくっている間にずっと、 アルマンゾはソーセージにする肉を挽いていたのだ。 山のような肉のきれっぱしを、あとからあとから肉挽き器のなかに押しこんでは、 ぐるぐる、ぐるぐる、何時間もハンドルをまわしつづけていた。 やっとそれが終わると、アルマンゾはやれやれという気がした。 母さんは、その肉に味つけをして大きな玉にまるめた。 アルマンゾはその玉をぜんぶ薪部屋の屋根裏まで運んで、きれいな布の上に積みあげさせられたのだった。 冬じゅう、ソーセージはそこで凍っていて、 毎朝、母さんはその玉のひとつをいい形に切り分けて、朝食にいためてだすのだ。 *** 台所には、おいしそうな匂いがたちこめていた。 焼きたてのパンが台の上でさましてあり、食料部屋の棚には、粉砂糖で飾ったケーキや、クッキーや、 ミンス・パイやアップル・パイがならんでいるし、ストーブの上ではツルコケモモの実がグツグツ煮えていた。 母さんは、ガチョウのローストにかける特別のソースをつくっていた。 *** アルマンゾは、もう一度靴下に手をつっこんで、 五セントはするにがはっかあめ(ホアー・ハウンド・キャンディー)の束をひっぱりだした。 その一本の先をかじってみる。 外側はカエデ糖のようにすぐ口のなかでとけてしまったが、なかはかたくて、 いくらなめてもなくなりそうもなかった。 つぎに出てきたのは、あたらしいミトンだった。 母さんは、手首と甲は、手のこんだ編みかたをして仕上げてくれたのだ。 そのつぎにはオレンジが、そして、そのあとから干しイチジクの小さな包みが出てきた。 ** クリスマスの日なので、感謝の祈りはいつもより長かった。 けれど、とうとうお祈りもすみ、アルマンゾは目をあけることができた。 そのまま、だまってテーブルをじっと見つめている。 藍色の大皿にのって、口にリンゴをくわえた、カリッと焼きあがった小豚をまず見つめる。 足をぐっとつきたてた、よく肥えたガチョウと、それにかけたとろっとしたソースの端っこが 大皿にひろがっているのを見つめる。 父さんが砥石でナイフをとぐ音がきこえると、ますますおなかがすいてきた。 こんどは、大きな鉢にはいったツルコケモモのジェリイや、 マッシュポテトのふわふわした山にバターがとけて流れていくのをながめた。 山のような大カブのマッシュ、金色の、天火で焼いたカボチャ、それにうす黄色のパースニップのいためたのも見る。 アルマンゾは、ぐっとつばをのみこみ、もう見るのをやめようと思った。 でも、リンゴとタマネギのいためたのや、砂糖煮のニンジンなどがどうしても目にはいってくる。 それに、自分のすぐ前におかれた、三角に切ったパイには目が吸いよせられてしまうのだった。 香料のきいたパンプキン・パイ、とろっとしたクリームのパイ、 ミンス・パイの何枚も何枚も重なった皮の間からは、 こってりした濃い茶色のなかみがはみだしている。 アルマンゾは、両手を膝にはさんで、ギュッとしめつけた。 黙ってじっと待っていなければならないのだが、 おなかの虫がキューキュー鳴っているのだ。 テーブルの上座にすわったおとなたちに、先に料理を盛りつけるのがきまりだった。 おとなたちは、手から手へお皿をわたし、しゃべったり、 アルマンゾの気も知らないで、笑ったりしている。 父さんの大きなナイフが動くたびに、やわらかい豚肉がひと切れずつ大皿におちた。 ガチョウの白い胸肉が切りとられてゆくのにつれ、 骨がだんだん見えてくる。 すきとおったクランベリイのジェリイをスプーンが容赦なくすくいあげ、 マッシュポテトのなかにもぐってつっこまれ、茶色のグレイビイもどんどんへっていく。 やっと、アルマンゾのお皿に盛りつけてもらえた。 ひと口ほおばっただけで、なんともいい気分がからだのなかにひろがり、 夢中で食べつづけている間、ますますそれは強まっていった。 アルマンゾは、もうこれ以上はむりというほど食べつづけ、 満ちたりた気分でいっぱいになった。 それでもまだ、しばらくふたつめのフルーツケーキをちょびちょびかじっていたが、 その食べかけをポケットにつっこんで、外にあそびに出ていった。 *** アルマンゾはだまって食べつづけていた。 もちろん、父さんたちの話をきいてはいたが、 ロースト・ポークとアップル・ソースの味を、たっぷり楽しんでいたのだ。 冷たいミルクをぐうっと飲み、ふうっと息をつくと、 ナプキンを衿もとに押しこみ、パンプキン・パイに手をのばした。 金茶色のカボチャの、香味と砂糖で濃く色がついた、 プルプルしている三角の先っぽをフォークで切りとった。 それは舌の上でとろっととけ、口も鼻も香味のいい匂いでいっぱいになった。 ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
by foodscene
| 2012-09-11 16:49
| アメリカ
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