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葡萄が目にしみる

昼食を用意するために、ひと足でも先に帰ろうとしているのだ。
ご飯はこの春買った自動炊飯器で炊き上がっているし、
カレーは朝につくってあるから温めればいいだけだ。
それなのに多美江はいつも早足になる。
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叔母ちゃんのうちのまわりは、なにもつくっていない不思議な畑が続いていて
あまり東京という感じはしなかった。
それでも叔母ちゃんはまだ小学生だった乃里子を映画に連れていってくれたうえに、新宿の中村屋でカレーライスをごちそうしてくれた。

「ノリ、ここのカレーは東京でいちばんおいしいんだよ。
っていうことは日本でいちばんおいしいんだからね」
と叔母ちゃんは言った。

うちで食べるカレーと同じ味がしたけれども、
それでも叔母ちゃんがいうのだから日本一のカレーだと盛った。

******

この地方は、どういうわけかお盆は新暦でおこなわれる。
自転車で走っていると、軒先に提灯をぶら下げた家が目につく。

乃里子は今朝食べた餅の味を思い出した。
餅に黒蜜をつけ、きな粉をまぶしたものをお盆に食べるのが、
このあたりの習わしだった。
巻き寿司をつくることもある。
このどちらも乃里子の好物だった。
「まったく、この子は太るもんばっか好きなんだから」
多美江がため息をつきながら嬉しそうにしているのも毎年のことだ。

餅のことを考えたら、急に乃里子はたえがたいほどの空腹を感じた。
昼食もとらずに自転車を走らせているのだ。
おまけに空はかっきりと青く、雲は明確に夏の雲となっていた。

******

台所へ行くと、テーブルの上には焼いたサンマと漬け物、
それに「油味噌」とよばれる夏野菜の炒め煮が置かれていた。
電気釜の飯もすっかり冷めていたが、
乃里子は茶碗によそってがつがつと食べ始めた。

「わあー、ノリちゃんってよく食べるじゃん。
だからブタになるんだね」
エリカが生意気な口をきいた。

******

「ふーん、小川君のうち、食堂をしてるの」
乃里子はなんとはなしに、小川君の弁当を思い出した。
乃里子の2つ前に座っているから、それはよく目に入る。
大ぶりの弁当箱に、カツやフライ、そしてサラダが彩りよく入っていて、
いかにもおいしそうだった。

******

その頃、洋裁をしていた多美江は、デパートや専門店の布地売場をまわって、
よく木綿のプリント地を買ったものだ。
そしてその後、きまって乃里子にオムライスを食べさせてくれた。

もちろんオムライスは乃里子の好物だったけれど、
多美江が考えているほど好きではなかった。
多美江はその頃から乃里子の感情を倍ぐらいに誇張して考える癖があった。

******

「お昼はうどんでいいら。お父ちゃんもいないし、2人っきりだから」
「なんでもいいってば」
乃里子は乱暴に2階にかけ上がった。

******

「ノリ、今日は寒いだからちゃんとしとけしね」
多美江がコタツの上でご飯をよそりながら言った。
茶碗から立ちのぼる湯気が今日はいっそう濃い。
弁当箱からも同じような湯気がたち昇っている。

「おかず、卵焼きとハムでいいら?
夕べ煮た肉を入れといてやらっかと思ったけんど、
今日は寒いから脂が固まるから......」
「なんでもいい」

******

乃里子はカバンをあけた。
白い布にくるまれた弁当箱が見える。
ためらいなく結び目をといた。茶色い肉汁がしみている。
入れないといったのに、牛肉の煮込みを多美江は弁当箱に詰めたらしい。

ふたを開けた。まだほんの少しぬくもりが残っていた。
黄色い卵焼きは肉汁がしみて、やや褐色になっていた。
それを口に入れる。
多美江好みの甘からい味つけだ。

飯粒を口に入れた。うまいと思った。
もう一口、大きなかたまりを口に入れる。
わざとガツガツと大きな音をたてて食べた。
ハムも口に入れる。
くちゃくちゃと歯でこねまわす。

******
岩永がラーメンをすすっている。
ラーメンの他に、丼に盛ったライスも見える。
ズルズルとメンをすする音は、昼休みの教室でもやはり目立った。

最近、岩永は、校門前の喜楽軒からよくラーメンライスを配達させている。
昼休み開始のチャイムの5分ほど後に、喜楽軒の若主人が必ずといっていいほど
教室の窓の下に立っている。

******
今日子が岩永に分けあたえたお菜は、乃里子の席からはよく見えない。
しかし、たぶんきれいな彩りに違いない。
乃里子だったら味が濃い茶色めの玉子焼きにするところを、
今日子はゆで玉子にして半分に割り、
レタスにくるむようなところがあった。
「ありがとう、今日子ちゃんのお弁当はホントにおいしいなあ」
******

彼女たちのお気に入りはこの福味屋だった。
普通の菓子屋だったが、生徒たちが座って食べられるように
土間の片すみにテーブルが置かれている。
ここで夏には氷水も口にすることができる。

菊代は2個目のアイスクリームを食べているところだ。
乃里子はパック入りの焼きソバをとっくに胃の中に入れていた。
補習のある日は、自分たちでもあきれるほど、
いろんなものを帰りに詰めこむ。

******

「私とタケオは、キールをいただいてたの。
岡崎さんはなんになさる」
美弥子が聞く。
「ドライのシェリーを」
乃里子は美弥子の隣りに腰かけながら言った。

「オードヴルは牡蠣にしましょう。今朝いいものが入ったんですって」
「それより僕はウニか何かにしてほしいな。
おととい寿司屋で食べたらうまかった。
カナッペにしてもらおう」
「それだったら、メインをウニのソースを使ったものにしてもらいなさいよ。
今だったら牡蠣を食べるべきよ」






林真理子著「葡萄が目にしみる」
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by foodscene | 2011-08-28 12:50 | 日本

愛してよろしいですか?

「急にハラがへってきた。めし、めし」
とさわぎたてた。
「そうね。もっとボリュームのあるものを買えばよかったかな」
近くの店で手当り次第買ってきたのは、
三日月パンと赤ワインの安もの、カマンベールチーズ、オレンジである。

私はハンケチを石のベンチに敷いて、それらを並べた。
「いやいや、これで充分。
大ごちそうですよ。
タベモノなんて少ない目にあるほうが、うまい気ィするのんとちがいますか」

***

小山がゆるぎ出したような太っちょのおじさんが、
エプロンをつけたまま出て来て注文をきいた。
「スパゲティ、たべる?」
と矢富クン。
「もちろん、もちろん、大もちろん!」
と私は勢いこんでいった。
ローマも今夜で終り、なんだから。
そしてローマのスパゲティはやっぱり日本でたべられないくらいおいしい。
スパゲティ・アッレ・ボンゴレ、貝入りのスパゲティに、仔牛のカツレツをたべることにした。

うれしくて、何ということなく廻りをみまわし、
「ハハハハ......」
と笑えてきた。
矢富クンといると「何ということなく」ということが多い。
それぐらい気を使わなくていいからかもしれない。
「サリューテ(乾盃)!」
と赤いワインのグラスをうちつけ合う。
ワインはガラスのでキャンタになみなみと満たされる。
淡いコクのあるワインで、これもわるくない。

スパゲティも仔牛のカツレツもおいしくて、夢中で食べていた。

***

三輪ふく子はすき焼きの用意をして待っていてくれた。
小学校3年生の男の子と、5つの女の子がいて、
子供たちは先に食べさせ、私とふく子はビールをあけて飲む。
ふく子はどっさり肉をたきながら、
「テキのおらへんときほど、張りこんだるねん」
といっていた。
テキというのは夫のことである。

****

ゆうべ、母のところでもらってきたタベモノがあるので、
パックからそれを鍋にうつして暖める。
鳥肉やにんじん、たけのこ、絹さやなどをたいた筑前煮、
それにアジの南蛮漬け、といったノコリモノである。

****
ここのトマトソースは、ニンニクが入っている。
お昼ごはんに食べるにはすこし困るが、
そんなこと、いちいちいってたらせっかくの楽しみに水をさすことになるから、
「おいしい?」
と矢富クンがいったとき、私は顔も上げず、
「ウン!」
といった。

どっさり貝が入っていて、スパゲティを食べたあとも、
まだソースと貝を楽しめる。
私も矢富クンも夢中で食べた。
私がやかましくいったので、ワインはとらない。
赤い顔をして会社へ戻るわけにいかないもの。

「ゆうべのシチューとどっちおいしい?」
矢富クンは聞いた。
「シチューって?」
私は自分でいったウソを、自分で忘れている。
「パーティしたんでしょう、2人で」
矢富クンはひやかすようにいう。

***

矢富クンはちっとも変っていない。
ク、ククク...と笑うのもそのまま、
よく冷えたシェリー酒を、まず私についてくれるのもそのまま、
私が、
「今夜はあたし、払う」
というと、愛嬌よくあたまを下げてニッコリするのも見慣れた感じ。

ニンニクのきいたトマトソースで、また、
たっぷりスパゲティをたべ、そのあと、鶏の手羽の焼いたのや、
トマトソースのかかった車エビを夢中でたべた。

エビは熱々でカラをむくのも指をやけどしそうなくらい、
よく身がしまって雪白で、それが油に焼かれて金色になっている。
それへ、ピリッと辛いソースがかかっている。
しびれた舌を、冷いワインでひやし鎮めるのである。

私もよく食べるが矢富クンも健やかにくらう。
ほそいくせに、いくら食べても満腹みたいな顔をしない。

ウチの会社の若い男の子なんか、うどん1ぱいも食べられず、
5すじ6すじくらい食べるとサーッと立ってしまう。
(もったいないことをするヤツだ!)
と私はいつも腹を立ててしまう。

***

旦那と天候をいっしょくたにして怒っている。
私は冷蔵庫からまず、冷いコーラ、それに私がつくって冷やしておいたプリン
(粉末をミルクで溶いて火にかけたもの)を出してきた。

三輪ふく子は、コーラを飲み、プリンをたべ、扇風機にあたって、
やっと人ごこちがついたようであった。

「何をゴチャゴチャいうの?...」
私は小さな台所でキャベツを1枚ずつ剥いで洗っている。
どうせふく子は食事をしていくことになるだろうと思ったので、
2人ぶん用意することにした。

尤も、冷凍庫に入れてあるコロッケを電子レンジで解凍して、
油で揚げるだけだから、簡単である。

***

冷いそうめんを食べて人ごこちがつくと、
だいぶ機嫌がなおってきた。
京都らしい、しっとりした店で、どのテーブルの上にも、
造花でない、ホンモノの露をふくんだりんどうが一輪ずつ飾ってある。

それに、お薄にくず饅頭なども食べられるところがよい。

***

炉ばた焼きの店はいつ行っても、たくさんの客がぎっしりつまっていて、
目立たなくてよい。
小松菜のおひたしとか、ぜんまいのたいたのとかもあって、
それにイカの丸焼きをぶつぎりにした一皿をもらい、
お酒を飲んでいると、1人ぼっちの空間が、
たまらなく慕わしく、なつかしくなる。

***

「ねえ、何か、たべさしてくれるの、シチューは。
スウちゃん、シチューつくってたやろ。いつか」
「シチューなんて、すぐできないわよ」
「シチューの素あるよ。ウチのスーパーにも売ってる。
あれだとすぐできる。
僕、買うてきます」
「ようし、そうしようか」

私はメモに買物を書いて、財布と一緒にワタルに持たせた。
ワタルは嬉しそうに出ていったけど、
私も嬉しくって。
ありあわせの材料をよせ集めて、鍋を火にかけた。
こういう楽しみは、まだしたことがなかった。
誰かのために料理してやる、それも、
三輪ふく子のグチをききながらするのではなくて、
ワタルと食事をたのしむため、なんていうのは、
ふく子には悪いけれど、比較にならない楽しさである。

ワタルはウイスキーの瓶まで買ってきていた。
尤も、私の財布からだけれど、しぶちん(ケチ)の私が、いやもう、
ワタルに使う金は全然、惜しくないのだ。

シチューの素は、カレーの素みたいに、板チョコ風である。
割り入れると、いい匂いが立って、
3時間煮たシチューと、かわらない。

「お皿どれ?」
「あ、下の戸棚あけて」
なんていうのは、私には大げさにいうと、何年ぶりかの楽しさである。

***

シチューは申し分なく、結構いけるのであった。
サラダといいハムを少し、それに塩味のパン、バターの代りにクリームチーズを
私は冷蔵庫から出してきた。

「いつもこんなご馳走たべてるの?」
「そーんなこと、ないわよ。
だけど、わりと、あたし、気が向くとチャンとする。
お皿も並べてきちんと品数をそろえて食べたりするわね-
でないと、1人ぐらしはトコトンおちてゆくから」

ワタルはおどろくほど食べる。
細い軀にしてはよく食べる。
私が冷蔵庫に入れたままになっていた、
大根と厚揚のたいたオカズ、それも暖めて出すと、
「うまい。僕トコのおばあちゃんと同じ味」
おばあちゃん子のワタルは、こういう田舎料理が好きらしかった。

それで残りものの御飯を、私は少しあたため、
紫蘇を粉にしたものをまぜて、
紫蘇御飯にし、おにぎりをつくった。
ワタルはそれも、すっかり、食べてしまった。

この紫蘇の粉は、母のしていたのを真似てつくってみたのだ。
梅干の紫蘇だけ残ったので、それを絞ってザルで乾かし、
手で揉んですり鉢でつぶして粉にする。
それをコーヒーの空き瓶に入れてある。

御飯が残ると、混ぜて紫蘇入りおにぎりにする。
そうすると、おいしく食べられるのだった。
そういうことも、私は手まめにやっている。

***

私は玉葱を注意ぶかく、いためていた。
この、いためかたがコツ。
ちょっとでも焦がしたらすべてパーになり、
も一度やり直さないといけない。

焦げた臭いは、鍋を洗ってもしばらく落ちず、
あたらしい鍋を使わなければならないことになる。
だから細心の注意を払って、気長に、しんなりと薄切りの玉葱をいためていた。
弱火にし、腕がだるくなってくるくらい、
木杓子でかきまぜるのである。
だんだん透き通ったアメ色になり、いい匂いがしてくる。

そこへ小麦粉を入れて充分、いためる。
そうして、かねて作ってあるスープを少しずつ入れ、煮つめるのである。
このへんの味つけが、たのしいところ。

***

お昼は、外の中華食堂「長崎楼」で、皿うどんを食べていた。
係長が偶然はいって来て、
席がいっぱいだったから、
「よろしおまっか」と私の前に坐り、同じように皿うどんを注文した。

***

私は会社が終るなり、息せききって帰ってきた。
今夜来るワタルのために、オニオングラタンスープをつくってやろう、と思って。
どっさり、おろしチーズをスープにふりかけて、
もう7時前になっていたから、
オーブントースターに入れた。

こんがり焼けて15分、チーズがとろりととけて美味しそうにでき上ったが、
ワタルは来ない。
私はサランラップにつつんだりして、けんめいに保温していたが、
そのうち、だんだんさめ、ついに、すっかり冷えてしまうまで、ワタルは来ない。

ミルクだけコップ1杯飲んで、食べものはみな冷蔵庫へしまいこみ、
足でドアを蹴って閉めた。
昨日の夕方、あんなに精魂かたむけて玉葱をいため、
おいしいオニオングラタンスープを作ったのに、
ワタルは来なかったから食べそこねた。
肉を焼くばかりにしてニンニクなんか摺りおろしていたので、
ニンニクの匂いが部屋に沁みついていた。

***

急にワタルが来てもいいように、と思って、
サラダをたくさんつくったり、していた。
しかしそのうち、オナカが空いてきたので、
ゆうべの残りモノで食べてしまう。

***
私はバニラエッセンスを入れて作ったゼリーを、ワタルに食べさせた。

ワタルはしかし、ゼリーをおいしそうに食べた。
コーヒーゼリーと、2つとも食べてしまった。

***
私はニンジンだの、ゴボウだのの、下ごしらえをしている。
もう1つのレンジには朝からずうっと、
黒豆がコトコトとたかれていた。

私はニンジンの乱切りをザルに上げながら、
何ということなく、ワタルに金を貸した話をふく子にしてしまう。

***

尤もその最後の言葉は、そのあくる日、
係長に誘われていった、れいのミナミの小料理屋、というより、安直な飲み屋でいったのである。
私たちは、暖かいおでんを皿にとってもらった。

***

「美味しそうな、大根ねえ。刻み漬けにしたら美味しいでしょうねえ」
「漬物はどっさり、あるよ。
ここの漬物はうまいな」
と漬物好きのワタルは邪念なくいっていた。

***

食事はなるべくおそくていい、といっていたけど、
8時ごろが限度らしくて、もう出てきた。
仕方ないから1人で食べた。
海から離れているが、カニが出た。

田辺聖子「愛してよろしいですか?」
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by foodscene | 2011-08-28 12:46 | 日本

女ともだち

「もしもし、筍ご飯のつくり方ば、教えてほしか」
「そんなん、なにすると」
「明日、新入生歓迎ピクニックのあると。
そんお弁当ばつくるとよ」
「そげんとは、他ん人に任せとかんね。
あんたんアパートはろくな台所もついとらんじゃなかね、
東京のおうちから通とる人にまかせときなさい」
「そういうのが嫌なのよ」
思わずきつい東京弁が出た。
「私、筍ご飯のお握りをつくる。変わってて、みんなも喜ぶと思う」

淳子は母親が言うとおり、こぶりの筍と油揚げを買いに走った。
たったひとつしかないガス台にかけてコトコト煮る。
「ねえ、水加減ば教えてくれんね」

結局、公衆電話を2回行ったりきたりして、筍ご飯はできあがった。
母親の言うとおりの水量にしたのに、なんとしてもやわらかく、
しゃもじがぶすぶすと入る。

淳子の心づもりとしては、この筍ご飯でお握りをつくるつもりだったのだ。
妙子がそれを持ってくると言っていたが、
多分シャケやタラコの入った平凡なものだろう。
筍ご飯でお握りをつくるというのは、
いまの季節にぴったりで気がきいている。
男子学生たちは歓声をあげてとびつくはずだ。

ところが、電気釜の中の筍ご飯は見たところ茶がゆのようになってしまったのだ。
やたら海苔をはりつけてなんとかかたちを整えようと淳子は必死になった。

こうして深夜の2時に15個のお握りが完成したのだが、
困ったのが容れ物だ。

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「私はサンドウィッチだったから簡単だったわ。あのね...」
悪戯っぽい目をそっと近づける。
「私、おかあさんが焼いたばっかりのフルーツケーキ持ってきたの。
でもあんまり多くないの。
1年生の女の子たちだけでこっそり食べましょうね」
「うん」
淳子はこっくり頷いて、2人はなんとはなしに微笑み合った。

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ブルーのギンガムチェックのナプキンの上に、
暁子の弁当がひろげられた。
ハンカチを持っていない女とは思えないほど、さまざまな心づくしがしてある。

レーズンブレッドに玉子をはさんだサンドウィッチなど淳子が初めて口にするものであった。
ローストビーフにからしを塗ったもの、
スモークサーモンにきゅうりの酢づけをはさんだものなど、
贅沢な材料がふんだんに使われていた。
「こりゃ、うまい。吉岡、お前いい嫁さんになるぞ」
「もちろんそのつもりです」
暁子はみなを笑わせた。

「オレは米のメシもいいなぁ。おっ、浜崎の握りめしもベリーグッド」
遠藤が、今度は妙子のお握りに手を伸ばしている。
頬ばりながら、大声で聞いた。
「おい、平井、お前は何を持ってきたんだよ。
まさか食べるだけじゃないだろうなぁ」
「違いますよ。私もつくってきました」

「お、うまそうじゃん。筍ご飯かよ」
遠藤はさっそくひとつつまもうとするが、めし粒の崩壊は、いくら海苔をべたべた貼りつけても
防げるものではなかった。
「なんだよ、このお握り。持てないでやんの」
遠藤の指の間から、茶色い飯粒がぽろぽろとこぼれ落ちる。
いっせいにみんなが笑って、淳子は本当に腹が立った。

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「まぁ、小さな冷蔵庫。何が入ってるの。
ねぇ、ねぇ、私お肉とお野菜買ってくるからさぁ、カレーをつくりましょうよ」
暁子は家事をしっかりと仕込まれているらしく、
手ぎわよく野菜を切っていく。
「さ、さ、お皿出して。え、4枚ないの。
じゃ、いい、私おわんで食べちゃうわ」

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「私ね、おつまみに貝の"ぬた”だけ作っといたの。
食べてちょうだい」
暁子は甲斐甲斐しく皿を並べた。
外で会う時よりも、"けなげ”という表現がぴったりだ。

スキヤキはとてもうまかった。
牛肉はたっぷりと量があって、4人が食べ終ってもまだ皿に5分の1ほどが残っていた。

林真理子著「女ともだち」
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by foodscene | 2011-08-13 16:40 | 日本