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数えきれぬ星

レストランに入っていくと、きのう岩塩のエビ寿司を運んでくれたお姉さんが、ニコニコしながら席に案内してくれた。

おそるおそるメニューを開くと、そこにはブレックファーストA・B・Cという3パターンしかなくてホッとした。

安心してポテト入りオムレツのBセットを注文した。
運ばれてきたBセットは本当においしかった。
トーストもオムレツもオレンジジュースもコーヒーもみんなおいしい。
私はドンドンとテーブルを叩き、
「そうなのよ!こういうもんが、晩ごはんに出てきてほしいのよ」
といいたくなった。

別段、私は晩ごはんにフルコースを食べたいわけじゃない。
質素でもいいからおいしければよいのである。
あんなクソまずい、ザリガニと、とぐろケーキを7ドル50セントも払って食べるくらいなら、2ドルのこの朝食が3度3度出てきたほうが、ずっとマシである。

私がトーストやオムレツをむさぼり食っていると、レストランのウエイターがウエイトレスがかわりばんこに、コーヒーはいらないか、とすすめに来た。

ずいぶんいれかわりたちかわり来るなあと、そーっと背のびして厨房のほうをのぞいてみると、みんなで固まってゴソゴソやっていた。


(群ようこ著 「アメリカ恥かき一人旅」より)
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by foodscene | 2007-02-26 00:31 | ノンフィクション・アメリカ

シルバー湖のほとりで ボーストのおくさん

それからローラは包み紙をあつめ、母さんをてつだってテーブルのしたくをした。

金色にこんがり焼けたひきわりとうもろこしのマッシュの大皿、ホットビスケットの皿、
いためじゃがいもの皿、たらのグレービーの深皿に、干しりんごのソースをたっぷり入れたガラスばち……と、母さんは、つぎつぎにテーブルにならべた。

「すみませんねえ、バターがなくって」母さんはいった。
「牝牛がほとんどミルクをださなくなったので、もうバターがつくれないんですよ」

でも、マッシュやいためたじゃがいもにたらのグレービーをかけると、とてもおしいかったし、
干しりんごのソースをつけたホットビスケットは、とびきりの味だった。

こんな朝ごはんは、年に1回、クリスマスのときにしか食べられない。
おまけにもう1回、おなじ日にクリスマスの昼ごはんもくるのだ。

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ボーストのおくさんは、とってもおもしろい人だった。
なんにでも興味をもち、母さんみたいに家事のあれこれをうまくきりもりするにはどうしたらいいか、とても知りたがっていた。

「サワーミルクをこしらえるだけのミルクもないっていうのに、どうやってあんなにおいしいビスケ ットをこしらえたの、ローラ?」
おくさんはたずねた。
「あら、サワードウを使っただけよ」
でも、ボーストのおくさんは、いままでサワードウのビスケットなんてつくったことがない、という。ビスケットのつくり方を教えてあげるのは、おもしろかった。

ローラはカップでサワードウをはかり、それに重曹と塩と粉を入れてつくったたねを板の上にのせ、めん棒でのばした。

「でも、サワードウはどうやってつくるの?」
ボーストのおくさんはたずねた。

「まず、こうしてね」と、母さんは教えてあげる。
「つぼの中に粉を少し、それからぬるま湯を入れて、すっぱくなるまでねかせておくんですよ」
「それで、使ったら、かならず少しだけのこしとくの」ローラも説明した。
「ほら、ビスケットのたねのくずも、こうやってつぼに入れて、お湯ももう少したして・・・・・・」
ローラは、ぬるま湯を少したした。
「それから、ふたをして・・・・・・」
きれいなふきんをかぶせ、皿でふたをする。

「そしたら、あたたかい場所においておくの」
ストーブの横の棚に、つぼをおいた。
「こうすれば、いつでも使いたいときに使えるでしょ」
「こんなにおいしいビスケットは、いただいたことがないわ」
ボーストのおくさんはいった。


(ローラ・インガルス・ワイルダー著 こだまともこ、渡辺南都子訳 
 「シルバー湖のほとりで」より)
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by foodscene | 2007-02-18 21:54 | ノンフィクション・アメリカ

シルバー湖のほとりで クリスマス

「とにかく、みんなこうして屋根の下であたたかくすごしていられるんだものなあ!
 エレンとサムとデービッドも、あたたくていい気もちでいるよ。
 それに、クリスマスイブ用のとくべつのえさもやってきたんだよ。
 ほんとにいいクリスマスだねえ、キャロライン」
「ええ、チャールズ、ほんとですねえ」母さんは、あつあつのひきわりとうもろこしのマッシュの深皿をテーブルの上におき、ミルクをそそいだ。

「さあ、いらっしゃい。ごはんにしましょう。
 ほかほかのお夕飯をめしあがれば、なにより体があったまりますよ、チャールズ」

晩ごはんを食べながら、みんなはいままでのクリスマスのことを思いだして、
おしゃべりした。
何度も何度も、こすいてみんないっしょにクリスマスをむかえ、いままた、みんなそろって、あたたかくて食べ物もどっさりある、しあわせなクリスマスをむかえるのだった。

(中略)

母さんは、ビスケットのたねをかきませていた。
「いらっしゃいませ、ボーストさん。
 お2人とも、さぞおなかがすいていらっしゃるでしょう。
 すぐお夕飯のしたくをしますから」

ローラは、フライパンに塩づけ豚のうす切りを入れてさっと湯がき、
母さんはビスケットのたねをオーブンに入れた。
それから母さんが豚肉に水気をきって、小麦粉をまぶしてからいため、
そのあいだにローラは、じゃがいもの皮をむいてうすく切った。

「それは、生のままいためるわ」
母さんは、食料部屋で、ローラに小声でいった。
「ミルクを入れたグレービーをこしらえて、紅茶も新しく入れましょうね。
 食べ物はたっぷりまにあうけれど、プレゼントはどうしたらいいでしょうねえ?」


(ローラ・インガルス・ワイルダー著 こだまともこ、渡辺南都子訳 
 「シルバー湖のほとりで」より)
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by foodscene | 2007-02-18 21:52 | ノンフィクション・アメリカ

シルバー湖のほとりで 測量技師の家

晩ごはんは、ちょっとしたごちそうだった。
測量技師たちが使っていた美しい食器が、テーブルをにぎやかにいろどった。

測量技師たちのおいていったびんからだした、小さなすっぱいきゅうりのピクルスをそえると、
あたためなおした鴨のまる焼きも、いためたじゃがいもも、ひと味ちがっておいしくなった。

さて、テーブルの上のものを全部食べてしまったとき、母さんは、
食料部屋にはいっていき、なにかをもってでてきた。

「さあ、なんでしょうねえ?あててごらん!」

母さんがそういいながらみんなの前においたのは、小さな皿に入れたかんづめの桃。
ソーダクラッカーまで、2枚そえてある。

「ちょっぴりぜいたくをしましょうよ」母さんはいった。
「また、家の中でくらせるようになったお祝いにね」

板ばりの床、外の闇を背にぴかぴか光るガラス窓。
こんな広い部屋で食事をする気分は、ほんとうにすばらしかった。

みんなは、つるっとしてつめたい桃や、あまい金色のシロップをほんのすこしずつ口にはこび、スプーンをていねいになめた。


(ローラ・インガルス・ワイルダー著 こだまともこ、渡辺南都子訳 
 「シルバー湖のほとりで」より)
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by foodscene | 2007-02-18 21:35 | ノンフィクション・アメリカ

シルバー湖のほとりで じいさん

ある朝のこと、朝ごはんのまえにビッグ・ジェリーが戸口にきて、
母さんに、ジョニーじいさんが、一晩じゅうぐあいが悪かった、といった。

「じいさんは、えらくちっちゃくて、年よりだもんで、飯場のまかないの飯はうけつけないんだよ、  おくさん。
 あついお茶を1ぱいと、朝飯を少しばかり、じいさんにやってくれないだろうか」

母さんは、焼きたてのふわふわのパンをお皿にのせ、その横にマッシュポテトをかためて焼いたのと、かりかりにいためた塩づけ豚のうす切りをそえた。
それから、小さなブリキのバケツにあついお茶を入れ、お皿といっしょに、ビッグ・ジェリーにわたした。

朝ごはんがすむと、父さんは飯場小屋に、ジョニーじいさんのようすを見にいった。
そして、あとになって、ジェリーが、かわいそうなじいさんを、一晩じゅう世話してやったという話を、母さんにしてくれた。

ジェリーは、自分の毛布を、寒くないようにとじいっさんにかけてやり、
自分は寒い中へ、なにもかけずにでていった、という。

「ジェリーは、自分の親にするよりもやさしく、ジョニーじいさんのめんどうをみてやったのさ。
 さっきの話がほんとうかどうかはわからないよ、キャロライン。
 でも、わたしたちたって、ジェリーのおかげをこうむっているじゃないか」

ローラたちは、知らない男にあとをつけられ、太陽もしずんでいくというときに、
白馬にまがたって大草原にあらわれたビッグ・ジェリーのことをわすれてはいない。


(ローラ・インガルス・ワイルダー著 こだまともこ、渡辺南都子訳 
 「シルバー湖のほとりで」より)
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by foodscene | 2007-02-18 21:30 | ノンフィクション・アメリカ

シルバー湖のほとりで 食堂

テーブルの上には、白いテーブルクロスの上いっぱいに、はちの巣のような、半円形をした蠅帳がかぶせてあった。
蠅帳の中には、肉の皿や野菜の皿がならんでいる。

バターとパンの皿、ピクルスの皿、シロップのはいった水さし、クリームの水さしや砂糖つぼもある。
どの席にも、大きく切ったパイが1きれのった、小さな皿がおいてある。

蠅がはいまわり、蠅帳の網の上をブンブン飛んでいたが、中にある食べ物にはたからなかった。

みんなとても親切で、料理をまわしてくれた。
どの料理も、手から手へ、右から左へとわたって、つぎつぎに母さんの席にくる。
母さんが、「ありがとうございます」というと、小声で、
「どういたしまして、おくさん」というほかは、だれも口をきかなかった。
娘さんが、母さんのところにコーヒーをもってきた。

ローラは、メアリーに、肉をこまかく切って、パンにバターをつけてあげた。
メアリーの器用な指は、ナイフもフォークも完全に使いこなし、なに1つこぼさなかった。

でも、ざんねんなことには、みんなすっかりあがってしまったおかげで、
食欲がなくなってしまっていた。
食事代は25セントもかかり、食べ物はどっさりあって、食べほうだいだったのに、食べたのは、
ほんのちょっぴりだけだった。

やがて、男たちはパイを食べおえて、席を立った。

そして、コーヒーをはこんできた娘さんが、皿をつみあげて台所にはこんでいった。
黄色い髪で大きな顔の大がらで気のいい娘だった。


(ローラ・インガルス・ワイルダー著 こだまともこ、渡辺南都子訳 
 「シルバー湖のほとりで」より)
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by foodscene | 2007-02-18 21:24 | ノンフィクション・アメリカ

シルバー湖のほとりで

しばらくすると、男の子が、腕にかごをさげて通路をやってきた。

男の子は立ちどまると、お客にかごを見せた。
すると、何人かのお客が、かごから物をとって、男の子にお金をわたした。

ローラのところにやってきたのをのぞいてみると、
かごの中にはキャンディの箱や、白いチューインガムの長い棒がぎっしりつまっていた。
男の子は、母さんに見せていった。

「できたての、おいしいキャンディはいかがですか?
 チューインガムもありますよ」

母さんは首をふった。
が、男の子は箱をあけると、いろどりあざやかなキャンディを見せた。
キャリーが、思わず、わあー、すごい、というように息をのんだ。

男の子は、キャンディがとびださない程度に、かるく箱をふった。
きれいなクリスマスキャンディだった。
赤いの、黄色いの、そして、赤と白が縞になったのも何本かあった。

「たった10セントですよ」
と、男の子がいった。

ローラは、そしてキャリーだって、そのキャンディがもらえるなんて、思ってもいなかった。
2人とも、ながめていただけだった。

とつぜん、母さんがさいふをあけると、5セント玉を1つと、1セント玉を5つ、男の子の手にのせた。
母さんは箱をとり、キャリーにわたした。

男の子がつぎの席にいってしまうと、母さんはむだづかいのいいわけをするように、
自分にいいきかせた。
「なんといっても、はじめて汽車にのったんですもの、お祝いをしなきゃね」

グレースはねむっていたし、母さんは、赤ちゃんはキャンディを食べないほうがいいわ、といった。
母さんは小さなのを1つとっただけだった。
そこで、キャリーはローラとメアリーの席にきて、のこりをわけた。
1人に2つずつだった。

みんな1つは食べて、もう1つはつぎの日にとっておくつもりだった。
ところが、しばらくすると最初の1つはなくなってしまい、
ローラは、2つめの味見をすることにした。
すると、キャリーも自分の分の味見をして、しまいには、メアリーもがまんしきれなくなった。

3人は、2つめを、すこしずつすこしずつ、すっかりなめてしまった。

機関車が、長く大きく汽笛を鳴らしたとき、3人は、まだ指をなめていた。

やがて、汽車は、がくっと速度をおとし、窓の外では、せなかを見せた掘っ立て小屋が、ゆっくりと後ろにすぎていった。

乗客たちは荷物をとりあつめ、ぼうしをかぶりはじめた。
そのとき、ガチャンとものすごい音がして汽車がとまった。
ちょうどお昼どき、トレーシーに到着だ。

「キャンディのせいで、食欲がないなんてことがないといいけれど」
と母さんがいった。
「お弁当はもってこなかったじゃないの」
キャリーが、母さんわすれたの、といいたげにいった。

母さんは気にもとめずにこたえた。
「お昼はホテルで食べるのよ。
 さあ、ローラ、おまえもメアリーも気をつけてね」


(ローラ・インガルス・ワイルダー著 こだまともこ、渡辺南都子訳 
 「シルバー湖のほとりで」より)
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by foodscene | 2007-02-18 21:18 | ノンフィクション・アメリカ

healthcare reform

私は2人のために、ディナーをすることにした。
親しい人には笑われるのだけれども、私の料理に対する情熱は、周期的にやってくる。

そしてそれは、春の終わる頃と秋のはじまりなのだ。

八百屋の店先にとたんに色が溢れ出すこの季節、私はとても冷静ではいられない。
ズッキーニ、カボチャ、チキンをオーブンで焼いてみたり、栗のパイをつくったりする。
さつま芋で茶巾しぼりをつくるのに熱中したこともあった。

だからよく友人を招く。
この季節だけ私は、料理好きの女ということになるのだ。

いずみ、美由紀とのディナーは、女3人だけだから野菜中心のシンプルなものにした。

蒸したナスのマリネ、秋野菜のラタトゥイユ、トリ肉とモヤシを包んで揚げた春巻き、
イカとセロリの炒めもの、私の得意のチャーシュー、そして最後のシメジの炊き込みご飯も用意した。

2人は土産に赤と白のワインを1本ずつ持ってきてくれたが、ほとんど自分たちで飲み干した。

(中略)

やがてテーブルの上に、お茶の用意が整った。
私の持ってきたベビーピンクのバラは、バカラの器に美しく飾られていた。
チョコレートとクッキーで、私たちは紅茶を飲んだ。

紅茶はとてもうまく淹れてあった。
専門店でならともかく、個人の家でおいしい紅茶を飲もうとするのはとてもむずかしい。
たいていがポットのぬるい湯を使ったり、器をあらかじめ温めておくことを省くからだ。

こうして女がさしむかいで紅茶をすすっていると、おのずから自制された上品な会話となるのが我ながらおかしかった。

(中略)


若い頃、イタリアで修行をしていたという彼は、料理も大層うまい。
ハーブを使ったサラダやパスタは、レストランを開いてもいいほどの味だった。

彼は毎晩私たちに、明日の朝ごはんは何がいいかと尋ねる。
パンがいいと言うと、カフェオレと目玉焼き、サラダといった朝食になる。

和食がいいと言うと、炊きたてのごはんに味噌汁、何種類かの漬け物という結構な朝ごはんが並べられた。

(中略)

いつのまにか私は、おしゃれで自立した女の代表のようになっているらしい。
女性誌からは、インテリアを見せて欲しい、日々の料理のレシピを教えてほしい、
などといった依頼がひっきりなしだ。

そういう時、私はハーブ入りオムレツにミルクティー、新キャベツのサラダにスコーン、
などといった献立を披露する。

イラストレーターだから、テーブルセッティングはお手のものだ。
厚めのブルーの皿に、白いリネンのテーブルマット、そしてナプキンリングに、
青いチェックのリボンを巻く・・・・・・などという工夫をすると、どの編集者も喜んだ。

けれども実際の私は、こうして昼近くに起き、ジャージー姿のままでコーヒーを淹れ、
チョコレートを朝食代わりに食べるような生活をしているのだ。


(林真理子著 「年下の女友だち」より)
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by foodscene | 2007-02-12 22:34 | 日本

養老院より大学院

先日、編集者が仙台に遊びに来た。
言っちゃナンだが、本当にみんなよく来るのである。
私は大学院生として学ぶために仙台にいるということを、
彼らはすっかり忘れている。

特に三陸沖のサンマに脂がのってからというもの、
先客万来である。

暑いうちは来なかったのだから、彼らの意図はミエミエ。
とは言え、仙台は本当にお酒も食べ物もおいしく、編集者やプロデューサーが来るたびに
「今夜は牛タン」、「今夜はサンマ」、「今夜は天ぷら」と、院生に教わった店を
大喜びで渡り歩いている私であり、これではホントに学びに来ているんだか飲みに来ているんだかわからないわ・・・・・・。
でも、彼らのせいである。

(中略)

川原は聞きしにまさる賑わいで、あっちでもこっちでも芋を煮る煙とサンマを焼く匂いの饗宴である。

私たちは大鍋に2種類の味を作った。
私はこれも初めて知ったのだが、ひとつは芋煮の本家「山形風」で「里芋、牛肉、醤油味」である。
もうひとつは「仙台風」「里芋、豚肉、みそ味」だ。

両方ともコンニャクや野菜やキノコなども加わって、熱い芋煮と冷たいビールのおいしいことと言ったらない。

色づいた木々を眺めながら、川原に吹く風を受けることの何という気持ちよさ。

夕陽が西に傾く頃には寒くなり、続きは研究室でやろうと、また歩いて帰る。
残った薪などを自転車にくくり、私と慎太郎君と喬君と寛子ちゃんとでおしゃべりしながら歩く。

3人は大学院の同期である。私とはすごい年齢差なのだが、常日頃から何らのいたわりも頂いていない。
この日も大きな酒びんを持たされる。


(内館牧子著 「養老院より大学院」より)
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by foodscene | 2007-02-12 22:15 | ノンフィクション日本

ヒラリーの英語

麻布十番は、昔から萌の大好きなところだ。
昔ながらの商店街に入り混じって、小さなビルの中に、最新のバーやレストランが
ひっそりとあかりを放っている。

最近萌が気に入っているのは、一ノ橋に近いイタリアンレストランだ。
地下に下りていくと、大きなワインセラーがあり、その陰にテーブルが置かれている。
ここは上階の客たちには気づかれない席で、化粧を落とした女優が、女友だちとにぎやかにパスタを食べたりしていることもある。

雑誌の取材で訪れてから、この店とこの席がすっかり気に入ってしまい、
三ツ岡とのデイトによく使うようになった。

「この席に座ると、いかにも密会っていう感じで好きだわ」
などと言い、三ツ岡を苦笑させた。

何を食べてもうまいが、特別に注文すると、焼き野菜たっぷりの皿や、豆の入ったリゾットをつくってくれる。
つき合うようになってわかったことであるが、意外にも三ツ岡は大層肉が好きで、
特に仔羊には目がない。
この店の仔羊は香りが濃くてよいと、骨をしゃぶるようにして食べる。

が、今夜の三ツ岡は遅刻したうえに、とても疲れているように見える。
前菜のガスパッチョも半分も飲めず、すぐに皿を下げさせた。


(林真理子著 「野ばら」より)
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by foodscene | 2007-02-12 22:04 | 食堂