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中華料理店「チャイニーズ・ランドリー」

5つある合成樹脂製のテーブルのひとつ—
僕らの一番好きな窓ぎわのテーブルだ—
にみんなで座ると、ウェートレスが即座にメニューとお茶を持ってくる。
ある意味では、このときが最高の瞬間だとも言える。

僕らの顔を熱のように照らすちょうちんの赤っぽい光、
かじかんだ手を温めてくれる小さく色鮮やかな茶碗、
空腹を焼く熱いお茶。

意外なくらい頼もしく重いメニューは漢字で手書きされ、
いくつかの料理にはごく大ざっぱにちがいない英語の説明が
やはり墨の手書きで添えられている。

僕らがここに来るたびに、メニューはますます長くなっている。
新しい品が書き加えられたら以後消されることはなく、
いまやメニューは何ページにもわたり、
最後まで読み通すのは不可能な長さになっている。
僕らがいくら長生きしたところで、
この小さな、街の片隅の中華料理店にある品全部を味見しつくすことは
おそらくできまい。
メニューにはページ番号もなく、前回どこまで読んだか、
僕らは思い出せたためしがない。
秋の、菊の盛りに食す習わしの菊鍋だったが、
それともライチとビワ入りの杏仁豆腐だったか? (中略)

およそ天と地に存在するもので、この店で食べられないもの、
この店の人たちがごちそうに変容させるすべを見出していないものはない。

松の実の粥、桂花の丸パン、魚の香りソースの鳩、
燕の巣のスープ(南シナ海沿岸の料理で、その巣はアマツバメのくちばしで
消化しやすく噛み砕かれた海草でできていて、
ゼラチン風の材料が固まって小さな半透明のカップを形成している)。
ウニの卵、クラゲの塩漬け、ショウガとコショウの実で味つけした臓物、
五香のハタの頬骨、雲の耳(アラゲキクラゲ)、
綿菓子リンゴ、銀杏と金針(ユリの芽)、苦いメロン......。

(スチュアート・ダイベック著、柴田元幸訳「ペーパー・ランタン」より)
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by foodscene | 2008-08-17 21:34 | アメリカ

with 五輪

・フィクション翻訳終える
・小翻訳出す
・コラージュデッサン
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by foodscene | 2008-08-17 21:31 | 学習

デザートはセロリ

セロリが印象的に使われているもうひとつの小説として、
ジェームズ・ジョイスの短篇「死者たち」を挙げたい。
堅実な暮らしながら食べ物はケチらず、
ふだんから「ダイヤ型の骨がついたサーロイン、3シリングの紅茶、最高の瓶ビール」等を
飲食して暮らしている独身女性3人の家で開かれるクリスマス・パーティが
この小説前半の舞台である(「3シリングの紅茶」は、普通の真っ当なお茶のだいたい3倍の
値段のようです)。

丸々太った狐色の鵞鳥がテーブルの一方の端に横たわり、
もう一方の端には、ひだひだに折った紙を敷いてパセリを散らした上に大きなハムが置かれていた。
ハムの外の皮は剥いてパン粉をまぶし、脛骨には小綺麗な紙のフリルが巻いてあり、
その横には、香辛料で味付けした牛の腿肉。
これらライバル同士の肉たちを両端にして、
あいだにはさまざまなサイドディッシュが平行線を描いている―
2つの小さな寺院のごとき赤と黄のゼリー、浅い皿にどっさり盛ったブランマンジュと
赤いジャム、草の茎をかたどった取っ手のついた大きな緑色の葉っぱ型の皿には、
紫のレーズンや皮むきアーモンドがいくつも山になっていて、
それと並んでスミルナ無花果がどっしりした長方形を描き、
隣にはナツメグをすってふりかけたカスタード、金と銀の紙に包んだチョコレートや
キャンディーをうずたかく盛った小さなボウルと、
ひょろ長いセロリが何本か立っているガラスの花瓶があった。

―居並ぶ食べ物の描写はこれでまだ半分、このあとにもオレンジと「アメリカリンゴ」があり
ポートワインにシェリー酒があり、蓋を閉じたピアノの上にはプディングの巨大な皿が待ち構え、黒ビールに白ビールにミネラルウォーターがそれぞれの瓶のラベルの色を
きわだたせ.....と、20世紀初頭のダブリンでの華やかな晩餐のメニューが
生き生きと伝わってくる。

むろん、豪華な食卓を活写すること自体が眼目ではたぶんなく、
その華やかさのなかで主人公のインテリ男ゲイブリエルが
1人妙に浮いていることをきわだたせるために食べ物たちはそこにあると言ってよいだろう。
が、そうした役割を果たすためには、何よりもまず、
食べ物が食べ物として自らの美味しさを文字から浮かび上がらせねばならないし、
それは見事になしとげられている。

雪の降る寒い街を歩いてきて、
年輩で独身の(それぞれうるさいところはあるけれど基本的にはみんないい人の)
女性たちの迎えてくれる家に入り、
これだけの食べ物が並んだ食卓につくのは、同席者との人間関係さえ
まずまずならきっと素敵なことだろう。(略)

こういうディナーで大きな鵞鳥やら七面鳥やらを切り分けるのはふつう家長の仕事だが、
ここは女所帯、その役割は3人のうち2人の甥っ子にあたる
ゲイブリエルに振られる。
で、これがみんなから浮いているインテリとなると、
よくある展開としては、張り切ってナイフを入れたはいいがインテリにありがちな
不器用さ
「ちょっと、あたしの紙みたいに薄いわよ」
「なんだよこれルービックキューブかよ」等々の苦情が殺到する......となりそうだが、
そうはせず、家長役はひとまずきっちりやってのけさせる
(「彼はいまやすっかり落ち着いていた。肉を切らせたら彼は熟練であり、
たっぷり食べ物の載った食卓の上座に陣取るのは何より好きだったのだ」)
あたりも巧み。

そして、肉をたらふく食べてデザートの段階に至ると、
制作者ジュリア叔母さんに気を使ってみんなはプディングを頬張るのだが、
ただ1人、甘い物を食べないゲイブリエルは代わりにセロリを齧る。

30年前に初めてこの短篇を読んだときには、
そのしばらく前につましいイギリス人一家の夕食に招待されて、
「はいこれデザート」とみんなでセロリを1本ずつ、
子供たちも喜んで齧った記憶も新しかったので、
いいじゃないかよべつにセロリ齧ったって、と思ったものだが、
これはやはり、
ゲイブリエルがみんなから浮いていることのもうひとつのしるしとして
否定的に見るべきだろう。

(柴田元幸著「つまみぐい文学食堂」より)
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by foodscene | 2008-08-16 12:34 | アイルランド

ドット・コム・ラヴァーズ

翌朝仕事に出かけるネイサンと一緒にアパートを出て
(自分が翌朝仕事に出かける必要のないサバティカルというのは、
実に素晴らしい)、
おいしくて有名だと教えられた近所のベイカリーに寄ってスコーンとコーヒーを買い、
ゆっくり食べながら次の地下鉄の駅まで歩いた。
スコーンは本当においしかった。
料理好きな人のお店の評価はなるほど信頼できる。

週末、ネイサンのアパートで一夜を過ごしたあと、
本格的なコーヒーの匂いがキッチンのあたりからしてくるので目を覚ますと、
「この本に出てるものならなんでも作ってあげるから、
どれか好きなのを選んで」と、
朝食メニューのレシピを出してくれる。

「じゃあこれ」と言って、「レモン・ヨーグルト・マフィン」を選ぶと、
「よしきた」と言って、私がシャワーを浴びているあいだに、
アパートの下にあるスーパーに材料を買いに行き、
私が着替えたり髪を乾かしたりしているあいだにてきぱきと、
香ばしいマフィンを焼いてくれた。

以前付き合った男性で、フレンチトーストやオムレツくらいなら
作ってくれた人もいたが、マフィンを焼いてくれる男性はさすがに初めてだった。
夜にはマンハッタンで一番おいしいという肉屋で買ってきた柔らかいステーキ肉を焼き、
マッシュドポテトというものがこんなにおいしいものだとは知らなかったと思うような
マッシュドポテトと、野菜のソテーを、
これまたあっという間に作ってくれたこともあった。

ポーク・チョップだの白身魚のムニエルだのクレーム・ブリュレだの、
短いデート期間にいろいろな料理を彼のアパートで味わい、
実に贅沢な思いをした。

(吉原真里著「ドット・コム・ラヴァーズ」より)
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by foodscene | 2008-08-12 23:47 | ノンフィクション・アメリカ

ドット・コム・ラヴァーズ 2

客が長い列をなしているサンドイッチ屋に入ると、
ウェイトレスは、私には聞き慣れないアクセントで片言の英語をしゃべる若い女性だった。
顔立ちからして、どこか東欧からの移民だろうとネイサンは言っていた。
新鮮なハムとその店で作っているというチーズと焼きたてのパンのサンドイッチは
本当においしかった。

私がボーイフレンドと別れて間もなく、
泣きべそをかきながらジェイソンに電話すると、
彼は「今すぐ行く」と言って、5分後に飛んできてくれた。
こういうときにはなんといっても甘いものが大事と、
ミント・チョコレート・クッキーの袋も持参である。

(吉原真里著「ドット・コム・ラヴァーズ」より)
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by foodscene | 2008-08-12 23:44 | ノンフィクション・アメリカ