かあさんとローラとメアリイは、馬車のなかで、パンと糖みつを食べ、
馬たちが、鼻先にぶらさげたかいばぶくろのトウモロコシを食べている間に、 とうさんは、店のなかで、冬の間にとった毛皮を、旅で必要な品物と交換していました。 *** つぎに、とうさんはまたクリークへおりていって、 水をくんできました。 その間に、メアリイとローラは、かあさんの夕ごはんのしたくを手つだいます。 かあさんが、コーヒー挽きのなかにコーヒー豆をはかっていれ、 メアリイがそれを挽きます。 ローラは、コーヒー・ポットに、とうさんの運んできた水をいれ、 かあさんがそのポットを石炭の上にかけました。 かあさんは、鉄の天火も、やはり石炭の上にのせます。 それがあたたまる前に、かあさんはひきわりトウモロコシに塩と水を入れてこね、 小さくまるめます。 ラードをとったあとのブタの脂かすで、あたたまった天火に油をひくと、 その上にひきわりトウモロコシをまるめたのをならべ、鉄のふたをしました。 つぎに、とうさんは、そのふたの上にもよくおこった石炭をのせます。 かあさんは、その間に、脂身のたっぷりついた塩づけのブタをうすく切りわけました。 それを「スパイダー」で、あぶります。 石炭のなかに立てられるように、みじかい脚が何本かついているので、 それにはクモという名がついているのです。 もしその脚がなければ、あたりまえのフライパンとおなじなのです。 コーヒーがわき、ひきわりトウモロコシのパンも焼け、 肉もジュージューいっていて、 何もかもとてもおいしいにおいをたてているので、 ローラはおなかがグーグーいってきました。 とうさんは、火のそばに、馬車の座席をはずしてもってきました。 とうさんとかあさんはそれにすわり、 メアリイとローラは、馬車の前につきでたながえにすわりました。 みんなそれぞれ、ブリキの皿と、白い骨製の柄がついたナイフとフォークをつかうのです。 とうさんもかあさんも、それぞれブリキのコーヒー茶わんをもち、 赤ちゃんのキャリーも自分用のをもっていましたが、 メアリイとローラは、ふたりでひとつをかわりばんこにつかわなければなりませんでした。 メアリイとローラは、ただのお湯をのみます。 おとなになるまで、コーヒーは飲ませてもらえないのです。 夕ごはんを食べている間に、キャンプの火のまわりには、 うすむらさきの闇がこくなり、とほうもなく広い大草原は、もうまっくらで、 しんと静まりかえっていました。 風が草の間をこっそりとおりぬけていき、大きな空には、大きな星が、 すぐ手のとどきそうな所にキラキラかがやいているだけです。 はてしなく広がっている、肌寒い闇のなかで、 あかあかと燃えているキャンプの火は、心をなごませてくれました。 うすく切ったブタ肉は、脂がたっぷりあって、歯ごたえよくカリカリッと焼けていて、 ひきわりトウモロコシのパンもとてもおいしくできていました。 馬車のむこうの闇のなかで、ペットとパティーも、おなかいっぱい食べています。 草をかみちぎる音が、パリパリきけおてきます。 *** ベーコンとコーヒーのにおいがしていて、 ホットケーキがジュージュー焼ける音がきこえてきました。 ふたりはベッドをぬけだします。 *** したくができると、みんなきれいな草の上にすわり、 ひざにおいたブリキのお皿でホットケーキとベーコンと糖みつを食べました。 *** ローラは、自分が食べているときに、ジャックに何かやってはいけないといわれていましたが、 自分の分のなかからすこしずつジャックのためにとっておきます。 そして、かあさんは、残っていた材料をぜんぶつかって、 ジャックのために大きなホットケーキをつくってやりました。 *** メアリイがつんだ花も、ローラのも、かあさんはおなじように、 とてもきれいだとほめてくれました。 そして、水をいっぱい入れたブリキのカップにいっしょにしていれました。 それを馬車の踏段にのせ、キャンプのかざりにします。 それから、きのう焼いたトウモロコシの焼パンを二切れきって、 それに糖みつをぬると、メアリイとローラにひとつずつくれました。 それがふたりのお昼でしたが、とびきりおいしいのです。 *** 「なあ、キャロライン、ここにはほしいものはなんでもあるよ。 それこそ王者のように暮らせるってものさ」 その日の夕ごはんは、たいしたごちそうでした。 露天の炉のそばにすわって、やわらかくて香ばしいおいしい肉を、おなかいっぱい食べました。 もうそれ以上食べられなくなってお皿をおいたローラは、 みちたりたため息をつきます。 もう何もいらないほどしあわせな気持ちでした。 ** ひきわりトウモロコシのマッシュに、草原ライチョウの肉汁をそえた朝ごはんをすますと、 ふたりは大急ぎで、かあさんのお皿あらいを手つだいました。 *** エドワーズさんは、もう用もないから帰るといいましたが、 とうさんとかあさんは、ぜひ夕食をしていくようにととめました。 かあさんは、そのつもりで、お客さんをもてなすために、 とくべつ上等の夕食をしたくしていたのです。 メリケン粉のむしだんごと、たっぷり肉汁をそえたウサギ肉のシチューがありました。 ベーコンの脂で香りをつけた、フーフーいうほど熱いあつやきのトウモロコシパンがありました。 トウモロコシパンにつけるように、糖みつがそえてありましたが、 これはお客さまもいっしょの食事なので、コーヒーには糖みつはつかわないのです。 かあさんは、店で買ったうす茶色の砂糖のはいった小さな紙ぶくろをだしてきました。 エドワーズさんは、こんなにおいしい夕食をごちそうになって、ほんとうにうれしいといいました。 *** そして、コーヒー・ポットと足つきフライパンのまわりに石炭をかきおこし、 天火の上にもよくおきた石炭をのせました。 草原ライチョウの肉は足つきフライパンの上でジュージューいいだし、 ひきわりトウモロコシの焼きパンからはいいにおいが立ちのぼりはじめました。 けれど、料理をしながらも、かあさんは、まわりの大草原の四方八方に目をくばっています。 *** 朝ごはんのしたくができました。 とうさんがクリークからもどると、みんな炉のまわりにすわって、 焼いたマッシュポテトと草原ライチョウの煮こみを食べました。 ワイルダー著 恩地三保子訳「大草原の小さな家」
by foodscene
| 2012-10-02 15:07
| アメリカ
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