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食べて、祈って、恋をして インド、インドネシア

夕食の時間。
わたしはひとりでテーブルにつき、ゆっくり食べようと試みていた。
食べることも修行のうちだとグルは言っている。
食事の量は控えめに。
掻きこむような食べ方をしてはいけない。
消化器官に大量の食べ物を短時間で流しこむことが、
身体のなかの聖なる火を消してしまうかもしれないからだ。

瞑想がうまくいかないと弟子たちが不満をこぼすと、
グルはつねに、最近の消化の具合はどうかと尋ねる。
ソーセージ入りカルツォーネや、1ポンドのバッファロー・ウィングや、
ココナッツ・クリーム・パイ半ピースを消化器官が必死に掻き回しているようでは、
瞑想をしても超越の境地にたやすく入れないのも当然だからだ。

もちろん、アシュラムではそのような食事は出されない。
ここでの食事は軽くて健康的な菜食ばかり。
それでも味はおいしいので、飢えた子のようにがつがつ食べるなと言われても、
けっこうむずかしい。

さらにビュッフェ形式をとっているので、
おいしそうな料理がいい匂いを漂わせて眼の前に並べられ、
しかも追加料金がないという状態で、
二度め、三度めのお代わりを我慢するのも容易ではない。

***

サムズアップはインドの清涼飲料水で、味はコーラに似ている。
しかし、甘みはコーラの9倍、カフェインは3倍だ。
そのうえ中枢神経興奮剤(メタンフエミタン)まで入っているのではないかと、
わたしは疑っている。
飲むと、ものが二重に見える。

週に数回、リチャードとわたしは村に出ていって、
サムズアップの小瓶を分け合って飲む。
アシュラムの正統なベジタリアン・フードに慣れた身体には
かなり刺激的な飲み物だ。

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部屋からは熱帯の木々が眺め渡せる。
新鮮なトロピカル・フルーツたっぷりの朝食をとることもできる。
つまり、ウブドというのはこれまで滞在したなかで
最もすばらしい土地のひとつで、しかも、宿泊費は1日に10ドルとかからない。

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食事は1日1回、米と魚か鶏の料理をひと皿に盛りつけた、
ごくふつうのバリの食事をとる。
毎日、砂糖を入れて飲む1杯のコーヒーが好物で、
コーヒーと砂糖を味わえる喜びを祝っているかのようにそれを飲む。

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翌朝の月曜日、わたしが訪ねていくと、ニョモが、
ジャムの瓶に熱いコーヒーを入れて運んできた。
陶製皿に瓶を載せ、彼女がいつもいる台所からクトゥのいる玄関先まで、
足を引きずりながらゆっくりと中庭を横切ってくるその姿を見たとき、
わたしはてっきり彼女が夫に飲み物を運んできたのだと思った。

ところが、クトゥはその日、すでにコーヒーを飲んでいた。
そのコーヒーはわたしのためのものだった。
ニョモがわたしのために淹れてくれたのだ。

わたしがお礼を言おうとすると、彼女はいかにもうっとうしそうに手を振って、
それを拒絶した。
彼女が昼食を用意するテーブルに雄鶏がのぼろうとするのを追い払うときの手つきと
そっくりだった。

でも翌日、彼女はガラス瓶に入ったコーヒーの横に砂糖のボウルを添えて
持ってきてくれた。
その翌日は、ガラス瓶のコーヒーに砂糖のボウルと、
茹でた芋がついてきた。
その週は毎日なにか新しいもてなしが加わった。

***

ワヤンが、「忘れてた!ランチを食べてもらわなければ!」と言い、
母と娘は大あわてで台所に向かった。
あの恥ずかしがり屋の少女ふたりが隠れている場所だ。
しばらくして出てきた食事は、わたしがそれまでバリで食べたなかで
最高のものだった。

トゥッティがそれぞれの料理について、
大きな笑みを浮かべ、バトントワラーにしたいような元気のよさで、
きびきびと説明してくれた。

「ターメリック、肝臓をきれいにする!」
と、彼女は高らかに宣言した。
「海草、カルシウムいっぱい!」
「トマトサラダは、ビタミンD!」
「いろんなハーブで、マラリアにかからない!」
わたしは尋ねた。
「トゥッティ、そんな上手な英語をどこで覚えたの?」
「本から!」
「あなたはとても賢いお嬢さんね」

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ウブドにはもうひとり国を離れて長いブラジル人がいて、
その男性がホストとなって、
今夜とあるレストランで特別な催しをするのだという。

豚肉とインゲン豆を煮込むブラジルの伝統的料理、
フェジョアーダをどっさりとつくって、
ブラジルのカクテルもふるまうという。

バリに暮らす世界じゅうのおもしろい人々が集まってくる。
どう?来ませんか?
そのあとは、ダンスに繰り出すの。
あなたがもしそんなパーティーが嫌いでなければ….。
カクテル?ダンス?どっさりの豚肉料理?
ええ、もちろん、行きますとも!

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ともあれ、彼のこしらえたフェジョアーダは最高に美味だった。
スパイシーで豊かなこくがあり、退廃の薫りがした。
そのどの要素も、日常的なバリの食事にはないものだ。

わたしはひと皿を平らげ、もうひと皿も平らげたあとで、
はっと気づいた。
もうお代わりはだめ、ここは自分の家じゃないんだから。
こんな料理がある限り、
わたしは菜食主義者にはなれそうもない。

*****

この渇望をなんとかしなければと、
寝間着のまま台所へ行って、
半キロ弱のジャガイモの皮を剝き、
茹でてスライスして、バターで揚げ焼きにして、
たっぷりと塩をまぶして、ひと切れ残さず平らげた。

愛の行為による充足の代わりに、どうか、この半キロ弱のフライドポテトが
もたらす満足を受け入れて、と自分の肉体にお願いしながら。

****

こうして、わたしは偽物のアメリカ式ドライブの旅に出た。
道連れは、音楽の天才にして、流浪の境遇にあるクールなインドネシア青年。
バックシートには、ギターやビールや、
バリ式ドライブの非常食ー揚げせんべいや、さまざまな風味付けをしたインドネシアの
キャンディーなど—がいっぱいだった。

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翌朝、同じ町にある家族経営の小さな食堂に入ると、
バリ人の店主が自分はタイ料理の凄腕コックだと宣言した。
料理はそれほどでもなかったが、
わたしたちは1日をそこでのんびりと過ごし、
冷えたコーラを飲み、脂っこいパッタイ(タイ風焼きそば)を食べ、
店主の息子である美少年と<ミルトン・ブラッドリー>のボードゲームを楽しんだ。

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ここが元夫と初めてディナーを食べた店。
ここが妻と出会った場所。
街でいちばんのヴェトナム料理の店はここ。
ベーグルならここ、
いちばんおいしいヌードルはここ
(「いいや、きょうだい、いちばんのヌードル・ショップはここさ」)。
わたしが懐かしい”ヘルズキッチン”地区をさらに詳しく描きだすと、
ユディが言った。
「このあたりにうまいダイナーがあるんだ」
「<ティクタク>?<ジャイアン>?<スターライト>?」
「そう、<ティクタク>だよ、あんた」
「<ティクタク>のエッグクリームは飲んだ?」
ユディがうめいた。
「もちろん。ああ、あのうまさといったら……」

******
二番めの夢は、さらに確信を深めさせる夢だった。
わたしとフェリペがニューヨークのレストランで食事をしている。
ラムチョップとアーティチョークとおいしいワインと、
おしゃべり、幸せな笑い。


エリザベス・ギルバート 那波かおり訳「食べて、祈って、恋をして」
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by foodscene | 2012-03-21 16:05 | インド

暑そう

昼食どき、街道筋でフリッターとオムレツサンドイッチを食べさせる店へ立ち寄ったのだが、
いつものツアーならカパーシーが熱い茶で一服できる楽しみな時間であるのに、
きょうばかりは中断が恨めしかった。

ダス一家が、白とオレンジの房飾りをつけた赤紫のパラソルの下に席をとり、
昔の軍人のような帽子をかぶって軍隊調に歩いているウェーターに注文を出したとき、
カパーシーは1人で隣のテーブルに向かった。

「あら、カパーシーさん、こっちに坐れるのに」と、奥さんが呼びかけた。
ご一緒してもらわなくちゃ、と言って娘を膝に引っぱり上げる。
そんなわけで全員がそろって、瓶入りのマンゴージュース、サンドイッチ、タマネギとポテトに
全粉粒の衣をつけた揚げ物を、腹に入れることになった。
食べているところを、またダス氏が写真に撮った。

(J・ラヒリ著 小川高義訳 「病気の通訳」より
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by foodscene | 2006-05-14 21:56 | インド