農場の少年 2 ポップコーンと朝食

仕事がすむと、父さんは、大型の水差し一ぱいのリンゴ液と、
器に盛りあげたリンゴをもって、地下室の梯子段をのぼってきた。

ローヤルは、ポップコーンをつくる道具と、はぜトウモロコシをいれた金の小鉢をもっていった。
母さんは、料理用ストーブの残り火に灰をよくかぶせてあしたまでもつように始末をして、
みんなだ台所を出ていくのを待ってロウソクを吹き消した。

***

ローヤルは、天火の鉄の扉をあけ、火かき棒で、おきになった薪を、チロチロ燃えている石炭の床の上にくずした。
そして、はぜトウモロコシを三つかみ、針金でできた大きなポップコーンづくりの道具にいれると、
石炭の上でゆすりつづける。

ほんのすこしすると、ひと粒がポンとはぜ、
すぐもうひと粒、そして三粒か四粒。
とたんに、小さなとがった粒が、いちどきに、すさまじいいきおいで、
パ、パ、パ、パンと何百粒もはぜた。

大きな洗い桶に、ふわふわした白いポップコーンが山盛りになると、
アリスがとかしたバターをかけ、
塩をふりながらよくかきまぜた。

その、熱くて、カリッとしていて、バターと塩の味かげんもいいポップコーンを、
みんなほしいだけ食べていいのだった。

母さんは、背もたれの高い揺り椅子をゆらゆらさせながら編みものをしている。
父さんは、ガラスのかけらで、あたらしい斧の柄をていねいにけずっていた。
ローヤルは、すべすべした松材の細い棒をつかって、
ごく細い輪鎖を彫っていたし、
アリスは、まるいクッションに腰かけて、毛糸刺繍をしている。

そして、イライザ・ジェインのほかは、
みんなポップコーンをつまんだり、
リンゴをかじったり、リンゴ液を飲んだりしていた。
イライザ・ジェインは、ニューヨーク週刊新聞のニュースをみんなのために読みあげているのだ。

アルマンゾは、ストーブのそばの足のせ台に腰かけ、
片手にリンゴ、すぐわきにポップコーンをいれた小鉢、
足もとの炉床にはリンゴ液入りの自分の大カップをおいていた。
水気のおおいリンゴをひとかじりしては、ポップコーンをつまみ、
それからリンゴ液をグッと飲んだ。

***
ふっとアルマンゾは思った。
これでミルクがあれば、「ポップコーン・ミルク」ができるな、と。
「ポップコーン・ミルク」というのは、
まず、コップの縁ぎりぎりまでミルクをいれ、
つぎに、同じ大きさのコップいっぱいポップコーンをいれ、
そのポップコーンをひと粒ずつミルクのなかへ落としていくと、
全部いれおわってもミルクはこぼれないのだ。

パンではこうはいかない。
うまいぐあいにひとつのコップにおさまるのは、
ミルクとポップコーンの組み合わせだけなのだった。

それに、この「ポップコーン・ミルク」はただやってみておもしろいだけでなく、
食べてもおいしいのだ。
けれど、アルマンゾは、いまべつにおなかがすいているわけでもないし、
大きな牛乳鍋いっぱいのミルクをいまいじると、
母さんがいやがるのもわかっていた。

ミルクをそうしてそっと置いておくと、
脂肪分の多いところがあがってきて、上のほうにクリームができるのだが、
いまいじってしまうと、そのクリームの層が厚くはならないだろう。
そう思ってあきらめると、アルマンゾは、
リンゴをもうひとつかじり、ポップコーンを口にいれて
リンゴ液を飲み、「ポップコーン・ミルク」のことは口に出さなかった。

***

朝仕事が終わり、父さんとローヤルといっしょにあたたかい台所へもどってきたときには、
朝食のしたくはほどんどできていた。
そのおいしそうな匂いといったら!
母さんはホットケーキを焼いているし、
さめないようにストーブの上の横のほうにおいてある大きな藍色の盛り皿には、
まるっこい茶色のソーセージが茶色の肉汁につかって山のように盛ってあった。

アルマンゾはおおいそぎで顔を洗い、髪をときつけた。
母さんがミルクを漉してしまうとすぐ、
みんながテーブルにつき、父さんが食前の祈りをささげた。

濃いクリームとメイプル・シュガーをたっぷりかけたオートミールがある。
薄切りにしていためたジャガイモがあり、
金色の、ソバ粉入りのホットケーキがある。
それは、肉汁で煮たソーセージをそえたり、
バターやメイプル・シロップだのをつけたりして、
いくら食べてもいいのだ。

プリザーブもジャムもジェリイも、ドーナツもある。
でも、なかでもいちばんアルマンゾがすきなのは、
ポロッとはがれる皮の、とろっとした煮汁のたっぷりはいったアップル・パイだった。
アルマンゾは、大きく三角に切ったのをふたつも食べてしまった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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# by foodscene | 2012-07-04 13:45 | アメリカ

農場の少年 1 冬の日暮れ

イライザ・ジェインが、自分の机の上で、
みんなのお弁当入れをひらいた。
なかには、バタつきパンにソーセージ、ドーナツにリンゴ、
とろっととけそうなリンゴの薄切りに香料のきいた茶色の煮汁がたっぷりはいった、
ふたつ折りのふっくらふくれたアップル・パイがはいっていた。

アルマンゾは、パイをひとかけらも残さず食べおわり、
指の先もなめてしまうと、隅のベンチにのっている桶にそえたひしゃくで水を飲んだ。
それから、帽子をかぶり外套をきてミトンをはめ、外へあそびに出ていった。

***

料理用ストーブの火であたたまり、
あかあかとロウソクのともる広い台所へはいっていくと、
アルマンゾはほっとした。おなかがペコペコなのだ。

台所は、母さんたちのゆらゆらゆれたり、くるっとまわったりする張り輪いりのスカートでいっぱいだった。
イライザ・ジェインとアリスは、料理の盛りつけで夢中だった。
いためたハムの塩っぽいこんがりした匂いが、
アルマンゾのすきっぱらをキュッとしめつけた。

食料部屋の戸口で、アルマンゾはちょっと足をとめた。
細長い食料部屋のむこうの隅で、
母さんがミルクを漉していた。こちらへ背中をむけて。

両側の棚には、おいしい食べものがびっしりのっている。
黄色いチーズの大きなかたまりが棚にしまってあり、
カエデ砂糖の大きな茶色いかたまりもいくつものっているし、
カリッと仕上がった焼きたてのパンが何本も、大きなケーキが四つ、

それにひとつの棚全部がパイでいっぱいになっていた。
そのパイのひとつは切ってあり、小さな皮のかけらが割れていた。
そのひとかけらくらいなくなっても、べつにどうということはないだろう。

でも、アルマンゾがまだ動いてもいないのに、イライザ・ジェインが大声でいった。
「アルマンゾ、だめよ!母さんっ!」
母さんはふりむきもしないで、ただこういった。
「おやめ、アルマンゾ。夕ごはんがまずくなるからね」
アルマンゾは、母さんのいうことがあまりばかげていたので、思わずカッとした。
パイの皮のひとかけで、どうして夕ごはんがまずくなるんだろう。
ひもじくてたまらないというのに、テーブルにならべてからでなければ
なんにも食べさせてはくれないんだ。
こんなわけのわからないことってあるだろうか。

テーブルには、おいしそうな切りわけたチーズ、
ゼリーのようにプルプルゆれる頭肉のチーズがある。
ジャムと、ジャムのように煮てから漉してゼラチンでかためたジェリイ、ベリイなどを
形をくずさないように煮こんで仕上げたプリザーブが、それぞれガラスの器に盛ってあり、
深い水差しにはミルクがたっぷりはいっている。

天火から出したての湯気のたっている焼き皿は、
薄切りのこまかい豚の脂身がカリッとこげてくるっとまるまったのがのせてある豆料理、
ベイクド・ビーンズだった。

***

けれど、腹ペコのアルマンゾにとって、何よりもすばらしく見えたのは、ジュージューいっているハムを山盛りにした、
白地に藍でヤナギのある中国の景色の図柄をかいた陶器の大皿をもってはいってくる母さんの姿だった。

***

父さんはみんなの皿に盛りわけをはじめた。
まずコアーズ先生のを。つぎが母さん。それからローヤルとイライザ・ジェインとアリスの分だ。
そして、やっと、父さんはアルマンゾの皿をいっぱいにしてくれたのだ。

「どうもありがとう」アルマンゾはいった。
食事のとき、子どもが口にしていいのはこの言葉だけだった。

***
アルマンゾは、あまくてとろっとしたベイクド・ビーンズをたべた。
塩づけ豚をひとくち口にいれると、クリームのように口のなかでとけていく。
茶色のハムの焼汁をかけて、粉ふきにしたジャガイモをたべた。
つぎにハムをたべた。

すべっこいバターをぬって、ビロードのようになめらかなパンをほおばり、
カリッとした金色の皮をたべる。

ゆでつぶした大カブのこんもり盛りあがったマッシュも、山盛りのカボチャの煮こんだのも夢中でたいらげた。
そこでひと息ついて、アルマンゾは、紅色の胴着の衿もとに、ナプキンをぐっと押しこんだ。
それから、こんどは、プラムのプリザーブ、イチゴのジャム、ブドウのジェリイ、
それから、スイカの皮を香料と酢でつけたピクルスをたべた。

おなかはくちくなり、なんともいえなくいい気分だった。
最後に、ゆっくりカボチャのパイの大切りをたべ終わった。

ワイルダー 恩地三保子訳「農場の少年」
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# by foodscene | 2012-06-30 15:56 | アメリカ

深紅

改築した家のキッチンで、叔母が嬉しそうに天ぷらを揚げている。
新しいキッチンで最初に作る料理は天ぷらと決めていたらしい。
油が景気よく音をたて、揚がった野菜が次々と、
真っ白なキッチンペーパーの上に載せられていく。

ピーマン、椎茸、サツマイモ。
揚げたてで湯気のたつそれらを、奏子は五枚の皿に並べ始めた。
叔母が隣で口ずさむ松任谷由実が、子守唄のように奏子の耳に届く。

***
揚げたてのコロッケを肉屋の主人から受け取っている。
油染みのある袋は熱いらしく、
端を指でつまんでママチャリのカゴに入れた。

飲み物とコロッケと水筒が並べられる。
タッパ・ウェアには白い御飯がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
御飯がジャーにあったから、おかずを肉屋で買って、
昼飯にしようと話し合ったのかもしれない。

中垣明良はビールをまず開ける。
ぐいぐい飲んでいると、都築未歩が「あたしも」と缶に手をかける。
残りを飲み干す。

魔法瓶の水筒には味噌汁が入っているようだ。
紙コップに注がれたものを熱そうに啜っている。

二人は旺盛な食欲を発揮する。
コロッケにたっぷりとソースをかけ、かぶりつく。
男は口いっぱいに御飯を頬張る。
「うめっ」
「うまいよね」
口の動きだけだが、言葉が伝わってくる。

***
彼女は和風キノコ、奏子にはカルボナーラのパスタが来た。

***
学校が終わると、娘は月島の商店街でコロッケと串カツとポテトサラダを買って、
父親が帰るまでに宿題を終わらせておきたかったから、
テレビも見ずに頑張ってやった。
御飯を炊いて、味噌汁を作って待っていたという。

***
「あ、でも美味しそうだよ。飲んでかない」
「じゃ、味見してやっか」
未歩がふたつのお椀に注ぐ。
合わせ味噌で作った豆腐と油揚げの味噌汁だった。
煮立ちすちていたので香りは損われていたが、
奏子はひと口啜って思わず「うまい」と声をあげる。
「でしょう?」

***
十代の頃、レストランの厨房で働いていたこともあるという彼は、
仔牛のカツレツとスパニッシュ・オムレツが得意の料理だという。

野沢尚著「深紅」
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# by foodscene | 2012-06-28 14:46 | 日本

These Happy Golden Years 1

Mrs. Brewster was scraping the gravy into a bowl.
The table was set, with plates and knives carelessly askew a smudged white cloth;
the cloth was crooked on the table.

"may I help you, Mrs. Brewster?" Laura said bravely.
Mrs. Brewster did not answer.
She dumped potatoes angrily into a dish and thumped it on the table.
The clock on the wall whirred, getting ready to strike,
and Laura saw that the time was five minutes to four.

"Nowadays breakfast is so late,
we eat only two meals a day,"
Mr. Brewster explained.

***

"Dinner's ready," Mr. Brewster said to Laura.
She sat down in the vacant place.
Mr. Brewster passed her the potatoes and salt pork and gravy.

The food was good but Mrs. Brewster's silence was so unpleasant that Laura could hardly swallow.

***
The morning work was done,
the beans for Sunday dinner were baking slowly in the oven.
Pa carefully closed the heating-stove's drafts and
came out and locked the door.

***
Dinner was so good.
Ma's baked beans were delicious,
and the bread and butter and little cucumber pickles,
and everyone was so comfortable, so cheerful and talking.

***
She did not make their bed nor even spread it up.
Twice a day she cooked potatoes and salt pork and put them on the table.

Wilder "These Happy Golden Years"
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# by foodscene | 2012-06-21 15:16 | アメリカ

「Shall we ダンス?」アメリカを行く

ホテルのレストランでトルティーヤスープを飲む。
もしかしたらここで食べたこのスープが、アメリカでした食事の中で最高に美味しかったものの一つかもしれない。

***

さて、まったく土地勘のない二人で、
今夜の夕食はどうしようと途方に暮れていると、
渡邊さんから連絡があったので、食事の相談をすると
「御一緒しましょうか」と親切なお言葉。

その夜は渡邊さん御夫妻と「パパブロス」という地元で評判の、
まさに本場テキサスのステーキハウスに行った。
ショーケースの中は色々な種類の肉で溢れていて、
その中から好みのものを注文するのだが、
とにかく満席で、バーで待つお客さんも座るところがなくて皆立っている。
お酒を飲みながらの談論風発は滅茶苦茶楽しそうで、
日本のレストランでは考えられない賑やかさに圧倒された。

僕の選んだ約700グラムくらいのニューヨークカットステーキは、
厚さ8センチはあろうかという巨大サイズ。
付け合わせで選んだベイクドポテトも掌サイズで、
これ一つでお腹いっぱいという感じ。
それでもアメリカで食べたステーキの中では最高に美味しくて、
なんとか3分の2は食べました。
渡邊夫妻に感謝。

翌日の日曜はゆっくり11時まで寝て、
食事はルームサービスのトルティーヤスープと果物で済ませ、
自室でニューヨークからヒューストンまでの取材経過を整理する。

周防正行著「「Shall we ダンス?」アメリカを行く」
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# by foodscene | 2012-06-21 15:03 | ノンフィクション・アメリカ

慈愛のひと 美智子皇后

竹山校長は、市場の見学を終えると、
そのまま生徒たちを近くの寿司屋に引率した。
その寿司屋は、椅子のない、立ち食いの寿司屋である。
客のなかには、昼間から酔っている者もいた。

生徒の大半は、このようなところに足を踏み入れたことがない連中ばかりである。
彼らの当惑ぶりを見るのが、竹山校長の楽しみでもあった。

竹山は寿司屋のカウンターに全員を並ばせるや、
寿司の講義をはじめた。
「寿司の御飯のことを、シャリというんだよ。
その名の通り、口の中でべたつかず、
しゃりっとした舌ざわりでなけりゃいけない」

竹山校長は注文した。
「ではまず、ギョクを握ってもらおうか。
ギョクというのは、タマゴ焼きのこと。
最初にこれを食べるのが通とされている」

ギョクのにぎりが出されるや、
竹山校長は、手づかみで口に放りこんだ。
生徒も、眼の前ににぎりを出されると、竹山の真似をして、手でつまんで食べた。

竹山校長は、次々に注文を重ねる。
生徒たちも、大トロ、ヅケ、ヒモ、カッパと、
竹山の真似をして注文した。
美智子も、嬉々として寿司をつまんでいた。

***
マザー・ブリッドは、こうも、いっていた。
「ものを頼むときには、忙しい人に頼みなさい。
暇そうな人には、頼まないこと」

***
そんな美智子の唯一の気休めが、学校の坂下にあった団子屋であった。
美智子は、自治会の仕事で遅くなった日は、
かならずここに寄った。
渋茶に団子を頼みながら、ひとつ息を吐いていった。

***

サンドウィッチの黒い文字は、焼きのりでつくることにした。
同時に、かっぱ巻きなど、手軽につまめるものもつくった。
が、白黒ばかりでも色合いが悪い。
マザー・ブリッドは、とても色彩に気を配る人物であった。

美智子たちは、色合いを考え、テーブルクロスをパステルピンクにし、
アペリティフと呼ばれる食前酒にワインをつけた。

***

谷本は、美智子と組になった。
ふたりで話し合って、その日の献立はカレーライスということになった。
が、つくりはじめて材料が足りないことに気がついた。
いまさら、買いに走るわけにもいかない。

「ねえ、玉ねぎが足りないわ」
「茄子はあるけど…」
「入れてみましょうか」
「そうね、変わった味になるかもしれないわ。
ついでに、このトマトもなんとかしない?」
ふたりは、おもしろ半分に、カレーの鍋の中にどんどん野菜を放りこんだ。

いざ食事となり、ひと口、口に入れた者がいった。
「これ、なあに?」
美智子は、すました顔をして答えた。
「ステガバ料理よ!」
美智子たちは、学生自治会、つまりスチューデント・ガバメントのことを、
略して「ステガバ」と呼んでいた。
見かけのわりに、味は好評であった。

***
食事の献立も、あるもので間に合わせるのがやっとだったので、
毎日、ほぼ同じであった。
朝は、ふかしたサツマイモにおひたし。
昼はうどんか雑炊。
夜が、麦入りの御飯と野菜のいため煮である。

食べ物は、家族もお手伝いもいっしょだった。
館林でも、ヤミならば肉や砂糖も買えた。
が、母親の富美子は、そういうことはできるだけしないでいた。
平素の食事はなるべく切り詰め、
週末、父親の英三郎と長男の巌が来たときは、ここぞとばかりご馳走にしていた。

美智子たちは、出されたものを、文句もいわずにきれいにたいらげた。
学校へは、麦めしのおにぎりかふかしイモを持って登校した。

***
別の日に井上が遊びに行ったときには、おやつにサンドウィッチが出た。
井上は、眼をまるくした。
当時、食事はまだ芋が主流であった。
白米でさえ珍しいのに、パンが出た。
パンは、小麦粉をイーストで練ってつくった手製のものであった。
井上は、おいしくて美しい食べ物を前にして、いたく観劇した。
<いつか自分の手で、サンドウィッチをつくってみたいなぁ…>

***
美智子は、マシュマロが好物であった。
修学旅行にも、しっかりとマシュマロを持って来ていた。
美智子は、マシュマロの袋を抱いてストーブのところに行った。
集まっている友達に、それとなくいった。
「こうやって食べると、おいしいのよ」
美智子は、そういうや、ストーブの上にマシュマロを乗せはじめた。
当時、マシュマロは、珍しい菓子であった。
美智子が、それを焼いて食べるのに、みな眼を見張っていた。

マシュマロは、外をこんがり焼くと、中がとろりととろけ出す。
それを半分に割り、あつあつのところを、フーフー吹きながら食べるのである。

美智子は、みんなにひとつずつ配った。
おいしいものだから、みな次を要求する。
またたく間に、袋は空になった。

大下英治著「慈愛のひと 美智子皇后」
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# by foodscene | 2012-06-07 17:02 | ノンフィクション日本

うたかた

しばらく話しているうちに、
気がついたら麻からメシを食うのを忘れているのだった。
で、三人で連れ立って地階の食堂へゆき、
僕はとうもろこしのスープと豚カツをたべ、
あとの二人は何やら注文しかけたところで、
局内の拡声器から呼び出しのアナウンスをうけて、
「じゃ、たのむよ」とそそくさと立ってしまった、
どっちをむいても十分とむだバナシをしていられる余裕のある奴なんか、
ひとりもいないのだった。

一階のコーラ・スタンドでコカコーラを立ち飲みし、
電話を三つかけていると、
同業のライターが通り掛かった、僕は彼の妻となった元女優がちょっと好きだった、
彼に彼女をとられたように僕は感じさえしたのだった。


田辺聖子著「うたかた」
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# by foodscene | 2012-06-07 16:40 | 日本

清貧なるイギリス料理

イギリスと食文化のかかわりとなると、たいていは悪口に終始することになる。
フランク・ミューアというイギリス人の著書に
『無遠慮な文化誌』(中西秀男訳 筑摩書房)なる一風変わった書物があって、
その「飲食」の項をみると、イギリス伝統のボイルド・キャベツについて猛烈な
悪口がとりあげられている。

あの伝統的なイギリス風にボイルしたキャベツにくらべたら、
フィンランドの破産した屑屋から買いこんだ古新聞を一たん蒸してから燃焼不完全な
石油ストーブの上で焼いたしろものでも、まず飛びきりの珍味といえる。
(略)

これほどひどい悪口でなくても、
イギリス人の食生活についてはあまりいい評判をきかない。
ヨーロッパへ旅行してイギリスの料理のおいしさをほめたたえる人はロシア人の
サーヴィスをほめる人と同じくらい少ないのではないか。

アントニー・グリンというイギリス人が書いた
『イギリス人 その生活と国民性』(正木恒夫訳 研究社)は、
イギリス人の生活に密着してその国民性をユーモアたっぷりに描き出した好著だが、
このなかの「パイとプディング」と題された章は、
イギリス人の食生活を語ってとりわけおもしろい。

イギリス人(あるいはグリンの言葉を借りればブリテン人)は
大昔から名うての大食漢だったという。
なるほどシェイクスピアの生み出した古今東西最高の喜劇人物フォルスタッフの食欲たるや、
常人どころか超人をもしのぐほどである。

そうした大食の伝統が頂点に達するのは20世紀初頭だそうで、
この時代には肥満体の人物が多く出た。
ところが、いつの頃からか、とにかく20世紀が進むにつれてイギリス人は
食欲をなくしてしまう。

その理由については憶測の域を出ないが、
上流階級に関しては戦争の影響が大きい。
(略)
グリンはこれをまとめて、
「食物は必要悪ならぬ不必要悪なのであり、
少なければ少ないほどよい」という。
(略)
それはともかく、現在のイギリス人が食物にあまり興味も望みも抱いていないというのは、
一部の変わり者を除けば事実のようで、
彼らはあいもかわらずポテトとベークト・ビーンズ(大豆を煮こんでトマト味をつけたもの)と
グリーンピースで日々をすごしているように思われる。

かつてイギリス特有の食物として必ず引きあいに出されたものに、
「フィッシュ・アンド・チップス」がある。
たらを天麩羅風に揚げたものにフライド・ポテトをつけあわせるというやつで、
テイク・アウト食品としては圧倒的な人気を集めてきたものだ。

町中あちこちにあったこの手の店では、
揚げたてのフィッシュ・アンド・チップスを粗雑な紙に包んでくれたもので、
一説では高級紙『タイムズ』より、大衆紙のいわゆる「イェロー・ペーパー」に包んでくれたもののほうが
味がいいといわれた。

ところが、最近ではこの手の店がだいぶ姿を消して、
かわりにピザ・チェーンが幅をきかせているのである。
もちろんレストランやパブには必ずといっていいほどこのメニューがあるけれど、
専門店の衰微ぶりたるや目をおおわんばかりである。

小林章夫著「イギリスの味わい方」
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# by foodscene | 2012-05-30 16:41 | イギリス

ことば (天才!)

人間の態度はいかにして、世代から世代へと受け継がれるのだろうか?
それは社会によって受け継がれるのだ。
たとえば、その土地の訛りが長く残ることを考えてみればいい。
(略)
これらは、現在のアパラチア地方に暮らす住民の発音である。
これらの特徴的な話し方のパターンを伝えたものが何であれ、
それと同じものが言動や感情のパターンを伝えたことはまず間違いない。

***

グリーンバーグは、パイロットたちに、
代わりとなるアイデンティティを与えたかった。
通常、パイロットは時刻の”文化的な遺産”の重みに押しつけられた役割から抜け出せない。
だからこそ、パイロットには操縦室に座ったとき、
その役割から抜け出す何らかの、”好機”が必要であり、
言語はその変容のカギとなる。

英語を話すとき、厳密に定められた自国のヒエラルキーの階層、
”形式張った尊敬”、”形式張らない尊敬”、”慇懃”、”親しい”、”親密”、”率直”から解放される。
そして、まったく別の遺産を持った文化と言語に参加できる。

だが、グリーンバーグの改革の重要な部分は、
グリーンバーグが「行わなかった」ことにある。
韓国人のパイロットをクビにして、権力格差の小さな文化で育ったパイロットを代わりに雇い、
同社の立て直しを計ったのではない。
グリーンバーグは文化的な遺産が問題であることを知っていた。
それは強い影響力を持ち、蔓延し、当初の有用さが消えた後も長く生き延びる。
だが一方で、文化的な遺産が、永遠に消し去れないものだとも決めつけなかった。

韓国人がみずからの出身に率直になり、
自国の遺産のうち、航空業界に適合しない側面と向き合うのなら、
彼らは変わることができる。

***

また、読者であるあなた自身も、この本を読むことで、
これまでの自分がどんな好機を得てきたかを再確認し、
また、いい影響、あるいは悪い影響を与えている
「文化的な遺産」にも気づき、現実に好機をつかみ続けて成功へのスパイラルを見つけ、
アウトライアーズへの仲間入りをするにはどのように行動すればいいのかについても、
ぜひ、参考にしていただきたい。

そして、この本の法則をつかみ、成功した暁には、
ぜひ、本書のエピローグに登場する
「ミスター・チャンス」のように、社会に好機を提供できる人材になってほしいと心から願う。
(勝間和代)

マルコム・グラッドウェル著 勝間和代訳「天才!」
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# by foodscene | 2012-05-29 15:40 | Books

わたしのオックスフォード 2

食べ物も違う。
寒いせいか炭水化物や油ものを多くとり、
ずっしり重い生地のミートパイや、ジャガイモやスウィード(カブの一種)をふんだんに使った料理が目立つ。
ジャネットに言わせると
「フィッシュ・アンド・チップス」も本場は北なのだとか。
南のチップスは身も衣も貧弱で頼りないらしい。
その南のチップスでさえもしつこく感じる私は、
北のチップスは遠慮しておこう、と心に決めている。
朝食でベーコンエッグなどに加えてブラック・プディング(血のソーセージ)を食べるのも、
北、とくにヨークシャーの伝統である。

***
朝食は8時15分から9時半まで、食堂に用意されている。
入口の横に置いてあるジュースやコーン・フレークスをとって席につく。
卓上にはコーヒー、紅茶、バター、ジャムなどが並ぶ。
出来たてのトーストを係の人がラックに入れて持ってきてくれる。

***
12時半。さて、お昼はどうしようかな。
「ヒーローズ」あたりで好物のチキンとアボカドのサンドでも買って部屋で食べようか、
とも思ったが、結局、カレッジの食堂に舞いもどってしまった。

朝と違って昼食はセルフ・サービスである。
「質より量」主義で、率直にいて、すべてがとてもまずい。
ミートパイ、コーニッシュ・パスティ、フィッシュ・アンド・チップス、スパゲッティ・ボロネーゼなど一通り食べてはみたのだが、
例外なく失望されられた。
いちばん無難なのはベークド・ポテトに温野菜という平凡な組み合わせで、カレッジで昼食を食べるときはこれに決めている。

ただ一つのとりえは安いこと。
私の「おすすめ」セットは60ペンスだし、デヴィッドたちはいつも、よく落っこちないな、と感心するほど
大量の料理をお皿に積みあげているが、それでも1ポンドをオーバーすることはめったにない。

食堂でダンカンといっしょになり、ほかの仲間たちと食後のコーヒーを彼の部屋へ飲みにいく。
彼は「カプチーノ・メーカー」なるものを持っているので、
自然に人が集まってくるのだ。

***
ダージリンとビスケットをごちそうする。
テュートリアルから出てきた者はやさしくねぎらってやるのが常識なのである。
そのあとカレッジの図書館へ。
ストラウド氏との対決をつづける。

***

カレッジの夕食は7時15分からだが、今夜は外食する予定がある。
キーブル・カレッジの友人、デビーの誕生日なので、
最近、駅の近くに開店した「バンコク・ハウス」という店にタイ料理を食べにいくことになっている。
私もデビーもタイ料理が大好き。
とくにあのくせのつよいカレーがたまらない。

しかしデビーの友人マイケルは食べ物に関しては救いようのない「保守派」である。
困惑の表情でメニューを検討する彼の目が、突然、輝いた。
マイケルのようなお客のために、英国料理が何品か用意してあったのだ。
オックスフォードに数多いインド料理店にも、
たいていフィッシュ・アンド・チップスなどの「イングリッシュ・メニュー」がある。
本当にイギリス人はしょうがないわね、とからかっても、
マイケルは平然とチップスにおきまりの酢をかけているところ。

***

ひきかえに自分のガウンを受け取って、
私たちは父兄ともどもランドルフ・ホテルにハイ・ティーを楽しみに行った。
おきまりの紅茶とスコーンに、
スモーク・サーモンやキュウリのサンドイッチ、ケーキなどがつく
伝統的なティー・タイムのごちそうである。

川上あかね著「わたしのオックスフォード」
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# by foodscene | 2012-05-28 15:33 | 日本