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すっぽん

「なんかこう、甘いものが」
「アルフォートまだあるよ」というと、父はしかめ面で
「あれもいいけど、こう」
「餡のものだな」
「いや、チョコでいいんだけど」
「コアラのマーチ的なものだ」
「それってどんなのだっけ」
「コアラ状のビスケットにチョコが入っている」
「そういうんじゃなくて、もっとこう、パフパフとした」
「じゃあ、ジャイアントカプリコ的な」
「ジャイアント.....どんなのだっけ」
なにを考えているのか父の表情はどんどん苦悶に満ちていく。
「ソフトクリームのコーンみたいなのの上に空気を練り込んだようなチョコ状のものが」
きちんと説明すると馬鹿みたいだ。
「それでいいや」父は紙にジャイアントなんたら、と記した。
カプリコぐらい覚えられるでしょう、と指摘すると、不満そうに「カプリコ」と横に書く。

(長嶋有著「ジャージの二人」より)
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by foodscene | 2008-06-26 00:40 | 日本

skill

とりあえず魚肉ソーセージを切ってみる(こんなの食べるの何年ぶりだろう)。
生でもいいのだが、フライパンで軽く炒める。

背伸びして、冷蔵庫の上のトースターに食パンをいれた。
『4分以内にあわせるときは、5分以上まで回してから戻して下さい』と書いてある。
面倒だから5分焼くことにしてダイヤルを回す。
中の電熱線がなかなか赤くならないと思ったら、トースターの電源コードはだらりと
真下に垂れ下がっていた。

焼ける間にソーセージを平皿に盛りつけ、トマトを切って添えた。
父はコーヒーだけ2人分いれて、椅子に座ってぼうっとしている。

キュウリも1本切ってみたらトマトに比べてずいぶん多くなった。
こういう分量の加減は普段から料理しているのでないと分からない。

楕円形の6人掛けのテーブルの端の席に向かい合わせに座った。
「いただきます」僕はいった。
ティースプーンでジャムを塗り付ける。
「君ね。キュウリを切り過ぎ」
父も僕からスプーンを受け取りジャムをすくった。
匙のへこんだ部分のったジャムを、ひっくりかえしてパンに落とす。
ジャムの残ったスプーンのへこみをパンのへりに押しあてて塗り付けている。

(長嶋有著「ジャージの二人」より)
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by foodscene | 2008-06-26 00:35 | 日本

Hands-on 02

外から戻った恭一が、苦労して手に入れた大吟醸の一升瓶をどさりとテーブルの上に置いた。
まずはビールで喉を濡らして、栗田が持ってきたワインを飲る。
そして食事が終わりかけた頃から、本格的に大吟醸をという腹づもりらしい。

男達は、いち時にいろいろな種類の酒を飲むのが好きだ。
今夜の料理はワインにも日本酒にも合うように、ごくあっさりしたものにしている。

まずはオードブルの皿を出した。
ひとかかえもある備前の皿に、買ってきた既製品を彩りよく並べてある。

メインの料理は手間をかけるが、こうした冷たい料理は簡単にすませるのが香苗のやり方だ。
スモークサーモン、煮たアワビを薄く切ったもの、ニシンの昆布巻き、
菜の花の芥子あえ、ミョウガの薄切りをちまちまと並べてある。
オリーブの実は、わずかに数粒しか飾られていない。
後は君子がつまみ食いしたのかと、香苗は何やらおかしくなる。

--------------

香苗はキッチンに入り、蟹のカクテルを盆に載せた。
すぐに出来るこの一品は豪華に見えてとても気がきいている。
案の定、テーブルに載せたら小さな歓声が上がった。

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「次はお肉よ。和風のローストビーフというのを焼いてみたの、お醤油味でとてもおいしいの」
そりゃあいいねと、恭一と栗田が同時に叫んだ。
天火の中で温めていた肉に、クレソンをたっぷりと飾った。
これにレタスのサラダを添える。

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今日の買い物のついでに買ってきた牛のひき肉があった。
それをフライパンにぶちまけ、手早く炒めた。
少し濃い目に醤油で味をつける。

乾物入れを覗くと、マッシュポテトの箱もあった。
久しく使っていないので不安だったが、ビニールの口はきちんと洗濯バサミで閉じられていて、なんのさしさわりもない。
これを湯とミルクでもどし、ひき肉の上に重ねた。
チーズをふりかけ天火に入れる。
上にうっすら焼けこげがついたら出来上がりだ。

自分の思いつきに、香苗はすっかりはしゃいでいた。
ミトンで耐熱皿を持ち、走るようにしてテーブルに運ぶ。

「さっ、さっ、熱いうちに召し上がれ。即席ポテトグラタンよ」

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オレは田舎育ちだから天火の使い方などわからないと栗田は言った。
香苗の家も東京ではないが、料理好きの母親は天火をきちんと使いこなしていた。

見よう見まねで、焼きリンゴをつくったら、それはなかなかうまくいった。
ローストビーフの肉などとても買えなかったが、ミートローフぐらいはすぐにつくれるようになった。
そして料理の本で見て、香苗なりに工夫したのがこのポテトグラタンだったのだ。
「うまいんだよな、これ。ポテトの味がほくほくしちゃって」
栗田はくんくんと鼻を鳴らす振りをする。
「香苗の得意料理だったわけね」


(林真理子著「土曜日の献立」より)
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by foodscene | 2008-06-26 00:29 | 日本

Hands-on

「今日、新じゃがを煮てみたのよ。
 おいしくないかもしれないけど、食べてみてちょうだい」
「ジャーにご飯があったから、お握りにしたわ。
 中に入ってるのは、おかかと梅干しをたたいたの」

由紀の夜食は、美紗子たちの歓声のもとになった。
太っちゃうなどとぐちりながらも、つい手が伸びるようなものばかりだ。

(林真理子著「お別れパーティー」より)
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by foodscene | 2008-06-26 00:16 | 日本

By no means, Rome.

夕方前に外に出て、道端のカフェでレモンのグラニータ(シャーベット)を食べる。
イタリアといえばジェラート(アイスクリーム)だが、
僕はグラニータが好きだ。
冷たくて、甘くなくて、そしてきゅっと酸っぱい。
本当のレモンで作ってあるから
真剣に酸っぱいのだ。
そしてところどころにレモンの種が混ざっている。
ローマの夏というと僕はレモンのグラニータを思い出す。

(村上春樹著「遠い太鼓」より)
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by foodscene | 2008-06-08 23:55 | イタリア

アイスをパンにはさんで食べる

僕らはパレルモで外食するときはだいたい昼食を食べることにしていた。
夜は外に出るのが億劫なこともあるけれど、
一番の理由は量が多すぎて、夜中(つまりイタリアの夕食時間)に食べると
おなかいっぱいになって寝られないからだ。

パレルモの主要レストランを全部まわったわけではないし、
あまり高い店は敬遠して行かなかったから、
ここがパレルモでいちばん美味い店だと断言することはできないのだが、
僕は個人的にはグラナテリ通りにある『ア・クカーニャ』がいちばん好きだった。
僕はここに3度行った。

ずっとイタリアで暮らしていて、2度行ったレストランはけっこう沢山あるけれど、
3度行った店は少ない。
だから美味しいことには間違いないだろうと思う。
もっともイタリアのレストランは料理人の移動が激しくて、1年後に行ってみるとがらっと味が変わってしまっていることがあるから、
今でもここの料理が美味しいかどうかは自信がないけれど。

ここはまずビュッフェ形式のアンティパストが美味しい。
イタリアのレストランのアンティパストは見た目は美味しそうでも
いざ食べてみると脂っぽいものが多くて閉口することが多いのだが、
ここのは実にさっぱりとしていて、家庭料理っぽいところが嬉しい。

それを食べながら腰のある美味しいシシリーの白ワインを飲む。
それからプリモのお勧めはシシリー名物のパスタ・コン・サルデ(鰯のパスタ)と
イカスミのリングイーネ。
このふたつは優劣つけがたく美味しい。

鰯のパスタというのはパスタに鰯と松の実とフェンネルとレーズンを混ぜた
とても香ばしい料理で、皿が運ばれてきたときの匂いが実に良い。
内容の取り合わせがちょっと奇妙に感じられるかもしれないが、
実際に食べてみるとなかなかなごんだ味わいがある。

シシリー以外ではめったに食べることのできないものであるから、
もし当地に行かれることがあったらこの料理は是非賞味していただきたいと思う。

とはいうものの、もう一方のイカスミのリングイーネも逃したくない。
イカスミのパスタなんてどこにでもあるじゃないかと言われるかもしれない。
でもこれは生半可はイカスミのリングイーネではない。
なにしろ山盛りのリングイーネにこれでもかというくらいイカスミがかかっているのだ。
これを最初に見たときには
「ひとりの人間がこんなにいっぱいイカスミを食べられるものか」とげんなりしたものだが、
でもちゃんと食べられる。
食べてみると実にすんなりと胃に収まってしまう。

食べおわる頃にはナプキンがスミで真っ黒になってしまうのが
難といえば難だが、この迫力もやはり味わっていただきたいと思う。

僕は赤坂の『グラナータ』のイカスミのパスタも好きだけれど、
でも『ア・クカーニャ』のそれに比べるとイカスミ度が一次元違うという気がする。

だいたいにおいてこの店はひとつひとつの料理の量が多いので、
アンティパストとパスタを食べるとおなかがいっぱいになってしまう。

そこで我々はふたりで一品軽いセコンド・ピアット(メインディッシュ)を取って
それをシェアすることにしていた。
本当はアンティパストとパスタだけでもう充分なのだが、
セコンドを断ったりするとウェイターは
「今日の夕方の6時で世界は終わります」と言われたときのような顔をする。
そういう顔はできることなら見たくないので、
いちおうセコンドを注文する。

ここのセコンドは魚が美味しい。
新鮮な魚をさっぱりとした味つけでグリルしてくれる。
トルーマン・カポーティに似たヘッド・ウェイターが魚を運んできて、
ナイフとフォークを使って器用に手早く骨と身を選り分けてくれる。

それからエスプレッソ・コーヒーを飲む。
女房はケーキを食べる。
僕は思うのだけれど、女の人というのはデザート用に小型の予備の胃を持って生まれてくるのではあるまいか。

これで値段は5万リラ(5千円ちょっと)。
これだけ食べると、正直言って翌朝までおなかが減らないから、
まあ安いと言ってかまわないのではないかと思う。
魚がけっこう高いので、セコンドに肉料理を取ると、値段はもっと安くなる。

それからこれはレストランの料理ではないが、
シシリーのアイスクリームはなかなか美味しい。
材料の果物の味が生きていて、とてもフルーティーなのだ。
陽気が温かいせいで、冬でも町にでるとよく屋台でアイスクリームを買って食べた。

アイスクリームを買うと
「コーンにするかパンにするか」と訊かれる。
最初は何のことだか全然理解できなかった。
パンって何だ?
と思ってまわりを見ると、ハンバーガー・パンにアイスクリームをはさんで
もぐもぐと食べている人がけっこういた。
僕の知る限りでは、世界広しといえどもこんなアイスクリームの食べかたをするのはシシリー人だけだ。
こういうのは好きずきだから、いちいちけちをつけるつもりはないけれど。

シシリーの食べ物の美味しさを味わうには何もレストランに通う必要はない。
自炊をする人間にとってもシシリーは至福に満ちた場所である。
なにしろ市場に行くと魚屋がやたら沢山ある。
そしてとれたてのカツオやサバやマグロやイカやら海老やら貝やら、
新鮮な魚介類がずらりと揃っている。
魚だけではない。
野菜と果物に関しても文句のつけようがないくらい豊富である。
ワインだってとても美味しいし、安い。
パレルモという町につくづくうんざりしたこの僕でさえ、
ここの土地が産出する食物だけは素晴らしいと思わざるをえなかった。
なにもかも揃った素晴らしい土地というのはなかなかないものである。

(村上春樹著「遠い太鼓」より)
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by foodscene | 2008-06-08 23:53 | イタリア

のどをいためるな

僕は階下に下りてキッチンで湯を沸かし、コーヒーを作る。
そのうちに女房が目を覚ましてやってきて、
フライパンを温めてパンケーキを焼く。
今日が最後の日なので、冷蔵庫の中にのこっているものをひとつひとつ手際よく
片づけていかなくてはならない。
冷蔵庫の中にはパンケーキの粉が少しとミルクと卵が残っている。
だからこれは誰がどう考えても朝御飯はパンケーキということになる。

粉と卵と牛乳のバランスがいささか悪いが、これはまあ仕方ないだろう。
残りものを片づけるというのはそういうことなのだから。
残りもの—僕はそんなパンケーキを小さく切って口に運びながら、
ふとナポレオンの軍隊がロシアから撤退したときのことを思い出す。
いちばん難しく、いちばん得るところの少ない撤退戦。
雪原を跳梁するコサック兵。
雪嵐。砲声。

トマト食べる?と女房が尋ねる。
トマトがいっぱい余っているのよ。
食べる、と僕は言う。
トマトを切って塩とレモン汁をかけ、香草を刻んでふりかける。

コーヒーとパンケーキとトマトのサラダ、
兵士たちは凍てつく河を渡り、かじかむ手で橋を焼き落とす。
彼らはあまりにも遠く故郷を離れたのだ。

冷蔵庫にまだ何か残っているの、と僕は尋ねる。
スパゲティーとトマト缶とにんにくとオリーヴ・オイルと卵。
お米が少し、ワインが半分、ツナの缶詰。
そんなところよ。

となると昼御飯はひとかけらの疑いもなくスパゲティーのツナ・トマト・ソースということに
なってしまう。

(村上春樹著「遠い太鼓」より)
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by foodscene | 2008-06-08 23:34 | ギリシャ

EJ

それから我々はよくマリーザというのを食べた。
これは魚の中でもいちばん安い部類に属する。

大きさはだいたい4センチから6センチくらいの小魚で、
丼一杯100円くらいで買える。
これを買ってきてよく洗い、油で揚げる。
そして頭からぽりぽりと食べる。

骨がひっかかるのでいっぱい食べるとけっこう疲れてしまうのが
難といえば難だが、カルシウムも豊富だし(ヨーロッパにいると、カルシウムも意外に不足する)、
なかなか素朴な味わいのある料理で、
僕らはよくレッツィーナ・ワインの肴にぽりぽりと食べた。
本当の庶民料理でレストランでもこれを出すのは、
地元民むけのディープ・グリークなところだけだ。
観光客向けの店のメニューにはまずみあたらない。

魚の話ばかりして恐縮だが、タコもよく食べた。
地中海のタコはけっこういけるのだ。
タコは買ってきたばかりのものは固いので、軒下に吊るして干しておく。
そうするとあくる日には芯がとれておいしく食べられるようになる。
ギリシャ人はみんなタコをこういう風にして食べる。

漁師はタコをとると、生きたまま足を掴んでコンクリートにばしっばしっと打ちつけて
やわらかくしておく。
タコの身になってみればたまったものではないが、
まあこれが世のなりゆきだから仕方ない。
そしてそのタコをまた物干しかなんかにかけて1日干すわけである。
この二段階を経てタコはやっと食用に適するようになる。

僕らはこれをやはり七輪で焼いて、醤油とレモンをかけて食べる。
とても美味しい。
ただしタコを干していると近所の猫が何匹か集まってきて、
そのタコをうらめしそうにじっと見上げている。

(村上春樹著「遠い太鼓」より)
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by foodscene | 2008-06-08 23:27 | ギリシャ

クックドゥー

僕らはここでよくイカ(カラマリとという。モンゴイカはスピア)を買った。
ここのイカは柔らかくて、とろけるように美味しかった。
ギリシャ人はイカをだいたい焼いて食べるが、
とてももったいなくて、我々にはそんなことはできない。
もちろん刺身にする。

ときどきは寿司ごはんを詰めて食べたりもした。
日によって違うけれど、イカはだいたいキロ700円くらいした。
ギリシャの物価からすればけっこうな値段だ。

それから鯵に似た魚(サブリージという)を買って、
酢のものにしたり、焼いたりして食べた。
これは姿かたちは大型の鯵だが、鯵には鯖の風味も加わっているという不思議な魚だった。
これはそうしょっちゅうは上がらない。
小型の鯛(シナグリーザ、あるいはリスリーニ)は煮るか、
あるいは葱と一緒にソテーにして食べる。

その他にアナゴやヒラメやタチウオやカマスや、
実にいろんな魚がいた。
どういうわけかカマスは青山の紀ノ国屋なみに高かった。
その他見たことのない魚もいれば、わけのわからない魚もいた。

スコルピオという刺のいっぱいある不気味な魚をごった煮風スープにすると美味いときかされて試してみたのだが、たしかにこれはなかなか美味しかった。
しかし河豚と同じで、舌先にちょっとぴりっとする感触があった。
そしてあとでおなかをこわした。

(村上春樹著「遠い太鼓」より)
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by foodscene | 2008-06-08 23:14 | ギリシャ

さよなら枚方

『モニカ・バー』はモニカというドイツ人の女性の経営するバーで、
夜になるとここはミコノス在住の外国人コミュニティーの集会場みたいな感じになることが多かった。
みんな人淋しいから、夜になるとなんとなくここに集まってきて騒ぐのである。

そんなわけで、ときどき賑やかになりすぎることがこの店の欠点である
(それから便所の水があまり流れないことも)。

でもドイツ人が経営するだけあって、ドイツ風の家庭料理がなかなか美味しい。
寒い日にはよくここに来てドイツ風の熱いスープを飲み、
豆の煮物を食べ、ボイルしたソーセージを食べた。

『ミノタウロス・バー』の主人はイギリス人の女性と結婚したギリシャ人だった。
この人はジャズが好きで、渡辺貞夫のレコードを何枚か持っていて、
僕が行くと、それをかけてくれた。
シーズン・オフにはいつもロンドンに行って暮らすんだ、と彼は言った。
でも今年の夏は商売があまり良くなかったんで、
冬も開けてるんだよ。
なにしろ例のテロさわぎでアメリカ人が来なかったからね。

彼は僕に毎日少しずつギリシャ語を教えてくれた。
もの静かな男で、味でいえばこのバーのカクテルがいちばん美味しかった。
生のフルーツを使って、丁寧にカクテルを作った。
つまみは簡単なものしかないが、味は悪くなかった。

店の彼の性格と同じように、わりに物静かだった。
そしていつも適度な音量でソフトなジャズをかけていた。

(村上春樹著「遠い太鼓」より)
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by foodscene | 2008-06-08 23:06 | ギリシャ