35 大団円

なんという忙しさ!
朝食をそそくさとすませ、ローラとキャリーがテーブルを片づけて、皿を洗っている間に、
かあさんは大きな七面鳥を焼くしたくを始め、
パンをまぜたつめ物を作った。

5月の朝は暖かい。
大草原から吹いてくる風は、春のにおいがした。
ドアというドアをあけはなし、また台所と居間の両方が使えるようになった。
広い居間から出たいときに出て、入りたいときに入る。
それだけでローラは広びろとした、おだやかな気持ちになり、2度といらいらすることなどないと思った。

かあさんは、台所にあると邪魔な揺り椅子をすでに居間の窓辺のそばに動かしていた。
いよいよ、七面鳥がオーブンにいれられた。
メアリはローラを手伝って、テーブルを居間の中央に運んだ。
メアリはテーブルを広げるたれ板をあげて、
ローラが持ってきた白いテーブルクロスを広げた。
それから、ローラが戸棚から皿を運んできたので、メアリはそれをテーブルに並べた。

キャリーはジャガイモをむいている。
グレイスはつながった二部屋をうれしそうに走りまわっていた。
かあさんが、あざやかな赤いクランベリーのジェリーをガラスのボウルにいれて持ってきた。
それを白いテーブルクロスの真ん中におき、
みんなできれいな色の効果をたたえた。

「これで、軽いパンにつけるバターがあればいいのに」と、かあさんがつぶやいた。
「気にするな、キャロライン、材木置き場にはもう、タール紙がきているんだ。
すぐに農地の小屋を直すから、2、3日後に引っ越そう」
七面鳥を焼くこうばしいにおいが、家じゅうに広がって、みんなは思わず舌なめずりをしてしまった。

ジャガイモがほくほくにゆであがり、かあさんがコーヒーをわかしていたとき、
ボースト夫妻がやってきた。
「まいった、まいった、だいぶ前から、
もう鼻が七面鳥のにおいをかぎつけましてねえ!」
と、ボーストさんがいった。
「まあ、ロバートったら!
わたしは食べるよりみなさんにお会いするのを楽しみにしていたのに」
奥さんがたしなめる。
奥さんはやせてしまって、頬のきれいなバラ色が消えていたけれど、
やっぱりいつものやさしくてすてきな奥さんだった。
にこにこした、黒いまつげの青い目と、褐色のフードの下にかくれたトビ色の巻き毛は、
まえとちっとも変わっていなかった。
かあさんとメアリとローラと握手をかわすと、
奥さんはちょっとかがんで、キャリーとグレイスをだきよせ、話しかけた。

かあさんがさそった。
「奥さん、どうぞ居間に入って、コートなどをおとりになって。
ずっとごぶさただったので、またお会いできてほんとうにうれしいですわ。
さあ、揺り椅子でお休みになって、メアリとおしゃべりしていてくださいな。
じきに食事のしたくができますから」

「わたしにも手伝わせて」と、奥さんはいったけれど、かあさんは、長いこと歩いてきて、
お疲れだろうし、こちらはほとんどできているから、といって断った。
「ローラとわたしでじきにテーブルをセットしますから」
そういうと、かあさんはすばやくきびすを返して、台所にもどっていった。
あわてていたので、うっかりとうさんにぶつかってしまった。

「どうやら、わたしらはじゃまらしいな、ボースト」とうさんがいう。
「こっちへきてくれ。
今朝、手にいれた『開拓新聞』を見せるよ」
「また、新聞が読めるのはありがたいな」
ボーストさんはうれしそうだ。
こうして、台所には料理人だけが残った。

「七面鳥をのせる大皿をとってきてちょうだい」
オーブンから、重たい天パンをとりだしながら、かあさんがいった。
ローラは大皿をとろうとして戸棚の方を向いた。
そのとき、さっきはなかった包みが棚にのっているのに気がついた。
「かあさん、これは何?」
「知らないわ。見てみましょう」
かあさんがそういったので、ローラは包みを開いた。
すると、小さな皿に丸いバターがのっている。
「バター!バター!」
思わず、大声をあげてしまった。
それを聞きつけて、ボーストの奥さんが笑った。
「ちょっとしたクリスマス・プレゼントよ!」と、高らかにいった。

とうさんとメアリとキャリーは大歓声をあげ、
グレイスはキャーッと叫び声をあげた。
ローラはバターをテーブルに運んだ。
それからすぐにもどって、かあさんが天パンから七面鳥を持ち上げると、
それをのせる大皿を下にうまくすべりこませた。

かあさんがグレーヴィーを作っている間に、ローラはゆでたジャガイモをつぶした。
ミルクはなかった。
でも、かあさんはいった。
「ゆで汁をほんの少しだけ残しておいて、ジャガイモをつぶしたあと、
大きなスプーンで力いっぱいたたくようにしてごらん」
熱いミルクとバターをたっぷり加えて作れば、香りも味もよかっただろう。
それでも、ジャガイモは白くふんわりとしあがった。

ごちそうが山もりになったテーブルに、みんながそろってつくと、
かあさんがとうさんを見た。
みんなは頭をたれて、お祈りをした。
「神よ、あなたのあふれるお恵みに感謝いたします」
とうさんはそれしかいわなかったけれど、
それだけですべてをいいあらわしているようだった。

「2、3日まえと比べると、テーブルがまったく別のものに見えるよ」
ボーストの奥さんの皿に、七面鳥とつめ物とジャガイモと大きなスプーンですくった
クランベリーのジェリーをもりだくさんにのせながら、とうさんはいった。
さらに、ほかのみんなの皿にもごちそうをのせながら、またいった。
「長い冬だったなあ」
「実に厳しい冬だった」
と、ボーストさん、
「でも、こうしてみんな元気に乗り切ってこられたなんて、奇跡ですわね」
ボーストさんの奥さんがしみじみといった。

ボースト夫妻が、たった2人で、猛吹雪にとじこめられた農地小屋でどのように過ごし、
厳しい冬を切り抜けてきたかを話していると、
かあさんがコーヒーをいれ、
とうさんには紅茶をいれた。
パンやバターやグレーヴィーをまわし、
とうさんに、みんなのお皿にまたおかわりをとりわけてくださいね、といった。

みんなが2回目のおかわりを食べおえると、
かあさんはカップにコーヒーや紅茶をいれかえた。
ローラがいくつかのパイとケーキを運んできた。

そして、みんなはテーブルについたまま、長いことしゃべっていた。
過ぎ去った冬のこと、これからくる夏のこと。
かあさんは、農地へもどるのが待ち遠しい、といった。
道はまだぬれていて、泥だらけなので、今もどるのはむずかしいけれど、
近いうちに、乾くだろうと、とうさんとボーストさんはいうのだった。
ボースト夫妻は、自分の農地で冬を越したので、わざわざ戻る必要がなくて喜んでいた。

ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」
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by foodscene | 2009-12-12 19:31 | アメリカ


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