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卒業写真

やがてくりぬいたマンゴーの中に、
熱いフカヒレのスープが入って運ばれてきた。
マンゴーの身を崩しながら食べるらしい。

果実の甘みが、スープの海の味をさらに複雑なものに変えている。
綿貫はかなり不作法にスープを啜る。
まるで中華料理だから、マナーの呪縛から逃れられると思っているかのようだ。

林真理子「花探し」
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by foodscene | 2010-05-04 21:54 | 日本

always

料理が運ばれてきた。
アミューズの後は、ホタテ貝のマリネにキャビア入りのクリームソースがかかったもの、
海亀のコンソメスープという本格的フランス料理である。
鴨のフォアグラのポワレには、イチジクのソースがかかっていた。

これに合わせてワインは、アルザス・リースリング、
81年のシャトー・クリマン、
78年のシャトー・ランシュ・バージュという、
そう高価ではないが凝ったものが組み合わされていた。

林真理子「花探し」
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by foodscene | 2010-05-04 14:41 | 日本

貧乏も

狭い店だったが、4席を残してすべて埋まっていた。
あきらかに粋筋だとわかる和服の女と初老の男とが、
並んで箸を動かしている。

「お飲み物、何にしまひょ」
「やっぱり日本酒だな。
ここは灘のものしか置いてないよね。
ま、それを冷やして2本持ってきてよ」
「あら、瀬口さん。ワインを飲まないの」
「うーん、ワインと和食の組み合わせはむずかしいからなあ。
頭の中でわかってても、
和食の思いがけない隠し味がとんでもないことになる。
だから僕はこういうお店では、日本酒を頼むことにしているんだ」

前菜の後にほんの少し、冷たい茶碗蒸しが出された。
匙ですくうと底の方に雲丹がたまっている。
この雲丹を食べさせるために、玉子の膜をかぶせたという一品である。

「すっごくおいしい」
美和が身をくねらせ、瀬口が雲丹について講釈するのも、
いかにも狎れ合った男女という感じだ。

鱧の皿が出た時、梅肉をそう多くつけるものではないよと、
瀬口は美和にアドバイスさえする。

やがてカウンターの中からよい香りがし始めた。
主人が無造作に松茸を焼き始めたのである。

「6月頃、梅雨松茸を食べたけど、これは久しぶりだなあ」
牟田が珍しく声を発した。
さっきまでこの席は、食通の瀬口の独壇場といってもよかったからだ。
「これは徳島のものです。
もうそろそろいいものが出始めています」
おそろしく高価なものを、
出来るだけぞんざいに扱うのだ、と言う風に主人は松茸を大きくざくっとむしった。
4人は無言ですだちを絞り、口に入れる。

「もう充分香りは出てるね」
と瀬口はおごそかに告げた。
「先週、東京で九州のものを食べたけど、
こっちの方がずっといい」
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by foodscene | 2010-05-03 15:00 | 日本

病気はみこころではない

舞衣子は軽やかな蟹のサラダをオードブルに頼み、
その後は冷たいゴボウのクリームスープをすすった。
ぜひ試して欲しいと店の男が勧めたものである。
その後魚料理が出たが、これは平凡な一品だった。

「ゴボウのクリームスープなんて初めてだわ。
ヴィシソワーズとか、お豆のスープは飲んだことがあるけど」
「ここのシェフは、日本の野菜を使って面白いものをつくる。
ものすごくいろんなことを工夫していいよ...っていうのは、
これまたグルメの友人の受け売りなんだけどね」
---
その日のスクールでのメニューは、ガスパッチョと仔牛のハーブ焼きである。
ガスパッチョは、夏向きの冷えた野菜スープだ。
「バルサミコ酢は必ず使ってくださいね。
他のお酢では絶対に代用がききませんからね」
---
「お嬢さん方のために、白桃でベリーニにしてもらった」
「うん、いいね」
その後2人の男は、ワインについての相談を始めた。
この知識は瀬口の方が断然詳しく、
牟田はあいづちをうつ、といった役割である。

前菜は菓子のような一品が運ばれてきた。
サーモンと帆立貝のミルフィーユである。
これを崩さないようにナイフで切り分けるのは大層むずかしい。
舞衣子は息をこらし、薄桃色のソースのかかった層に刃を入れた。

「お料理もワインも最高だわ」
「そりゃ、そうだよ。
最初からムルソー・シャルムの89年という正統コースですからね」
瀬口が言い、それから季節のうまいものの話となった。
「こういう暑い時に、京都でうまいものを食べるのが最高なんだよ。
—で鱧食べて、—で鮎を焼いてもらう。
あそこは持ち込みOKだからさ、いい白に合わせて何かつくってもらう」
「ああ、いいね、いいね」

林真理子「花探し」
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by foodscene | 2010-05-03 14:52 | 日本