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永遠のとなり

卵や野菜、豆腐やしらたきなどを手早く片づけると、イチゴのパックと何やら肉の包みらしきものを両手に持ち、
あっちゃんは私を目で促してじいさんのそばに近寄った。
コタツの片側に二人並んで正座する。
「じいさん、イチゴ買って来たよ」
と坂下老人の鼻面にパックを突き出した。
白髪頭を角刈りにし、突き出した額がいかにも頑固そうな老人は、
落ち窪んだ眼窩におさまる意外に力のある目で一瞥をくれ、
「腹が冷えるけんイチゴはいらん」とぶっきらぼうに言う。

「まあそう言わんで気が向いたとき食べり。
ちゃんと洗ってヘタも剝いて冷蔵庫にしまっといちゃるけん。
たまにはビタミンCも取らんと早よボケるばい」

あっちゃんは手を引っ込めると、私が運んできたレジ袋から、
発砲酒とサントリーオールドで、それにつまみ類を取り出してコタツのテーブルに並べた。

***
「じいさん、岩田屋でうまい鶏肉も買うて来たけん、今夜はとりすきばい」
さらに肉の包みを持ち上げてみせると、
「そら、ごちそうやな」
じいさんがわずかに口の端を切り上げて笑みらしき表情を作った。

やがて始まった食事は和やかに進んでいった。
坂下老人は今年で八十とのことだったが、大した健啖家で、とりすきもどんどん食べ、
あっちゃんが買ってきたサントリーオールドの水割りをぐいぐい飲んだ。

***
「じいさん、明日の昼はこのすきやきの残りにうどんば入れればいいけん」
「わかっとる」
「イチゴもラップかけてしまっとるけん、ちゃんと食べないかんよ」
「わしはイチゴはあんまり好かん」

***
昼飯はレストラン街の「麺王国」で食べた。
あっちゃんは博多ちゃんぽん定食、私は東筑軒のかしわ飯とわかめうどんで、むろん勘定はこちらがもった。
***
真鯛のしゃぶしゃぶをメインに久美さんの手料理をご馳走になり、
遅くまで三人で過ごした。
この日ばかりは、普段の節制を解いて好物のビールをしこたま飲んだ。
***
トーストとハムエッグ、トマトサラダの朝食をとり、ゆっくり風呂に入った。
***
目の前で野菜カレーを注文している山田も一足先に辞めていった。
彼の場合は、外資系損保へそのまま横滑りしたのであったが。
同じカレーをオーダーし、ウエイトレスが置いていった水を一口飲んだ。

***
弁当もあっちゃんが二人分持ってきている。
下枝さんが今朝出勤前に作ってくれたものらしい。

ご飯は握り飯で、おかかご飯を海苔で包んだもの、焼き辛子明太子入り、梅干入りがそれぞれ一つずつ。
おかずは、フグの唐揚、玉子焼き、ポテトサラダだった。
デザートは小さなリンゴが二個。
「下枝はあんまり料理はうまくないんよ」
握り飯を頬張りながらあっちゃんが照れ臭そうに言う。
「おにぎりも唐揚もすごいうまかよ」
言うと、ちょっと嬉しそうな顔になる。

***
リュックに入れてきたレジャーシートを出して平らな芝地の上に敷く。
弁当も一緒に取り出した。
握り飯二個に昨夜の里芋の煮付けの残り、それとジャスコの総菜売り場で焼きたての焼き鳥を三本買ってきた。
飲み物の方はポットのお茶と、もう一つ、サントリーオールドの水割りを別のポットに氷と共に詰めてきている。
オールドは、坂下老人のアパートを訪ねた折に敦が土産にした酒だが、たしかにうまいと思った。
翌日さっそく一本買って、寝酒がわりに毎晩愛飲するようになった。
シートに座ると、焼き鳥のパックを開け、紙コップに水割りを注ぐ。
水割りを口に含んで舌で転がすように味わい、ゆっくりと飲み下す。
口内にウィスキーの香りがふわっと広がる。
その香りが実にふくよかなのだ。
***
水割りをちびりちびりやりながら、焼き鳥を頬張る。
スーパーで売っているのに「炭火焼」と表示されていた。
一本八十円。なるほど焼き加減もほどよい。

昨今のスーパーの総菜売り場の充実ぶりは目を見張るものがある。
ひとり暮らしを始めた三年半前と比べても、品数の多さ、量の多さは倍量どころではない。
コーナーを覗くたびに目移りするし、感心してしまう。

***
水割りを紙コップ二杯飲んで、焼き鳥三本を食べ終え、ほろ酔い加減になった。
お茶に切り替えて、握り飯と里芋の煮付けを腹におさめる。
もう満腹だった。
***
リビングのテーブルの前に座ると、あっちゃんが私の持ってきたワインをさっそく開けてくれた。
ドイツの安い黒猫ワインだが味には定評がある。
チーズやクラッカー、ソーセージなどを運んできた下枝さんも一緒にテーブルについて先ずは乾杯した。
「今日は、地物の鰆のとびっきりのやつを一本仕入れてきたけん、
わしがさばいて旨い焼き魚ば食わしてやるばい」
あっちゃんが言う。
「鰆かあ、そらよかねえ」
いよいよ春だな、と思う。
「トルコ風の塩焼きやから、普通の塩焼きとは一味違うけんね」
「トルコ風て何ね」
「まあ、出てきてからのお楽しみたい」
***
あっちゃんの焼いたトルコ風の塩焼きは絶品だった。
鰆を二枚におろして、それぞれ半身の半分を焼いてくれたのだが、
その大きな切り身をぺろりと平らげてしまった。
多めの塩とタイムを振った魚をしっかり焼き上げ、
そこにたっぷりオリーブオイルを注いで、さらにその上にタマネギのすりおろしとオリーブオイルと醤油で作ったトルコ風ソースをこれまたたっぷりとかけて食べる。

「むかし、カッパドキアに行ったとき、途中にトゥズ湖という有名な塩湖があってさ、
そこは湖といっても一面真っ白な塩の平原で、湖畔の土産物屋にはそのトゥズ湖の塩がひとかたまり幾らで売っとるんよ。
トルコの人たちもそこの塩ば常用しとるんやけど、わしも一つ買ってみたと。
そいで、この魚の塩焼きはイスタンブールで食ったっちゃけど、やっぱりトゥズ湖の塩ば使っとった。
日本に返ってきてさっそく土産の塩で同じごと魚ば焼いたら、ほんとにうまかったとよ」
あっちゃんが自慢げに解説してくれたが、
今日の塩はトルコ産ではなく、シベリア岩塩を使ったとのことだった。
「このシベリア岩塩も焼き魚にはもってこいの塩ばい」
もちろん力説していた。

鰆の塩焼きのほかには、フライドポテトの山盛りとつまみにも出たチーズとソーセージ、
それにトマトのスライスサラダとフランスパンだった。
あっちゃんが用意しておいた勝沼の無濾過ワインも抜いたが、
これも淡白で飲みやすかった。
***
駅の真向かいに建つ旧門司三井倶楽部のレストランに入って、昼を食べる。
三井倶楽部はアール・デコの時代に三井物産の社交クラブとして建築されたもので、
その一階の大広間が現在はレストランとして使用されていた。
室内は真紅の絨毯が敷き詰められ、大きな窓にかかるドレープカーテンも真っ赤だった。

久美さんはふぐのステーキランチ、私はふぐかつ丼を注文した。
「何か仕事を始めようと思ってるんです」
食事が終わり、コーヒーが出てきたところで久美さんが言った。

***
九州鉄道記念館や海峡プラザなどを巡って、栄町銀天街の中にある「純喫茶 なか川」という喫茶店でお茶を飲んだ。
アイスティーとココアを注文した。
品書きでは「コールティー」となっていて郷愁をそそられる。
届いたココアを一口啜った彼女が「これ、甘くないわ」と嬉しそうな顔になる。
「たまにこうして知らない町に来ると、何だか気分が変わっていいですね」
「ほんとですね」
***
うな重が片づいた頃には、二人でロング缶を四本、空けていた。
「私、焼酎にするけど、青野さんはビールでいいですか」
下枝さんが当たり前のように言った。
「じゃあ、僕はお湯割りで」
酔いも手伝って、また乗ってしまう。

テーブルの上に焼酎の五合ビン、グラス、アイスペール、保温ポット、チーズやクラッカー、さきいかなどを盛った大皿が並ぶ。
どうやら本格的に飲むつもりのようだ。
お湯割りを作ってくれると、下枝さんは、氷を入れた自分のグラスに麦焼酎をなみなみと注いだ。
***
私と久美さんがたっぷり刺身を取っていると、
すでに自分の皿に料理を盛りつけ終わったあっちゃんが大きなお盆を盛ったまま近づいて来て、
「うまそうやねえ。ああ、わしも刺身が食いたかあ」
と羨ましげな声を出す。
「そげん食いたいなら、いっそ食べればよかろうも。
無理に我慢する方が却って良くないっちゃないと」
目の前には新鮮なマグロ、ヒラス、タイ、スズキ、イカなどの刺身が大皿に盛られ、
バイキングスタイルだからいくらでも取り放題なのだ。

「一度始めたら、そげん簡単にはやめられんと」
あっちゃんはきっぱりと言ったあと、「やけど、つらかなあ」と一つぼやいて先にテーブルへと戻っていった。
「せっかく食欲が出てきたというのに、魚も肉も食えんというのはちょっとかわいそうですね」
となりでスズキの刺身を自分の皿に豪勢に取り分けている久美さんに声をかける。
「いいんです。あの人が自分で言い出して始めたことなんですから」
彼女は涼しい顔をしている。

席に戻ってみると、それでもあっちゃんのお盆の上にはたくさんの料理が並んでいた。
タラの芽と茄子の天ぷら、野菜ビーフン、三つ葉の胡麻和え、筑前煮、小芋の煮っころがし、
ひじき、高野豆腐の含め煮、きのこの冷製パスタ、ごぼうサラダ、枝豆、汲み豆腐、
ところてん、芋粥などなど。

こうして見る分にはなかなか豪華だし、こんなにたくさんのものを食べたいと思えるようになっただけでも、
あっちゃんの回復ぶりが十分に窺える気がして、素直に嬉しかった。

博多の地ビールとして有名な杉能舎(すぎのや)のビールが置いてあるというので、
久美さんと一本ずつ注文した。
***
二本目のビールと共に、別注の「春わかめの豆乳しゃぶしゃぶ」が届いた。
旺盛な食欲で料理を片づけていたあっちゃんが、これこれ、と言いながらさっそくザルに盛られたわかめを箸でつまんで
沸騰した豆乳の中に放り込んでいる。
志賀島といえばわかめが一番の特産物であるらしい。
「海草類は免疫力アップに最高やけんね」
きれいな緑色に変わったわかめを胡麻ダレにつけてうまそうに食べる。


白石一文著「永遠のとなり」
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by foodscene | 2012-10-23 16:31 | 日本

阪急電車

レジの手前に総菜コーナーがあって、
そこに弁当などと一緒に籠に盛られたおにぎりがあった。
しかもコンビニ風にパッケージされたものではなく、
漬け物の混ぜご飯が手結びされてラップで包まれたものだ。

そのアットホームさに惹かれて埋めしそを一つ手に取り、
飲み物のコーナーで持ってきておいたお茶と一緒に買う。

梅雨の晴れ間の一日でベンチはいい感じに温まっていた。
電車の中で頑なに立っていたことが嘘のように、ドレスの皺など気にもかけずに座った。

お母さんが握ったような素朴な見かけ、素朴な味のおにぎりは、
まるで体のことを気にかけられているようだった。
ゆっくりとよく噛んで、お茶で流し込む。
すると一つで充分にお腹がいっぱいになった。

***
「圭一くん、自分で料理するって言ってたから台所道具は揃ってると思って」
言いながら美帆が持ち込んできたのは、お粥を作る材料と桃缶だ。

***
「いつもごはんとかどうしてるの?」
「コンビニでおにぎりとかさっきのスーパーで総菜とか」
「わー、野菜足りてなさそう。
今日野菜いっぱい食べなよね」
言いつつユキは狭い台所で窮屈そうに野菜類を切りはじめた。

待ち合わせは夕方に設定してあったので、
支度が調うのは晩飯時になった。

ホットプレートで肉や野菜が焼けはじめ、
いよいよ『桂月』の登場である。
「わあっ」
とユキから歓声が上がった。
「すごい、一升もあるんだ!大事に呑もうね!」

有川浩著「阪急電車」
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by foodscene | 2012-07-16 14:43 | 日本

ふたつの季節

多希がここにきてから一時間後、ようやくテーブルに料理が並んだ。
輪切りにしたニジマスのステーキに、つけあわせの野菜、
マッシュド・ポテトが大鉢に盛られている。

案の定、クラックで食欲をなくしたマイクとキャシィは、ひと口ふた口お義理に食べてそれっきりだった。
けれど多希にはニジマスはすばらしくおいしかった。
***
大晦日の深夜から元日いっぱいには、ふたりは多希のアパートですごした。
元日の夜はバークレーのジャパニーズ・マーケットからサトイモやマグロの刺身を買ってきて、
久しぶりの日本食に舌つづみを打った。

***
復活祭の前の日にとどいたダンボールのなかには、
殻を金色に染めた日持ちのよい燻製卵が十個ばかり、まぎれこませてあった。

「このケバケバしい色の卵、さっそく味見してみましょうよ」
「いいのか。きみ宛のものだ」
「へんな遠慮はしないで」
燻製卵はそのままでもほどよく塩味がきいていた。

藤堂志津子著「ふたつの季節」
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by foodscene | 2012-07-09 16:03 | 日本

深紅

改築した家のキッチンで、叔母が嬉しそうに天ぷらを揚げている。
新しいキッチンで最初に作る料理は天ぷらと決めていたらしい。
油が景気よく音をたて、揚がった野菜が次々と、
真っ白なキッチンペーパーの上に載せられていく。

ピーマン、椎茸、サツマイモ。
揚げたてで湯気のたつそれらを、奏子は五枚の皿に並べ始めた。
叔母が隣で口ずさむ松任谷由実が、子守唄のように奏子の耳に届く。

***
揚げたてのコロッケを肉屋の主人から受け取っている。
油染みのある袋は熱いらしく、
端を指でつまんでママチャリのカゴに入れた。

飲み物とコロッケと水筒が並べられる。
タッパ・ウェアには白い御飯がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
御飯がジャーにあったから、おかずを肉屋で買って、
昼飯にしようと話し合ったのかもしれない。

中垣明良はビールをまず開ける。
ぐいぐい飲んでいると、都築未歩が「あたしも」と缶に手をかける。
残りを飲み干す。

魔法瓶の水筒には味噌汁が入っているようだ。
紙コップに注がれたものを熱そうに啜っている。

二人は旺盛な食欲を発揮する。
コロッケにたっぷりとソースをかけ、かぶりつく。
男は口いっぱいに御飯を頬張る。
「うめっ」
「うまいよね」
口の動きだけだが、言葉が伝わってくる。

***
彼女は和風キノコ、奏子にはカルボナーラのパスタが来た。

***
学校が終わると、娘は月島の商店街でコロッケと串カツとポテトサラダを買って、
父親が帰るまでに宿題を終わらせておきたかったから、
テレビも見ずに頑張ってやった。
御飯を炊いて、味噌汁を作って待っていたという。

***
「あ、でも美味しそうだよ。飲んでかない」
「じゃ、味見してやっか」
未歩がふたつのお椀に注ぐ。
合わせ味噌で作った豆腐と油揚げの味噌汁だった。
煮立ちすちていたので香りは損われていたが、
奏子はひと口啜って思わず「うまい」と声をあげる。
「でしょう?」

***
十代の頃、レストランの厨房で働いていたこともあるという彼は、
仔牛のカツレツとスパニッシュ・オムレツが得意の料理だという。

野沢尚著「深紅」
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by foodscene | 2012-06-28 14:46 | 日本

うたかた

しばらく話しているうちに、
気がついたら麻からメシを食うのを忘れているのだった。
で、三人で連れ立って地階の食堂へゆき、
僕はとうもろこしのスープと豚カツをたべ、
あとの二人は何やら注文しかけたところで、
局内の拡声器から呼び出しのアナウンスをうけて、
「じゃ、たのむよ」とそそくさと立ってしまった、
どっちをむいても十分とむだバナシをしていられる余裕のある奴なんか、
ひとりもいないのだった。

一階のコーラ・スタンドでコカコーラを立ち飲みし、
電話を三つかけていると、
同業のライターが通り掛かった、僕は彼の妻となった元女優がちょっと好きだった、
彼に彼女をとられたように僕は感じさえしたのだった。


田辺聖子著「うたかた」
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by foodscene | 2012-06-07 16:40 | 日本

わたしのオックスフォード 2

食べ物も違う。
寒いせいか炭水化物や油ものを多くとり、
ずっしり重い生地のミートパイや、ジャガイモやスウィード(カブの一種)をふんだんに使った料理が目立つ。
ジャネットに言わせると
「フィッシュ・アンド・チップス」も本場は北なのだとか。
南のチップスは身も衣も貧弱で頼りないらしい。
その南のチップスでさえもしつこく感じる私は、
北のチップスは遠慮しておこう、と心に決めている。
朝食でベーコンエッグなどに加えてブラック・プディング(血のソーセージ)を食べるのも、
北、とくにヨークシャーの伝統である。

***
朝食は8時15分から9時半まで、食堂に用意されている。
入口の横に置いてあるジュースやコーン・フレークスをとって席につく。
卓上にはコーヒー、紅茶、バター、ジャムなどが並ぶ。
出来たてのトーストを係の人がラックに入れて持ってきてくれる。

***
12時半。さて、お昼はどうしようかな。
「ヒーローズ」あたりで好物のチキンとアボカドのサンドでも買って部屋で食べようか、
とも思ったが、結局、カレッジの食堂に舞いもどってしまった。

朝と違って昼食はセルフ・サービスである。
「質より量」主義で、率直にいて、すべてがとてもまずい。
ミートパイ、コーニッシュ・パスティ、フィッシュ・アンド・チップス、スパゲッティ・ボロネーゼなど一通り食べてはみたのだが、
例外なく失望されられた。
いちばん無難なのはベークド・ポテトに温野菜という平凡な組み合わせで、カレッジで昼食を食べるときはこれに決めている。

ただ一つのとりえは安いこと。
私の「おすすめ」セットは60ペンスだし、デヴィッドたちはいつも、よく落っこちないな、と感心するほど
大量の料理をお皿に積みあげているが、それでも1ポンドをオーバーすることはめったにない。

食堂でダンカンといっしょになり、ほかの仲間たちと食後のコーヒーを彼の部屋へ飲みにいく。
彼は「カプチーノ・メーカー」なるものを持っているので、
自然に人が集まってくるのだ。

***
ダージリンとビスケットをごちそうする。
テュートリアルから出てきた者はやさしくねぎらってやるのが常識なのである。
そのあとカレッジの図書館へ。
ストラウド氏との対決をつづける。

***

カレッジの夕食は7時15分からだが、今夜は外食する予定がある。
キーブル・カレッジの友人、デビーの誕生日なので、
最近、駅の近くに開店した「バンコク・ハウス」という店にタイ料理を食べにいくことになっている。
私もデビーもタイ料理が大好き。
とくにあのくせのつよいカレーがたまらない。

しかしデビーの友人マイケルは食べ物に関しては救いようのない「保守派」である。
困惑の表情でメニューを検討する彼の目が、突然、輝いた。
マイケルのようなお客のために、英国料理が何品か用意してあったのだ。
オックスフォードに数多いインド料理店にも、
たいていフィッシュ・アンド・チップスなどの「イングリッシュ・メニュー」がある。
本当にイギリス人はしょうがないわね、とからかっても、
マイケルは平然とチップスにおきまりの酢をかけているところ。

***

ひきかえに自分のガウンを受け取って、
私たちは父兄ともどもランドルフ・ホテルにハイ・ティーを楽しみに行った。
おきまりの紅茶とスコーンに、
スモーク・サーモンやキュウリのサンドイッチ、ケーキなどがつく
伝統的なティー・タイムのごちそうである。

川上あかね著「わたしのオックスフォード」
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by foodscene | 2012-05-28 15:33 | 日本

満ちたりぬ月


「乾杯」
今夜の絵美子は、ひどくはしゃいでいた。
「おいしいわ、このソーセージ。こんなの初めて」
「スパイスが変わってるんじゃないかしら。
自家製だっていってたわ」
「おいしい」
二切れほど続けざまに食べ、絵美子はため息をつく。

オムレツと、ウナギの稚魚のオリーブ炒めが運ばれた時、
絵美子は突然口を開いた。
「私も働けないかしら」
「働くって、茨城で?」
「ううん、東京でよ」
「いいんじゃない」
全く本気にしていないから、
圭はウナギの稚魚をつつく。
フランスパンにのせるようにすると、
オリーブ油ごとしみ込むようになる。
これは圭の大好物だった。
「頑張れば、今の世の中、なんだって出来るわよ」
歯で噛むと、フランスパンはちょうどいい具合にやわらかくなっている。

***
「コーヒーぐらいは飲んでくでしょう?」
「飲む、飲む。コーヒーの他にもなんか食わせてくれよ。
オレ、なんか今朝は腹が空いてるんだ」
「はいはい、目玉焼きでもつくるわ」
バスローブを羽織って圭は起きあがる。

クネッケにオレンジ、それに玉子を二個ずつバターで焼いた。

***

駅前の駄菓子屋で、ケーキを四つ買った。
イチゴ・ショートをふたつと、
シュークリームをふたつ。
この場合、シュークリームは添えものだ。

二人にケーキ四つは多すぎて食べきれない。
しかし、二つだけでは格好がつかない。
シュークリームを入れてもらうと、
ちょうど都合よい箱の大きさになるのだ。

しかもシュークリームは、他のケーキに比べると、
ずっと値段が安い。
絵美子の家でも、
ケーキを買う時はいつもこうしていた。

けれども、いかにも主婦らしいこんなつましさが、ふっと不安になる。
圭に笑われないだろうか。

***

勢いよくビールの栓を抜き、さまざまな肴をつくった。
肴といえば、なにか出さなければいけないのだろうか。
一瞬ためらったが、冷蔵庫を開ける。
ほとんど何も入っていない。
英語で「ダイエット・マーガリン」と書かれた箱が目をひいた。

しかし絵美子は、キッチンをつっ切る時に、
クラッカーと海苔の箱を見ている。
そのクラッカーも"ダイエット"と大きく記されていたが、
構わず使うことにした。

手早くマーガリンを塗り、海苔を乗せる。
その上につくだ煮を置いた。
和風即席カナッペとして、家でよく作っていたものだ。
ほんの一分もかからない。
それを三つ小皿に並べ、ビールと一緒に盆に乗せた。

***
「さやえんどう、ひと袋ちょうだい」
「まいどー」
智英は風邪をひいているという。
えんどう豆でスープをつくったらどうだろうか。

新婚時代、誰でもそうであるように、
絵美子は料理の本をしこたま買い込み、さまざまな料理をつくった。
ポーク・ピカタ、タンシチュー、ビーフストロガノフなど、
それらはカタカナ料理に限られていた。

やがて生活が落ち着き、シチューが焼き魚と煮物にとって替わるようになっても、
絵美子はこうした料理をつくるのが好きだったのだ。

スープには、少し生クリームを入れた方がいいかもしれない。
コンソメの素はあっただろうか。
しかし絵美子は、そのスーパーの中に入っていくことはしない。

***
結局、その夜の圭は、よく喋り、よく笑い、
パスタの他にスズキのグリルまでたいらげたのだ。
そのつけが、今朝こうしてかすかにあらわれている。

***

「いやあ、これはすごいや」
雅彦が歓声をあげた。
絵美子が拡げたアルミホイルの中には、
小さなお握りが並べられていた。
具を上に見えるようにしていたから、
鮭の赤、おかかの茶色と、漬け物の緑と、彩りもいい。

「そんなに言われると恥ずかしいわ」
絵美子は両手をそえて、雅彦がとりやすいようにしてやった。
「娘の学校に、月に二回だけ、お弁当デーというのがあるの。
それでついでにつくったのよ。
あまり物で悪いけど…」

***
パルコのちょうど裏側にある鮨屋は、
七分の入りといったところだろうか、打ち水をした石床の上を、
着物姿の女が、忙し気に立ち働いていた。

「章人さんって嘘つきね」
「何が?」
「汚ないところだなんて言って。
すごく立派なお鮨屋さんじゃない」
「ふつうだよ。ここのいいところはね、握ってくれる前に、
親父さんがいろいろつき出しをつくってくれるところかな」

そう言う間にも、白魚の小鉢が運ばれてきた。
細かく刻んだオクラが入っている。
「絵美子さん、何が好きなの。
好きなものを言ってお刺身を切ってもらったら」
「そう言われても…」
絵美子はショーケースを眺めた。
イクラの赤や、コハダの銀に圧倒されるようだと思った。

林真理子著「満ちたりぬ月」
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by foodscene | 2012-05-28 14:46 | 日本

スイートリトルライズ

どのくらいたくさんの芽が必要だろう。
クッキーを一口かじり、瑠璃子は考える。
台所の隅に置かれた段ボール箱をちらりと見た。

じゃがいもは、夫の郷里の帯広から毎年届く。
茹でたり焼いたり揚げたり煮たりつぶしたり、
ニョッキやパンケーキまでつくって食べても、
夫婦二人では食べきれなかった。

ごつごつした小ぶりのじゃがいもは、
まだ二十やそこらは余っているだろう。
そのうちのいくつかは、そろそろ芽が出始めていた。

***
顔を洗い、さっぱりした様子でやってきた聡が、
皿の上のポーチドエッグをみて言った。
「嬉しいな。落としが食べたいと思ってたんだ」
へんなの、と、瑠璃子は思う。
へんなの。
それならさっきそう言えばよかったのに。

***

午後、瑠璃子は桜のリキュールを使ったお菓子を試作した。
部屋にこもってコンピューターゲームに熱中しているらしい夫に
携帯電話をかける。
「お茶、のみますか」
「え、あ、じゃあいただきます」
緑茶をいれ、桜のムースと一緒に運ぶ。
しずかな土曜日。

***
吉野家はひさしぶりだった。
通勤電車のなか同様、ウォークマンで音楽を聴いたまま食べる。
たいていの客は一人で、雑誌に目をおとしたまま食事をしていた。
玉つきの並盛四百五十円が、特価の三百五十円になっていた。

***
「きょうはお店に顔をだすことになってるの」
薄いトーストにスクランブル・エッグ、ミルク紅茶に桃、
という朝食のトレイを運びながら瑠璃子が言うと、
聡はまず、
「へえ、ひさしぶりだね」とこたえ、
「暑いから気をつけてね」と、つけたした。

***
瑠璃子と登美子はカウンター席にすわり、
牛の腹身肉とオクラのたたきを食べた。

***
夕食には、聡の好きな冬瓜の煮ものがあった。

***
その保養施設は料亭ばりの料理が自慢で、
夕食にはたくさんの皿がならんだ。
かぶら蒸しだの穴子の煮物だの、見馴れないものをすべて残した聡をみて、
瑠璃子は苦笑した。
- おいしいのに。
と言い、
- 聡はほんとうに偏食。
とも言った。

しかしそれでいてその瑠璃子もひどい偏食で、
刺身もステーキも、しゃもたたき鍋も食べられないのだった。
似たもの夫婦なのだと聡は思う。

***
「ちょっと待っててね。いま白玉をつくってたの」
湯の中に白玉をおとす。
小さな鍋のなかにはいくつものこまかい水泡が生まれては立ちのぼってくる。

「これおいしいねー」
うらごししたあんずのシロップと、白玉を一つ口に入れて文は言った。
「これ、どうやってつくるの?」
説明してやると文は最後まで聞き、ふうん、と、言った。
「ふうん。でもいいや、あたしはべつにつくらないから」

***
十分もしないうちに、コーヒーとオムレツ、へたをとったいちごがテーブルにならんだ。

***
小さなバスケットに詰められたサンドイッチは三種類で、
端にピクルスとプチトマトが添えられている。

自分の食事もそこそこに、聡の食べるのを熱心に眺めていたしほは、
「それならいいですけど」
と言って、缶入りの緑茶を一口のんだ。

三種類のうち、ポテトサラダのはさまったやつ
- これだけはなぜか薄茶色の食パンでつくってあった -
がいちばんましだ、と思いながら、
聡は言った。
ピクルスとトマトを残したら、しほは気を悪くするだろうかと考える。

***
登美子の雑誌に、瑠璃子は季節ごとのお菓子の頁を持っている。
きょうは夏のお菓子の撮影で、果物を葛で寄せたゆるいゼリーと、
黒あんを使った揚げ菓子をつくった。

***
あぶら腹身肉とオクラのたたき
- この店での瑠璃子の気に入りのメニュー -
をつつき、ビールをのみおえて時計をみると、
8時になっていた。

***
「ごはんできました」
携帯電話で瑠璃子に呼ばれ、聡は、
「はい」と返事してリビングにいく。
「昼間つくっておいた」というビーフシチュウには、
聡の苦手な緑黄色野菜が、影も形も
- 無論匂いも -
なくなるまで煮込まれていて、
聡の好きな肉とじゃがいもと玉ねぎは、
大きなままちゃんとやわらかくたっぷりと入っていた。

***
青山のそのイタリア料理店には、
会社の連中とではなくしほとでかけた。
二人で食事をすることを愉しいと思い、
しほをいとしいと思ったことは、でもいまは問題ではなかった。

一皿ずつの量がすくなく、
野菜を使った料理が多く、パスタが補足きりりとしていた。
瑠璃子が気に入りそうな店だ、と、あのとき聡は頭の隅でたしかにそう考えたし、
大切なのはそのことだった。

***
それにしても、と、聡はへんな香草をのせてグリルした魚をつつきながら考える。

***
三時間仕事をし、仕事をしながら豚のあばら肉を夕食のために煮込んだ。
部屋じゅうに八角の匂いがたちこめている。
八角という星形の香辛料が瑠璃子は好きだ。
香港にいる気分になる、と、香港にいったことはないが瑠璃子は思う。
かわいた、なつかしい、濃密な匂いだ。

江國香織著「スイートリトルライズ」
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by foodscene | 2012-05-20 16:29 | 日本

がらくた 2

「字幕はどうだった?」
よかった、とこたえた。
ウーロン茶を啜り、亘くんの焼いてくれた牛タンに、
別盛りのねぎをどっさりのせる。
熱いものと冷たいもの、脂けのあるものと新鮮なものの組合せは、
いかにもアジアの食文化だ。

「FISHYを疑わしいって訳してて、感動した」
「へえ」
ビールをのむときの亘くんに、私はいつも見惚れてしまう。
あんなに細い手首で、
あんなに大きなジョッキを、よくあっさり持ち上げられるものだ。

***

今夜は煮魚なのだとすぐにわかった。
生姜のきいた甘辛い煮汁の匂いが、濃く漂っていたから。
テーブルにならんだ食器には、すべてラップがかけられている。

蒸気で曇り、内側に水滴をびっしりつけたラップたち。
「吉田さん」が作ったのだと思われる、桐子さんの夕食。
おもてはまだまぶしく晴れているのに。

***

「よかったら、ジャムをつけておあがんなさい」
桐子さんにそう勧められたのはいつもの薄荷チョコレートで、
チョコレートにジャムを塗るなんて信じられないと思ったので
私は手をださなかったけれど、
二人は実際にジャムをつけてつまんでいた。
ラベルに手描きで杏の絵のかかれたジャム。

私は、あの旅がこのひとたちにとって楽しいものだったらしいことを知って、
どういうわけか嬉しかった。
関係ないのに。
****

「残念ね」
彼女は言い、私の手をぎゅっと握った。
港は魚くさかった。

砂糖まぶしの揚げ菓子を買ってもらって歩きながら食べた。
たしか「べニエ」と呼ばれてポピュラーなお菓子だったけれど、
ニューヨークに引越してからは見たことがない。

***

「そういえば、ちょうどきなこ雪餅を取り寄せたところなの。
おせんべなんだけど、おいしいのよ。
食べてみない?」
いただきます、とこたえ、私は桐子さんがお取り寄せ好きなことを思いだした。

***

ニース風のサラダがでて、半熟卵をワインで煮たものがでて、
つめたいヴィシソワーズがでた。
メインは豚肉料理で、どれも感動的においしかった。
私以外の三人は、みんなびっくりするほどよく食べてよく飲み、
よく喋ってよく笑った。
私もたくさんさらった。

***

料理にも張り合いがでるらしく、
鰯をすりつぶしてつみれ団子にしてみたり、
十種類もの野菜をミキサーにかけてスープにしたり、
私にとってはなつかしい味の、でも手間がかかるので滅多に作ってもらえない、
チキンクリームパイを焼いたりする。
休みの日には、私のハンカチにまでアイロンをかけてくれる。

***

私たちはシーフードサラダと山のようなフライドポテト、
それにナイフがないと絶対食べられない大きさのハンバーガーを食べた。
食べながら映画のことやパパのことを話し、
話しながら、私はいま自分たち二人が他の人たちにどう映っているか、
想像してたのしんだ。

***

シャワーを浴び終えた夫は、小ざっぱりした顔で、
あたたかいご飯につめたい麦茶をかけたお茶漬けを食べながら言った。
夫はそういう食べものが好きだ。

***

「いい匂いね」
大蒜のスープをつくっているところだと、私は言った。
冷蔵庫からビールをだして、グラスを二つ満たす。
どっちみち、きょうは車をおいていくつもりだった。
母はそれを、今夜はたくさんのめるという合図にとったようだ。

「卵の黄身をお味噌につけたやつ、いまつくってある?」
私はあるとこたえて、また冷蔵庫をあける。

***

卵黄の味噌漬けをつまみに、ビールと焼酎をのんだ。
サラダを食べ、スープはとばしてステーキを食べた。
スープをのんだらお肉がいただけなくなる、と母が言ったからだ。
スープは、あした、お昼に私が「いただく」ことになった。

***

憶えているのは天ぷら屋のことだ。
その店は六本木にあって、天ぷらの衣がとてもうすく、
いまのように塩が流行る前から塩で食べさせてくれたので、
夫と私の気に入りの店だった。

***
昼食にはかけそうめんを作った。
にが瓜の炒めものと、冷やし茄子と。

***

夕食は、文句のつけようのないものだった。
サワークリームを添えたキャビアに始まって、ほんのすこしのカペリーニ、
温かな牛たんと続いた。
オマール海老は、泡立ったつめたいスープに浸っていた。
私は夫といるときだけ、この店が好きだ。
豪奢で、自分の人生に何の憂いもないように思える。

***
水にさらした玉ねぎをたくさんのせたトーストと、
金目鯛の頭でだしをとった具なしのお味噌汁、という朝食を終え、
夫はジャケットを羽織る。

***

チョコレートには、きょうもジャムが添えられている。
私は以前から訊いてみたかったことを訊いた。
「このジャム、手作りなんですか?」
桐子さんも柊子さんも、台所仕事が好きそうには見えない。
でもジャムの入った壜はあきらかに市販のものと違うし、
ラベルの文字は手書きだった。
FIGとサインペンで書かれており、その下にいちじくの絵がついている。

「そう。柊子が煮たの。おいしいわよ」
桐子さんがこたえ、
「柊子はジャムを煮るのが好きね」
と、誰にともなく言った。
部屋のなかにはたくさん日があたっている。
斜めになった夕方の日ざしだ。

***
ザーサイをのみこんで、私はこたえた。
料理は、どれもこれもおいしかった。
豆苗の炒めものが一皿目で、上海おこげが最後だった。
勿論あいだにいろいろでた。
紹興酒も運ばれたけれど、
私は欲しくないと言った。

***
そのあいだにも肉はどんどん運ばれてきて、
網の上でじゅうじゅう焼かれていった。
焼き上がると、亘くんはそれを私のお皿に移し、
「レモンで」とか「そのまま」とか、
おいしい食べ方を指示してくれた。

***

「お水もください」
私は言い、でも乾杯だけはシャンパンでした。
ほんとうにまったく、仲のいい夫婦だ。

サラダと半熟卵の料理に続き、
熱々のオニオングラタンスープが運ばれたところで、
私の携帯電話が振動した。

***
「じゃあ、彼女にはモスコミュールを」
「果物よ」
柊子さんが簡潔に言う。
「ミラベルっていうのはフランス語で、
日本語では何て呼ぶのかわからないけれど、
でもともかく果物だわ」
「このひとはジャムを煮るのが好きでね」
可笑しそうに、原さんが言った。
「一年じゅう、何かしらのジャムがある。
まあ、市販品より美味いからいいんだけど、
どういうんだろうね、あれは」

***

「とっておけるもの」
柊子さんが言った。
「果物は、ほっておけば傷んだり腐ったりするでしょう?
でもジャムにすればとっておける。
味も香りも濃くなるし、色も濃くなってきれいだしね」
私は、果物は生のままの方が好きだ。
そう思ったけれど、言わずにおいた。

***

のみものは、とても涼しい味がした。
うす甘くて、ぴりっとして—
ショウガ?
全体にライムの味がした。
ごくごくのめそうだったけど、用心してすこしずつ啜る。

***
私は野菜のポタージュを温め直し、
ママの作った蓮根もちを揚げ焼きにして、明太子とごはんを食べた。
それからお風呂を沸かして入り、
テレビのCS放送で、
「素晴しき休日」という映画を観た。

***

韓国鍋は、赤唐辛子の色をした、濃厚な料理だった。
モツや野菜を煮込んで食べる。
辛かったけれど、お湯割りにした焼酎を舐めながら食べた。

江國香織著「がらくた」
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by foodscene | 2012-05-06 15:38 | 日本

幸子は時々私のアパートにやってきては、
私のつくる夕食を食べて帰っていった。

といっても少女の頃に置き屋に行き、
その後囲い者になった私にろくな料理が出来るはずがない。
上等の牛肉を買ってきてすき焼きをした。
まだ「しゃぶしゃぶ」などというものは東京では一般的ではなく、
牛肉といえばすき焼きだった。

二人でガスコンロの鍋をつつき合いながら、
あれこれ話したのが、今思うととても幸せな時だったかもしれない。

林真理子著「花」
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by foodscene | 2012-04-26 14:29 | 日本