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ポリグロット

-300時間 
-ドイツ語は通訳より、翻訳が圧倒的に大きな市場。
 あらゆる分野で、ドイツ語の実務翻訳能力のある人は、仕事に困らない?
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by foodscene | 2009-02-14 02:17 | Books

やるかやらないかの違いだけ

可読性の高いブログ 
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by foodscene | 2009-02-14 02:11 | Books

スチュアート ダイベック 「パラツキーマン」

老人は小さな金色の鈴を鳴らしながら、
白い荷車を押して近所をまわっていた。
四つ角に来るたびに立ちどまると、子供たちがお金を握りしめて寄ってきて、
細かいナッツをまぶした糖蜜アップルや、尖ったスティックに刺した赤いキャンディアップル、
あるいはまた、白い荷車のガラスの下に並んだパラツキーをじっくり吟味するのだった。

タフィーアップルなら駄菓子屋で見ていたし、
赤いキャンディアップルだってサーカスに行けばピエロが売っている。
けれどパラツキーだけは、
よそで売っているのを見たことがなかった。

それはぱりぱりのウエハースを2枚、糖蜜で貼りあわせたものだった。
味はアイスクリーム・コーンに糖蜜を塗ったように思えなくもなかったが、
メアリはむしろ聖餐式を思い起こした。
聖餅(ホスチア)を口のなかに入れて、聖体拝領台から自分の席に帰っていくときの舌ざわり。
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by foodscene | 2009-02-11 01:59 | アメリカ

W G ゼーバルト

カフェ・アルペンローゼで


夏には小さな緑の金属製テーブルと、緑の折りたたみ椅子三脚が、
前庭に植えられた、枝が刈り込まれ葉むらが広々と気持ちよい日除けを作っている
ライムの木の下に置かれた。

作業が完了すると、ケーキは麗々しく客間に運ばれる。
みずみずしい、粉砂糖をまぶしたばかりのケーキが、サイドボードの上に、
その前の土曜日に焼かれたアップルケーキと、もしくはグーゲルホフと並べて置かれ、
ガラスの鐘形覆いをかぶせられた。
したがって土曜の午後に訪れた客は、二つのケーキから選ぶことができたであろう―
古くなったアップルケーキから出来たてのグーゲルホフ、
あるいは古くなったグーゲルホフか出来たてのアップルケーキ。

日曜午後に洗濯の余地は消滅する、なぜなら日曜午後にバベットとビーナはいつも、
古くなったアップルケーキか古くなったグーゲルホフを日曜の午後のコーヒーとともに
食べてしまったからだ。
バベットはケーキフォークを使って食べ、
ビーナはコーヒーに浸して食べる。

ビーナのその習慣をバベットは忌み嫌ったが、妹にそれをやめさせることはどうしてもできなかった。
古くなったケーキを食べ終えると、姉妹は一時間か二時間、
満腹の腹を抱え、薄暗い客間に黙って座っていた。
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by foodscene | 2009-02-11 01:54 | ドイツ

ジョン・バンヴィル「プラハ 都市の肖像」

これまで私は、世界各地で不味い食事をしてきた。

たとえば何年も前、ロンドンの友人宅で、ふくれっ面の料理人によって供された、
牛の腎臓片を上にちりばめたマカロニ料理を私は一生忘れないだろう。
料理人の名は、嘘ではない、ミス・グラブといった
(*Grubは元来「地虫」、口語では「食い物」「餌」の意)。

ブダペストから遠からぬ気持ちのよい小さな町にあった宿屋では、
鴨のスライス、マッシュポテト、ザワークラウトがぎらぎら光る三段階の灰色を構成している。
湯気の立つ大皿を突きつけられた。

さらには、メキシコはオアハカでの素晴らしい秋の午後、
観光地から少し離れた小さな食堂で出てきた、
一見何の害もなさそうな、私も何らためらわずに食べたグリーンサラダはどうか。

そのサラダに隠れて、メキシコのジャンピング・ビーン(トビマメ)のように忙しく動き回るバチルス菌が私の消化器系に侵入し、腸の内壁に三ヵ月の長きにわたって貼りつき、
吐き気に染まった、断続的に電流の貫流する日々をもたらすことになったのである。

チェコとバイエルンは地理的にも近接しており、
両地は不可解な、しかしほとんど偏在的と言ってよい情熱を共有している。
すなわちそれは、ダンプリング(茹で団子)に対する情熱である。

この御馳走の大きさはさまざまで、小さければ頑丈なおはじき—私の小さいころはナックラーと呼んでいた—程度であり、大きければ水を吸った使い古しのテニスボールほどあって、
手触りもいくぶん共通しており、もしかしたら味も共通しているかもしれない。
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by foodscene | 2009-02-11 01:45 | アイルランド

oh, say, can you see?

トマス・ウルフという作家は大柄の大食いで、
この人が食事について書くと朝食からパーティ並に食物がどどんと並ぶ。
これは本当に美味そうである。
たとえば―

朝一家が目をさますと、家には朝食の料理の匂いがあふれていて、
彼らが座る湯気の立つ食卓には、脳味噌、卵、ハム、熱い丸パン、ねばねばのシロップに浸かってじゅうじゅう言っている揚げリンゴ、蜂蜜、金色に溶けたバター、フライドステーキ、火傷するほど熱いコーヒーが載っていた。

あるいは、パンケーキが山と積まれ、ラム色の糖蜜、かぐわしいソーセージ、ボウルに盛った濡れたサクランボ、プラム、分厚く汁気の多いベーコン、ジャム。

昼の食事もたっぷり食べた。
巨大な牛のロースト、バターをつけた太いライマビーン、湯気を立てている柔らかい軸付きトウモロコシ、板みたいに分厚くスライスしたトマト、ごわごわの美味しいホウレン草、
熱い黄色のコーンブレッド、薄く剥がれる丸パン、深皿で焼いた桃とリンゴのシナモンパイ、
みずみずしいキャベツ、深いガラス皿に積み上げた砂糖漬けフルーツ(サクランボ、梨、桃)。

夜にはポークチョップ、若鶏のフライなどを食べた。

トマス・ウルフ「天使よ、故郷を見よ」(1929)のギャント一家の食卓の描写。
朝からすごい迫力である。

息子は父に指でお腹を押されても凹まなくなるまで食べねばならない。

「『ここが柔らかいぞ』と父は声を張り上げ、幼い息子が綺麗に食べつくした皿に、
またしてもビーフをどっさり盛るのだった」。

(柴田元幸著「つまみ食い文学食堂」より)
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by foodscene | 2009-02-11 01:34 | アメリカ

ヌクマム

「わー、これがチャゾーっていうの、おいしそうね」
運ばれてきた皿の上には、揚げた春巻きを小さく切ったようなものが、
香菜をたっぷり添えて盛られている。
「これはビールにとても合うね。さあ、このヌクマムをつけて食べたらいい」
「ヌクマム!」
小鉢のそれをしげしげと奈々子は見つめた。
ようやく本物のヌクマムと出会えたのだ。

「日本にたまに帰って、そして空港に降り立つと—」
梶原は以前言ったことがある。
「なんとも言えないにおいがした。暑さと、そしてヌクマムのにおいだ。
そしてこれをかぐとね、ああベトナムに帰ってきたんだっていつも思ったね」

ヌクマムは茶色のとろりとした液体だ。
少量のためか、それほどにおいは感じられない。
さじで奈々子はチャゾーの上にふりかける。

「そんなにかけるとからいよ」
「いいの。私ってからいのが大好きなの」
口に入れる。
ピリッとくる辛さではなく、舌をやんわりとつつむような刺激があった。
「おいしいわ。チャゾーも揚げたてでほかほかしてる。
これ、外見は春巻きにそっくりだけれど、もっと繊細な感じね。
中身がぼってりしていないわ」

こんなふうに食べ物の感想をすぐに口にするのは俊につけられた癖だ。
東京のさまざまなレストランや料理屋に行くたびに、
2人はぴちゃぴちゃと舌をならしながら、あれこれ意見を言い合ったものだ。

「いま日本はグルメブームなのよ」
奈々子が言いわけめいたものを口にしたのは、"ぼってり"などと言った時、
山崎の目にかすかに軽蔑じみたものが浮かんだのを見たからだ。
「若い人もみんな、いっぱしの評論家みたいなことを言うわ。
それが流行ってるのよ」
「そうらしいな」

***

2人の目の前には、新しい皿が運ばれてきた。
蒸した魚料理と、山のような野菜だ。
「この野菜は、バイン・チャンに巻いて食べるんだ」
ほらっと言って、山崎は白い紙状のものを手にとった。
「なに、それ。クレープ?」
「クレープはこんなに薄くないよ。
ライス・ペーパーって言われて東京でも買えるって聞いたけれど」
「ううん、見るの初めて」
それは触れるとパリッと破れそうなほど薄く乾燥していた。
「このままでは巻きづらいからね。お湯にひたしてクルって巻くんだ」
ままごとじみた手つきで、奈々子は1枚をとりあげ小さなボールにつける。
野菜も見たことがないようなものばかりだ。

「それはドクダミにハッカだよ」
「えーっ、ドクダミなんか食べられるの」
そう叫んだものの、何種類もある緑の中から、どれがドクダミだともわからない。
よく知っているニンジンにサラダ菜を選び出し、こわごわとのせた時だ。
奈々子の肩ごしに、すうっと手がのびてきた。
バイン・チャンをとり上げ、すばやく野菜をたぷりとのせる。

「この店のマダムだよ」
髪を結い上げ、青いアオザイを着た女は、奈々子のために3つも野菜をバイン・チャンに巻いてくれた。

(林真理子著「戦争特派員」より)
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by foodscene | 2009-02-08 15:12 | フランス

モンブラン

「じゃ、お茶を飲みながら話しましょうや。知りませんでした?
このホテルの4軒先はね、パリでいちばん有名な菓子屋なんですよ」
どうやら山崎は相当の食いしん坊のようだ。

「ここのモンブラン、ごらんなさい。
ここのを食ったら、もう他のものは絶対に食えない」
やわらかい自然光がさし込んでくる、サロンのような喫茶店だった。
ウエイトレスが運んできたモンブラン・ケーキを指さしながら山崎は興奮したように言う。
「日向さんも、召し上がったらいかがですか」
「私、甘いものは苦手なんです。というよりも、食べないことにしているといった方がいいかしら。
食べちゃいけない、食べちゃいけないってことばかり思ってたら、
いつのまにかあんまり食べたくなくなっちゃったんです」
「女の人はかわいそうですね。
僕も前には甘いものが嫌いだったけれど、
このパリに来てから好きになりましたね」

山崎はフォークでさくっと割る。
中にもクリームが入っているらしく、まぶした砂糖の間から、とろりと白いものが顔をのぞかせた。
「甘いものとワイン、この2つを口にしなきゃ、フランス料理は食べたうちには入りません。
こっちの連中は左党にして甘党ですな」
ケーキを頬ばりながらも、山崎の手はせわしなく動き、書類をいくつか鞄からとり出す。

(林真理子著「戦争特派員」より)
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by foodscene | 2009-02-08 15:01 | フランス

戦争特派員 エビ

着いたところは渋谷のはずれにある中華料理屋だった。
見たところ、何のへんてつもない店だ。

「だけど結構うまいんですよ。香港の大富豪に仕えてたっていうコックがやってましてね」
梶原は顔なじみらしく、ウエイトレスの娘がにこにこしながらメニューを渡す。
「今日は、エビがおいしいよ」
ややおぼつかない日本語を喋る彼女は、半袖を着ているのに、鼻の先に汗をかいている。
「じゃあ、それをもらおう。それからシイタケと竹の子の炒めたやつ」
「はい、いつものやつね」
ウエイトレスは、ちびた鉛筆をなめなめ言った。
調理場の方からよいにおいが漂ってくる。
見かけよりはずっと、美味いものが出そうな店だと奈々子は見当をつけた。

「私もオーダーしていいかしら」
にっこりとする。
中華はメニューから文字が浮かびあがってくるようで、フランス料理よりずっと楽しい。
「青菜のクリーム煮、それからお肉も食べたいわ。このピーマンと牛肉の細切り炒めちょうだい」
さんざん迷ったわりには、よく知っている料理になった。
料理が来る間、奈々子だけビールを飲む。

***

ウエイトレスが、ほかほかと湯気の立つ皿を運んできた。
ぶ厚いシイタケが、こってりとした醤油色の腹を見せている。
「そうだわ。スープも欲しいわ。フカヒレ無いかしら」
そう言った後で奈々子はしまったと思った。
こういうものは、よほど気心がしれた男と一緒でなければ注文しない方がいい。
もしかすると、梶原は吝嗇な男かもしれなかった。

***

隣りのテーブルに、新しい皿が置かれた。それは蟹の味噌炒めだ。
「まあ、これ、卵がぎっしり入ってるのね」
隣りのテーブルの女が叫ぶように声をあげた。
「おいしそうね、あれ」
奈々子の耳はすばやく"卵"という単語をとらえる。
「蟹、オーダーしてもいいかしら」

その時、梶原は実に奇妙な顔をした。
「こんなことを言うのは失礼かもしれないけど......」
ためらうように言葉を続けた。
「そんなに頼んでも食べきれないと思うんだけど、
どうしてそんなにいっぱい注文するの」
「あら、ごめんなさい」
奈々子はぷんとむくれた。

***

「チャイニーズの時は、いつもそうしちゃうの。
だって、いっぱいお皿が並んでなきゃ嫌なんですもの」
奈々子は、つんと肩をそびやかした。
後の食事は気まずいものとなった。
今まで奈々子は、オーダーした皿数のことで、男のあれこれ言われたことなど一度もない。
誰もがメニューをのぞき込んでいる奈々子を楽し気に眺めたものだ。

「ほうら、青菜が来たぞ」
梶原は大げさな身ぶりで皿を受け取った。

******

今度は奈々子が、梶原におもねらなければならなくなった。
「ねえ、梶原さんは、世界中のいろんなものを食べたんでしょう」
「そうですね。まあふつうの人よりは多いかもしれない」
「ねえ、ベトナム料理っておいしいの」
奈々子はずばり聞いてみた。
ベトナムという言葉を出して、梶原がどんな反応をするか見たかったのだが、
料理にからませて聞く分には、そう抵抗がないに違いない。

「おいしいですよ。あそこの国の食いもんは」
梶原はあっさりと言ってのけた。

「空港に降りたったとたんに、むーんとにおうんだ。
それは人の汗のにおいと、ヌクマムのにおいがごっちゃになったもので、
それをかぐと、ああベトナムなんだって思うんですよ」
「ヌクマムってなあに」
「日本で言えば醤油みたいなもんかなあ。
あちらには欠かせない調味料なんですよ。
日向さん、パリに行くことありますか」
「ええ。私の上の男性が行くことが多いんだけれど、年に2回ぐらいはね。
あちらにもユウコ・オクヤマのブティックがあるの。
日本で買う3倍ぐらいの値段になっちゃうんだけど、それでもスノビッシュな人種に人気があるみたい」
「そうですか。それだったら、ぜひベトナム人街に行ってくださいよ。
あそこだったら、本場のベトナム料理が食べられますよ」
「本当?じゃ、今度行ってみようかしら」

(林真理子著「戦争特派員」より)
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by foodscene | 2009-02-08 14:33 | 日本

エスニックレストラン

2人のテーブルには、ほかほかと湯気の立つ料理が運ばれてきた。
奇妙なかたちの肉塊が皿の真中に横たわっている。

「あら、トリの唐揚げ頼んだかしら」
「トリじゃないよ。カエルの唐揚げだよ。さっきオレが頼んだのさ」
「イヤだわ。カエルなんて」

千葉の郊外で育った奈々子は、幼い時カエルの鳴き声をさんざん聞いた。
学校の帰りに、いじめっ子に雨蛙を目の前につきつけられたこともある。
そんな小動物とフライというのがどうしても結びつかない。
メニューでその文字を見てもオーダーする気にはなれなかった。

「カエルっていっても、食用ガエルだよ。あっさりしたチキンみたいでうまいぜ」
食い道楽を自認する俊は、目を細めてひときれを自分の皿に盛った。

「この店って、お料理はタイ風あり、マレーシア風ありって感じで、
どこの国の料理かわからないわよね」
「だからエスニック・レストランって名づけてるんだよ。
なんでも無国籍にしちゃうのが東京のいいところだからな」
俊は器用に箸を使って、カエルの骨をとりのぞいている。

「ね、カエルなんておいしいの」
「だからひとつ食ってみろよ」
「そんなの食べる人、本当にいるのかしら」
「あたり前だよ。確かこれ、ベトナム人の大好物だって聞いてるぞ」
「ふうーん、ベトナム人がねえ......」

(林真理子著「戦争特派員」より)
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by foodscene | 2009-02-08 14:11 | 日本