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34 前夜祭

5月のクリスマス

その日の午後、とうさんは食料品をどっさり持って帰ってきた。
とうさんが腕いっぱいに包みをかかえてもどってくるのを見るのは、
ほんとうにうれしかった。

白い小麦粉の袋、砂糖、干しリンゴ、ソーダ・クラッカー、そしてチーズ。
灯油の缶も満タンだった。

ローラはしあわせな気持ちで、ランプに灯油を満たし、
ほやをみがき、しんを切った。

夕食のときには、きれいに磨かれたガラスを通して、明るい光が赤いチェックのテーブルクロスや、
その上にのった白いビスケット、温かいジャガイモ、いためた塩漬け豚肉の皿を照らし出した。

その晩、固形イーストを使って、
かあさんは軽いパンをこしらえるために、パン種をしこんだ。
パイを作るために、干しリンゴを水につけた。

次の朝、ローラは起こしてもらう必要などなかった。
夜明けに目をさまし、1日じゅう、かあさんの手伝いをして、パンやパイを焼いたり、
煮込んだり、蒸したりして、明日祝うクリスマスのおいしいごちそう作りにいそしんだ。

その日の朝早く、かあさんはパン種に水と小麦粉を足して、
さらにふくらませた。
ローラとキャリーは、クランベリーをよりわけてから、洗った。
それにかあさんが砂糖を加えてとろ火で煮ると、
きれいな真っ赤なジェリーができあがった。

ローラとキャリーは、長い茎についている干しブドウをていねいにつまんでとり、
さらに種を慎重にとりのぞいた。
かあさんは干しリンゴを煮て、それに干しブドウも加え、それを中にいれて、パイをこしらえた。

「ほしいものがなんでもあって、料理できるなんて、なんだかふしぎな気がするわ」
と、かあさんがいう。
「今は、クリーム・オブ・タータもあるし、重層もたくさんあるから、今度はケーキを作りましょう」

1日じゅう、台所はおいしいにおいでいっぱいだった。
夜になると、戸棚には白い小麦粉で作った、表面にかりっと焦げ目のついたパンがいくつか、
砂糖衣をかけたケーキがひとつ、皮がぱりっとしたパイが3つ、
そして、クランベリーのジェリーが入っていた。

「今、ぜんぶ食べられたらいいのに」
メアリがいう。
「明日まで、待ちきれない気がするわ」
「あたしは、まず七面鳥を食べたいな」と、ローラ。
「つめ物にセージをいれてもいいわよ、メアリ」
そのいかにも気前のいいいい方に、メアリは吹き出した。
「それって、つまりあんたの好きな玉ネギがないからでしょ!」
「まあ、まあ、2人とも、落ち着いて」かあさんがなだめた。
「夕ごはんには、軽いパンとクランベリーのジェリーを少しいただきましょうよ」

というわけで、クリスマスのごちそうは、まえの晩から始まった。
こんなにすてきな時間を、眠って無駄にするなんて、もったいない気がした。
でも、さっさと寝てしまったほうが、明日の朝が早くくる。
そう思って、ローラは寝ることにした。
でも、目をつぶったと思ったらもう、かあさんが呼んでいた。
明日がきたのだ。

ワイルダー 谷口由美子訳 「長い冬」
by foodscene | 2009-12-12 19:03 | アメリカ


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