<   2012年 07月 ( 9 )   > この月の画像一覧

農場の少年 6 Candy Pull

「ねえ、アイスクリームをつくろうや!」ローヤルが大声をあげた。
イライザ・ジェインは、アイスクリームが大すきなのだ。
ちょっとためらったが、「そうねえ…」という。

ローヤルのあとからアルマンゾは氷蔵へ駆けていった。
ふたりでおがくずから氷をひとかたまり掘りだすと、
穀物をいれる麻袋にいれた。
その袋を裏ポーチにおいて、手斧でたたいて氷をくだいた。

タマゴのしろみを深皿で泡だてながら、アリスが外へ出てきてそれをながめていた。
アリスはフォークでしろみを細かくくだいて、
深皿をかたむけても流れおちなくなるほどかたく泡だてた。

イライザ・ジェインはミルクとクリームをカップではかり、
食料部屋の樽の砂糖をすくい入れた。
それはふだんづかいのメイプル・シュガーではなく、
店で買った白砂糖だった。

母さんはお客さんのときにしか使わないのだ。
イライザ・ジェインはカップにたっぷり六ぱい分すくいとると、
残りの砂糖を平らにならしてあとでわからないようにした。

イライザ・ジェインは、大きな乳桶一ぱいの黄色いアイスクリームのもとをつくった。
その桶をたらいのなかに据え、そのまわりにごく細かくくだいた氷を塩をふりながらつめ、
上からすっぽり毛布をかぶせた。
二、三分おきにその毛布をどけて、桶のふたをとり、
かたまりかけのアイスクリームをかきまわした。

アイスクリームができあがると、
アリスがお皿とスプーンを持ってきて、
アルマンゾは大きなケーキと肉切り包丁をもちだしてきた。
アルマンゾはケーキをとてつもなく大きく切りわけ、
イライザ・ジェインがお皿に山盛りにアイスクリームを盛りつけた。
みんな心ゆくまでアイスクリームとケーキが食べられた。
誰もとめる人がいないのだから。

正午になると、みんなは残りのケーキ全部と、アイスクリームをほとんど食べてしまった。
イライザ・ジェインは昼ごはんのしたくをしなくてはといったが、
誰も昼ごはんあんか食べたくないというのだった。

アルマンゾはいった。
「食べたいのはスイカだけだ」
アリスはパッと立ちあがる。
「そうだっ!とりに行ってこようよ!」

***
アリスとアルマンゾは、暑いスイカ畑へはいっていった。
しおれかかったひらたい葉の上に、
スイカはコロコロならんでいた。
アルマンゾはその緑の皮を指ではじいて、耳をすます。

よく熟しているときには、じゅくした音がするし、
まだ若いとわかい音がするのだ。

***
そこで、結局、ふたりはいちばん大きいのを六個とって、
ひとつずつ氷蔵に運びこみ、しめった冷たいおがくずの上にのせた。

そのあと、アリスは朝の食事のあとかたづけに家へゆき、
アルマンゾは自分は何もしないつもりだといった。
***
台所では、イライザ・ジェインとローヤルが、キャンディーのことで口あらそいをしていた。
ローヤルはキャンディー・プルをしたいといい、
イライザ・ジェインはそれは冬の夜だけのものだというのだ。

ローヤルは、キャンディー・プルは夏だってしてわるいはずはないといっている。
アルマンゾも同じ意見だった。
そこでなかへはいってローヤルの味方をした。

キャンディー・プルをするためには、まず熱くとけたキャンディーをつくらなければならない。
アリスはその作りかたを知っているといった。
イライザ・ジェインは反対した手前つくろうとしない。

それで、アリスが砂糖と糖蜜(モラセス)をまぜ、
火にかけて煮たてた。
それから、バターを塗った深皿に、とけたキャンディーを流しこみ、
ポーチにおいてさました。

みんな袖口をまくりあげ、
手にはバターを塗りつけてキャンディー・プルのしたくをした。
反対したイライザ・ジェインまでが、やはり手にバターを塗っている。

その間ずっと、ルーシイはアルマンゾをキーキーと呼びたてていた。
アルマンゾは、キャンディーがほどよくさめたかどうか見にポーチに出ていき、
自分の豚にもすこしわけてやってもいいだろうと思った。

キャンディーはもうさめていた。
誰も見ていないので、やわらかい茶色のキャンディーをひとつかみとると、
ルーシイの大きくあけた口に、ポーチの端からポンとほうりこんでやった。

いよいよキャンディー・プルがはじまった。
みんなバターを塗った手でやわらかいキャンディーをギューッと引っぱってつかみあげ、
細長くなったのをふたつ折りにし、またギュッとのばした。
そうやって引っぱるたびに、ひとくち口にいれる。

そのキャンディーはものすごくべたついた。
歯にくっつき、指にも顔にもべたべたつき、
どういうわけか髪の毛にまでくっついてしまい、
アルマンゾが床に落とすと、べったりはりついてとれなくなった。
いつもは、はじめはべたべたしても、じきにかたくなってカリカリしてくるのに、
これはそういかないのだ。

みんな、何度となくふたつ折りにしてはギュッとのばしてみた。
いつまでたってもキャンディーはやわらかくてべたべたしていた。
寝る時間はとっくにすぎてしまい、とうとうみんなあきらめて寝にいったのだった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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by foodscene | 2012-07-16 15:59 | アメリカ

阪急電車

レジの手前に総菜コーナーがあって、
そこに弁当などと一緒に籠に盛られたおにぎりがあった。
しかもコンビニ風にパッケージされたものではなく、
漬け物の混ぜご飯が手結びされてラップで包まれたものだ。

そのアットホームさに惹かれて埋めしそを一つ手に取り、
飲み物のコーナーで持ってきておいたお茶と一緒に買う。

梅雨の晴れ間の一日でベンチはいい感じに温まっていた。
電車の中で頑なに立っていたことが嘘のように、ドレスの皺など気にもかけずに座った。

お母さんが握ったような素朴な見かけ、素朴な味のおにぎりは、
まるで体のことを気にかけられているようだった。
ゆっくりとよく噛んで、お茶で流し込む。
すると一つで充分にお腹がいっぱいになった。

***
「圭一くん、自分で料理するって言ってたから台所道具は揃ってると思って」
言いながら美帆が持ち込んできたのは、お粥を作る材料と桃缶だ。

***
「いつもごはんとかどうしてるの?」
「コンビニでおにぎりとかさっきのスーパーで総菜とか」
「わー、野菜足りてなさそう。
今日野菜いっぱい食べなよね」
言いつつユキは狭い台所で窮屈そうに野菜類を切りはじめた。

待ち合わせは夕方に設定してあったので、
支度が調うのは晩飯時になった。

ホットプレートで肉や野菜が焼けはじめ、
いよいよ『桂月』の登場である。
「わあっ」
とユキから歓声が上がった。
「すごい、一升もあるんだ!大事に呑もうね!」

有川浩著「阪急電車」
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by foodscene | 2012-07-16 14:43 | 日本

農場の少年 5 夏の楽しみ

翌朝には、ジョーンが朝ごはん前にやってきて、
父さんはアルマンゾに早く食べてしまうようにとせきたてた。
アルマンゾはアップル・パイの大切れを手に放牧場へ出ていき、
クローバーの香りを吸いこみながら、香料のきいた煮リンゴと薄いパラパラほぐれるパイ皮を口いっぱいほおばりながら歩いていった。
指先をなめおわると、羊たちを寄せあつめ、露にぬれた草の上をとおって、
南納屋の羊舎に追いこんでいった。

***

緑の葉かげにかたまったイチゴをみつけると、
どうしてもいく粒かは口にいれずにはいられなかった。
ヒメコウジの緑の小枝をちぎって、それも食べた。
あまずっぱいミヤマカタバミの茎を、かぼそいスミレ色の花のじき下まで噛んでみたりもした。

でも、家へ帰るときには、いつもかならず桶いっぱいのイチゴを持って帰った。

その日の夕ごはんには、クリームをかけたイチゴが出て、
つぎの日に、母さんはイチゴのプリザーブをつくった。

***

馬のつなぎ杭がある横に、レモネードのスタンドが出ていた。
男がピンクに色をつけたレモネードをコップ1ぱい5セントで売っていて、
町に住んでいる男の子がそのまわりにたかっていた。
いとこのフランクがそのなかにいる。

アルマンゾは町の井戸で水を飲んできたが、
フランクはレモネードを買うんだといった。
ちゃんと5セント玉をもっている。
フランクは、スタンドでピンク色のレモネードを買うと、
わざとゆっくり飲んでみせ、舌なめずりをし、
おなかをなでなでいう。
「ああ、うまい!なぜ買わないんだい、アルマンゾ?」

***
ほんのわずかな間に、ふたりはすばらしいマスを紐につぎつぎと通していった。
たっぷり二本分も釣ったのだった。
父さんはアルマンゾの釣ったのをほめ、アルマンゾは父さんのをほめ、
そして意気ようようと雨のなかをクローバーを踏んで家へ帰っていった。

ふたりともこれ以上ぬれられないというほどぐしょぬれになっていたが、
肌はポッポッとあたたまってきていた。

そのまま、雨のなかで、薪置場の薪割り台の前にすわり、
魚の頭を切りおとし、銀色のうろこをはぎ、腹をさいて腹わたをぬいた。

牛乳入れの大鍋はマスでいっぱいになり、
母さんはそれをひきわりトウモロコシにまぶして、
昼ごはんのために油であげてくれた。
「さて、午後からは攪乳を手つだっておくれよ、アルマンゾ」
母さんはいった。

このごろでは、牝牛はとてもたくさん乳をだすので、
攪乳は週に二回しなければならなかった。
母さんやねえさんたちはその作業にあきてしまっているので、
雨の日にはアルマンゾにその役がまわってくるのだった。

***

ゴトン、ゴトンゆさぶられる樽のなかで、
クリームがだんだんに変化して、小さな粒になったバターがバターミルクに浮かんでくるまで、
アルマンゾは攪乳をつづけなければならなかった。

そのあと、母さんがバターの粒をすくいあげ、まるい木鉢にいれて水で洗い、
アルマンゾは、すこしすっぱみのあるとろっとしたバターミルクを大カップ一ぱい飲みながら、
クッキーを食べるのだ。
母さんは、バターの粒からバターミルクをすっかり洗いおとすと、塩をまぜ、
かたい金色のバターをバター桶におさめるのだった。

***

正午になると、お弁当のバスケットが泉のそばでひらかれ、
すずしい木かげで、ベリイつみの人たちはみんな集まって、
食べたりおしゃべりをしたりした。
そして、泉の水を飲むと、またベリイの茂みへもどっていった。

まだ午後も早いのに、籠にも桶にも全部、
あふれるようにベリイがとれ、
父さんはワゴンを家へむけて走らせた。
日光をあびつづけ、ベリイの熟れた匂いをかぎつづけたせいで、
みんななんとなく眠気がさしていた。

何日も何日も、母さんと女の子たちはジェリイやジャムやプリザーブをつくりつづけ、
食事のたびにハックルベリイ・パイやブルーベリイ・パイが出たのだった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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by foodscene | 2012-07-12 15:52 | アメリカ

農場の少年 4 日曜日とカエデ糖

食料部屋では、母さんが、6クォート(約5.7リットル)入りの鍋に
ゆでた豆をいっぱいにして、タマネギ、コショウ、豚の脂身をひと切れいれると、
糖蜜をその上からたっぷりかけた。
ベイクド・ビーンズの下ごしらえだ。

こんどは、粉の樽をあけているのが、アルマンゾの所から見える。
母さんは、大きな黄色い瓶に、ライ麦粉とひきわりトウモロコシをパッパッと投げこみ、
ミルクとタマゴなどをかきまぜながら流しこみ、
大きな天火の焼き皿に、その灰黄色のインディアン風ライ麦パン(ライ・アン・インジュン)のたねをいっぱいにいれた。

「アルマンゾ、ライ・アン・インジュンを持ってっておくれ。
こぼさないようにね」
母さんはそういうと、豆の鍋をさっと持ちあげ、
アルマンゾは、重いライ・アン・インジュンの天火皿を持って、
こぼさないように気をつけながら母さんについていった。

父さんが、暖房用のストーブの天火の大きな扉をあけ、
母さんが豆とパンだねをなかへすべりこませた。
こうしておくと、日曜の昼までに、両方ともゆっくりいいぐあいに仕上がるのだった。

***
翌朝、アルマンゾが、両手に乳桶をさげてよたよたしながら台所にはいっていくと、
母さんがホットケーキを何段にも積みあげたのを焼いていた。
日曜日だからだ。

ストーブの上には、直火のあたらないわきによせて、
ぷっくりしたソーセージを山のように盛った大きな藍色の盛り皿がのっているし、
いつものように、イライザ・ジェインはアップル・パイを切っているし、
アリスはオートミールを盛りつけていた。

いつもとちがうのは、小さな青い盛り皿が、さめないようにストーブの奥においてあり、
何段も積みかさねたホットケーキが、十山ならんでいることだった。
ジュージュー煙のたつ焼盤の上では、一度に10枚分のホットケーキが焼け、
母さんは焼けるはしから、重ねたホットケーキの上に1枚ずつ手早くのせていって、
バターをたっぷりぬってメイプル・シュガーをふりかける。
バターとメイプル・シュガーはとけてまざりあい、
ふわふわしたホットケーキにしみこみ、
カリッとした縁をつたってしたたりおちた。

これが「重ねホットケーキ」だった。
アルマンゾは、ホットケーキの種類のなかでは、これがいちばんすきだった。

母さんは、みんながオートミールを食べ終わるまで、
ホットケーキを焼きつづけている。
この重ねホットケーキは、いつも、どんなにたくさん焼いてもたりないほどだった。
みんなホットケーキの山をつぎからつぎへとたいらげ、
アルマンゾがまだ食べつづけていると、母さんがあわてて椅子をうしろへ引くといった。
「まあたいへん!8時じゃないの!さあいそがなきゃ!」

***

日曜の昼食のごちそうを前にテーブルにつくと、
アルマンゾはすこし元気が出てきた。

母さんは、自分のお皿の横においたパン切り板で、ほかほかしているライ・アン・インジュンパンをうすく切りわけている。
父さんはスプーンをチキン・パイの下までぐっといれた。
厚い皮を大きくひとすくいすると、
フカフカした下側を上にお皿に盛りつける。
それにグレイビイをたっぷりかけ、やわらかい鶏肉の大きな切れを、
白身と赤身を骨からはずしながらその上にすくいとった。

そのそばにベイクド・ビーンズをひと山盛ると、
プルプルしている豚の脂身をひときれのせた。
お皿の端には、真紅の赤カブのピクルスをそえ、
父さんはそのお皿をアルマンゾに渡した。
アルマンゾはだまってそれを全部たいらげた。

そのあと、カボチャのパイをひと切れたべると、
さすがにおなかがいっぱいになった。
それでもまだ、アップル・パイをひと切れ、
チーズをそえてたいらげた。

食事がすむと、イライザ・ジェインとアリスがあと片づけをし、
父さんと母さんとローヤルとアルマンゾは、仕事は何もしなかった。
午後じゅうずっと、みんな眠気をさそうあたたかい食堂にすわっていた。
母さんは聖書を読み、イライザ・ジェインは本を読んでいた。

***

ときどき、アルマンゾも生のニンジンのかけらをたべる。
外側のところが一番おいしかった。
厚くてきめの細かい外の皮はポロッとまるくむけ、甘味がある。
中側はもっと汁気があって黄色い氷のようにすきとおっていたが、
かすかにピリッとからい味がした。

***
正午には、樹液はぜんぶあつめられ、鉄鍋のなかで煮たっていた。
父さんはお弁当をひろげ、アルマンゾは、父さんとならんで丸木に腰をおろした。
ふたりは食べたり話したりする。
足を火のほうにのばし、うしろには丸木が山と積んであり、
よりかかるのに具合がいい。
ふたりのまわりは、一面に氷と深い森だけだったが、
そうしていると、とてもいごこちがよくいい気分だった。

お弁当を食べおわると、父さんは、樹液の煮えかげんをみているために、
焚火のそばで番をしていたが、
アルマンゾはヒメコウジ(ウィンター・グリーン)の実をさがしにいった。

南の斜面の雪の下に、厚い緑の葉の間に、
真赤な実がなっていた。
アルマンゾはミトンをとって、素手で雪をかきわけた。
赤い実がかたまっているのをみつけ、
口いっぱいにほおばる。
冷たい実が歯にきしみ、香ばしい汁がほとばしりでた。

雪のなかから掘りだしたウィンター・グリーンの実ほどおいしいものは、
そうはないのだった。
アルマンゾの服は雪にまみれ、指はかじかんで赤くなっていたが、
南の斜面を全部あさりつくすまでは、そこをはなれなかった。

カエデの幹の間に太陽がひくくなっていくと、
父さんは、焚火に雪を投げこみ、火は、ジュージューいって、
湯気をあげながら消えていった。

父さんは、火が消えると、熱い煮つまったシロップを桶にくみこんだ。
父さんとアルマンゾは、また天秤棒をかついで、
桶を家まで運んで帰った。

ふたりは、台所のストーブの上にある大きな赤銅の鍋に、
運んできたシロップをあけた。
それから、アルマンゾは夕仕事にかかり、父さんは、
残りのシロップを森にとりにいった。

夕食がすんだときには、シロップはもう固めることができるようになっていた。
母さんは、6クォートの牛乳鍋に、シロップをひしゃくでくみいれ、
そのままさますように置いておいた。
朝には、かたいカエデ糖の大きなかたまりが、どの鍋にもできあがっていた。

母さんは、そのまるい金茶色のかたまりを、鍋をポンとひっくり返してだすと、
食料部屋のいちばん上の棚にしまった。

毎日毎日、樹液は流れだし、毎朝、
アルマンゾは父さんといっしょに出かけては、
それをあつめて煮つめ、毎晩、母さんがそれをメイプル・シュガーに仕立てた。
もう、一年分のメイプル・シュガーはたっぷりできてしまったのだ。
そして、最後のシロップは、たた煮つめて、
そのまま大きな瓶に入れて、地下室にたくわえた。
これが一年分のメイプル・シロップになるのだった。

アリスは学校から帰ると、アルマンゾのまわりをかぎまわって、大声をあげた。
「あらっ、ウィンター・グリーンの実を食べたわね!」
アリスは、自分は学校へ行かなければならないのに、
アルマンゾは、樹液をあつめにいって、ウィンター・グリーンの実を食べたりしているのは、
とても不公平だというのだ。

***

そして、日曜のたびに、ふたりいっしょにそこへ出かけて、
雪をかきわけるのだった。
アルマンゾが赤い実をひとかたまり見つけると大声でわめき、
アリスが見つけると金切声をあげ、
ときどきは半分ずつわけ、ときどきは全部ひとりじめした。

そして、その南の斜面を、ふたりは四つんばいになってさがしまわり、
午後いっぱいウィンター・グリーンの実を食べた。

アルマンゾは、厚い緑の葉を桶一ぱい持って帰り、
アリスがそれを大きなびんにつめこんだ。
母さんがそれにウィスキーを口までそそぎ、
そのまま地下室においた。
これが、母さんがケーキやクッキーをつくるときに使う、
ウィンター・グリーン香味になるのだった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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by foodscene | 2012-07-09 16:34 | アメリカ

ふたつの季節

多希がここにきてから一時間後、ようやくテーブルに料理が並んだ。
輪切りにしたニジマスのステーキに、つけあわせの野菜、
マッシュド・ポテトが大鉢に盛られている。

案の定、クラックで食欲をなくしたマイクとキャシィは、ひと口ふた口お義理に食べてそれっきりだった。
けれど多希にはニジマスはすばらしくおいしかった。
***
大晦日の深夜から元日いっぱいには、ふたりは多希のアパートですごした。
元日の夜はバークレーのジャパニーズ・マーケットからサトイモやマグロの刺身を買ってきて、
久しぶりの日本食に舌つづみを打った。

***
復活祭の前の日にとどいたダンボールのなかには、
殻を金色に染めた日持ちのよい燻製卵が十個ばかり、まぎれこませてあった。

「このケバケバしい色の卵、さっそく味見してみましょうよ」
「いいのか。きみ宛のものだ」
「へんな遠慮はしないで」
燻製卵はそのままでもほどよく塩味がきいていた。

藤堂志津子著「ふたつの季節」
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by foodscene | 2012-07-09 16:03 | 日本

農場の少年 3 天火仕事の日

五、六度、アルマンゾは家へもどっていって、
リンゴやドーナツやクッキーを仕入れてきた。

アルマンゾは、屋根裏の父さんの仕事部屋へと、梯子をのぼっていった。
雪のように白いミトンを首からつるした紐の先にぶらぶらさせたまま、
右手にはドーナツ、左手にはクッキーをふたつ持って。
ドーナツをひとくち、つぎにクッキーをひとくちかじった。

アルマンゾは階下へおりていき、ドーナツの壺からもうふたつドーナツをつまみだすと、
また外へ出ていき、橇であそんだ。

***

「何がいちばん食べたい?」
ふたりは、豚の骨つきあばら肉の焼いたの、七面鳥のまる焼き、
ベイクド・ビーンズ、カリッと焼けたひきわりのトウモロコシパンなど、
つぎつぎとおいしいものを言いっこした。
けれど、アルマンゾは、何よりもいちばんすきなのはリンゴとタマネギをいっしょにいためたのだといった。

ふたりがやっと昼食を食べに食堂にはいっていくと、
なんと、テーブルには、それが山盛りになった大皿があったのだ。
母さんはアルマンゾがいちばんすきなものをちゃんと知っていて、
それをつくっておいてくれたのだ。

アルマンゾは、リンゴとタマネギをいっしょにいためたのを四回もたっぷりおかわりをした。
そのあと、茶色の肉汁をかけたロースト・ビーフ、マッシュポテト、
ニンジンのクリーム煮、カブのゆでたの、それにバタつきパンをいくきれもいくきれも、
野生リンゴのジャムをつけて食べた。

「育ちざかりの男の子のおなかは、ほんとに底なしなんだから」
母さんはそういいながら、アルマンゾの空になったとり皿に、
鳥の巣プディングの大きく切りわけたのをつけ、香料のナッツメグをちらした、
あまくしたクリームのはいったミルクいれを渡してくれた。

ふわふわしたパイ皮のなかにリンゴの煮たのを埋めこんだプディングの上に、
アルマンゾは濃いクリームをたっぷりかけた。
プディングのとろっとした茶色の汁が、白いクリームのまわりから盛りあがる。
アルマンゾはスプーンをとりあげ、きれいにたいらげてしまった。

***

こうしておがくずに埋められた氷は、夏のいちばん暑いときにも、
けっしてとけはしないのだった。
四角い氷のかたまりを、一度に一個ずつとりだして、
母さんがアイスクリームやレモネードや冷たいエッグ・ノッグをつくってくれるのだ。

***
氷蔵の仕事がすっかりおわったその夜は、土曜の夜にあたっていた。
母さんは、いつもそうしているように、一日じゅう、
天火でパンやケーキを焼いたり、パンをつくったりしていた。

乳しぼりの桶をとりに、アルマンゾが台所にはいっていくと、
母さんはまだドーナツをあげていた。
台所じゅうに、あげたてのドーナツの香ばしい匂い、焼きたてのパンの小麦のような匂い、
ケーキ類の香料の匂い、パイのあまい蜜のような匂いがたちこめていた。

アルマンゾは、あげたてのドーナツのいちばん大きいのをとって、
カリカリするはじっこをかじった。
母さんは、金色のドーナツだねを、細長くのしておいて、それをちぎって手のひらで
細い棒にして、それをふたつ折りにしてくるっとねじるのだ。

母さんの指は、目にもとまらないはやさで動いている。
母さんがさわっただけで、細い棒がかってにねじれて、
熱い豚脂がうずまいて煮えている赤銅の大鍋のなかに、
とびこんでいくように見えた。

ポトン! ねじれたドーナツだねは、
泡を浮きあがらせて、鍋の底へしずんでいく。
そして、じきにポンと浮きあがり、ゆっくりふくらんでいくと、
ひとりでにくるっと裏がえり、薄黄色の背中は油のなかへ、
ぷっくりふくれたこんがり色のついたおなかを油の上へつきだすのだった。

母さんは、ドーナツだねがねじってあるから、
ひとりでに裏がえるのだというのだ。
あたらしものずきの女の人は、まんなかに穴をあけたまるいドーナツをつくっていた。
けれど、丸形のドーナツは、ひとりでは裏がえってはくれない。
母さんは、ドーナツをいちいちひっくりかえす暇はないのだ。
ねじるほうが手間がはぶけるのだった。

アルマンゾは、母さんが天火仕事をしたりドーナツをあげたりする日がすきだった。


ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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by foodscene | 2012-07-07 17:54 | アメリカ

These Happy Golden Years 2

Laura was so glad to be at home again, out on Pa's claim.
It was good to milk the cow, and to drink all she wanted of milk,
and to spread butter on her bread, and eat again of Ma's good cottage cheese.

There were lettuce leaves to be picked in the garden, too,
and little red radishes.
She had not realized that she was so hungry for there good things to eat.
Mrs. McKee and Mattie could not get them, of course,
while they were holding down their claim.

***

Supper was ready when Pa came from the stable and Laura ha strained the milk.

It was a happy family, all tougher again,
as they ate of the browned hashed potatoes, poached fresh eggs and delicious biscuit with Ma's good butter.
Pa and Ma drank their fragrant tea, but Mary drank milk with the other girls.

"It is a treat," she said.
"We don't have such good milk at college."

***
In the evenings they all popped corn and made taffy,
listened to Pa's fiddle, and endlessly talked of old times and of plans for the future.

***
*I will plan a celebration dinner, and the girls will help me cook it."

All the next morning they were very busy.
They baked fresh bread, a pieplant pie, and a two-egg cake.
laura went to the garden, and with her fingers dug carefully into the hills of portages for dinner,
without injuring one plant by disturbing its roots.
Then she picked the first of the green peas, carefully choosing only the plump pods.

Ma finished frying a spring chicken while the new potatoes and the peas were cooked and
given a cream dressing.
The Fourth of July dinner was just ready,
all but steeping the tea, when Pa came home from town.

He brought lemons for afternoon lemonade,
firecrackers for the evening, and candy for all the time after dinner.

***
Barnum grew so gentle that Laura and Almanzo could stay till the evening's end,
and at recess he and the other young men took striped paper bags of candy from their coat pockets
and passed them around to the girls.

There were pink-and-white striped peppermint balls,
and sticks of lemon candy and peppermint candy and horehound candy.

Wilder "These Happy Golden Years"
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by foodscene | 2012-07-05 14:11 | アメリカ

もう外国なんか行きたくない

お昼休みは、十二時から二時半まであって、
この間に家へお昼を食べに帰る子もいれば、
給食を学校で食べる子もいる。

いつも全校生徒の約半分、二十人くらいの子供が給食をとっていた。
その給食も、手伝いのおばさんが近所のマーケットからその日に必要な食料を買って来て、
先生自ら手伝いの人といっしょに調理する。

お台所と食堂は半地下にあって、子供にきくと、
「時時、卵焼きなんか手伝わせてくれた」そうだ。

テーブルにお皿を並べるのも生徒の仕事だ。
先生もいっしょに食べるので、いちいちお行儀を直されて、
「最後には、ソースをパンできれいにふきとる」ことも教えられ、
我が家ではつい最近まで、この子だけはそれをやっていた。

今でも、「アルエットの給食はおいしかったナァー」といっている。

メニューはオムレツとかハンバーグ、それにチーズ、デザートは果物やヨーグルトで、
ごく普通のものなのだが、
何しろ家庭と同じように食べる直前に作ったものが出て来るし、
またフランス人は総じて味覚の発達した国民なので、学校給食といえども手抜きをしない。
考えてみると、ずいぶん贅沢なお昼をとっていたことになる。

***
カンティーヌ(給食)の時は泣きたくなりませんでした。
キャマンベールが出て、えりは大きいパンを一切れもたべちゃった。
ほしぶどう入りのマドレーヌも出ました。
袋に入っているので、審(弟)に持ってかえりやすいのです。

***
授業では苦労していたが、お昼のカンティーヌは、
彼女にとって一番のたのしみであった。
毎日メニューをたんねんに写し、そのせいか、
お料理の名前はフランス人並みに覚えてしまった。

再び彼女のノートから、ある一週間の給食の献立と、ある日の学校の様子をうつしてみよう。

ある一週間の献立

月曜
トマト・ヴィネグレット(トマトのドレッシングあえ)、
ブルギニョン(牛肉のブルゴーニュ風シチュー)、
リ(味付きのお茶)、
ムース・オ・ショコラ(チョコレートムース)

火曜
ラディ(赤かぶ、バターと塩で食べる)、
ポルク・ロティ(ぶた肉の焼いたの)、
キャロット(煮たにんじん)、
グラス・フレーズ(いちごのアイスクリーム)、
ビスキュイ(ビスケット)

水曜 学校はお休み

木曜
キャロット・ラベ(細切りのにんじん)、
プレ・ロティ(ローストチキン)、
プチ・ポワ(グリーンピース)、
フリュイ・ド・セゾン(季節の果物、この時は梨)、

金曜 金曜は魚料理
パンプルムース・サラド・ヴェルト(グレープフルーツとレタスのサラダ)、
フリットル・ド・ポワソン(まるい白身の魚のフライ)、
ガトー・ショコラ(チョコレートケーキ)

土曜 土曜日にもあるのです
サラド・ニソワーズ(ニース風サラダ)、
ビフテク(ビフテキ)、
ポム・フリット(フライド・ポテト)、
マドレーヌ(干しぶどう入りマドレーヌ)

***

朝、目ざまし時計で七時に目を覚まし、
身仕度をして朝食。
朝食はいつでも、バゲットいく切れかと、ミルクと、時には果物やヨーグルトを食べることもあります。
できたてのバゲットはすごくおいしくてとても安いので
(当時、一フランだった。今は二フランくらいになっている)、
もっと高くしてもいいと思うくらいです。

***
カンティーヌに行く子がだいたい全部そろうと、
かんとくのような女の人が二、三人つきそって、
フォワイエ・デ・リセエンヌという食堂へつれて行ってくれます。

テーブルは一部屋に十二ほどあり、八人がけです。
みんな適当な席におさまると、
パンとのみものとオードヴルはもうおいてあり、
一つのお皿から少しずつ自分のお皿にとります。
今日はキュウリにドレッシングをかけたもの。

オードヴルを食べ終えると、みんなバゲットで、お皿にのこったドレッシングをふきとって食べるので、
お皿はきれいになります。

のみものは、水とレモンジュース。
肉とつけあわせが来ました。
ぶた肉のおいしいロティ、カリフラワーにとかしチーズがかかったすごく熱くていいにおいの、
おいしそうなつけあわせです。

みんなお皿にとって、ペチャクチャおしゃべりしながらたべます。
しゃべっているにもかかわらず、まん中のお皿はみるみるへって、からになると
女の人が持って行きます。

今度は、デザート用のスプーンと小さいお皿が配られます。
今日は、チョコレートのアイスクリームにビスケット。

食べおわるころになると、みんなぞろぞろ立ちあがって、
バゲットやビスケットを食べながらリセに向かいます。

高階菖子著「もう外国なんか行きたくない」
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by foodscene | 2012-07-04 14:11 | フランス

農場の少年 2 ポップコーンと朝食

仕事がすむと、父さんは、大型の水差し一ぱいのリンゴ液と、
器に盛りあげたリンゴをもって、地下室の梯子段をのぼってきた。

ローヤルは、ポップコーンをつくる道具と、はぜトウモロコシをいれた金の小鉢をもっていった。
母さんは、料理用ストーブの残り火に灰をよくかぶせてあしたまでもつように始末をして、
みんなだ台所を出ていくのを待ってロウソクを吹き消した。

***

ローヤルは、天火の鉄の扉をあけ、火かき棒で、おきになった薪を、チロチロ燃えている石炭の床の上にくずした。
そして、はぜトウモロコシを三つかみ、針金でできた大きなポップコーンづくりの道具にいれると、
石炭の上でゆすりつづける。

ほんのすこしすると、ひと粒がポンとはぜ、
すぐもうひと粒、そして三粒か四粒。
とたんに、小さなとがった粒が、いちどきに、すさまじいいきおいで、
パ、パ、パ、パンと何百粒もはぜた。

大きな洗い桶に、ふわふわした白いポップコーンが山盛りになると、
アリスがとかしたバターをかけ、
塩をふりながらよくかきまぜた。

その、熱くて、カリッとしていて、バターと塩の味かげんもいいポップコーンを、
みんなほしいだけ食べていいのだった。

母さんは、背もたれの高い揺り椅子をゆらゆらさせながら編みものをしている。
父さんは、ガラスのかけらで、あたらしい斧の柄をていねいにけずっていた。
ローヤルは、すべすべした松材の細い棒をつかって、
ごく細い輪鎖を彫っていたし、
アリスは、まるいクッションに腰かけて、毛糸刺繍をしている。

そして、イライザ・ジェインのほかは、
みんなポップコーンをつまんだり、
リンゴをかじったり、リンゴ液を飲んだりしていた。
イライザ・ジェインは、ニューヨーク週刊新聞のニュースをみんなのために読みあげているのだ。

アルマンゾは、ストーブのそばの足のせ台に腰かけ、
片手にリンゴ、すぐわきにポップコーンをいれた小鉢、
足もとの炉床にはリンゴ液入りの自分の大カップをおいていた。
水気のおおいリンゴをひとかじりしては、ポップコーンをつまみ、
それからリンゴ液をグッと飲んだ。

***
ふっとアルマンゾは思った。
これでミルクがあれば、「ポップコーン・ミルク」ができるな、と。
「ポップコーン・ミルク」というのは、
まず、コップの縁ぎりぎりまでミルクをいれ、
つぎに、同じ大きさのコップいっぱいポップコーンをいれ、
そのポップコーンをひと粒ずつミルクのなかへ落としていくと、
全部いれおわってもミルクはこぼれないのだ。

パンではこうはいかない。
うまいぐあいにひとつのコップにおさまるのは、
ミルクとポップコーンの組み合わせだけなのだった。

それに、この「ポップコーン・ミルク」はただやってみておもしろいだけでなく、
食べてもおいしいのだ。
けれど、アルマンゾは、いまべつにおなかがすいているわけでもないし、
大きな牛乳鍋いっぱいのミルクをいまいじると、
母さんがいやがるのもわかっていた。

ミルクをそうしてそっと置いておくと、
脂肪分の多いところがあがってきて、上のほうにクリームができるのだが、
いまいじってしまうと、そのクリームの層が厚くはならないだろう。
そう思ってあきらめると、アルマンゾは、
リンゴをもうひとつかじり、ポップコーンを口にいれて
リンゴ液を飲み、「ポップコーン・ミルク」のことは口に出さなかった。

***

朝仕事が終わり、父さんとローヤルといっしょにあたたかい台所へもどってきたときには、
朝食のしたくはほどんどできていた。
そのおいしそうな匂いといったら!
母さんはホットケーキを焼いているし、
さめないようにストーブの上の横のほうにおいてある大きな藍色の盛り皿には、
まるっこい茶色のソーセージが茶色の肉汁につかって山のように盛ってあった。

アルマンゾはおおいそぎで顔を洗い、髪をときつけた。
母さんがミルクを漉してしまうとすぐ、
みんながテーブルにつき、父さんが食前の祈りをささげた。

濃いクリームとメイプル・シュガーをたっぷりかけたオートミールがある。
薄切りにしていためたジャガイモがあり、
金色の、ソバ粉入りのホットケーキがある。
それは、肉汁で煮たソーセージをそえたり、
バターやメイプル・シロップだのをつけたりして、
いくら食べてもいいのだ。

プリザーブもジャムもジェリイも、ドーナツもある。
でも、なかでもいちばんアルマンゾがすきなのは、
ポロッとはがれる皮の、とろっとした煮汁のたっぷりはいったアップル・パイだった。
アルマンゾは、大きく三角に切ったのをふたつも食べてしまった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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by foodscene | 2012-07-04 13:45 | アメリカ