キャナリーというレストランは、
バンクーバー市内から車で30分ほど離れた入江沿いにあった。 海に突き出た丸太小屋風のその店は、 地元でも評判と見えて大入り満員。 窓際の、海を隔ててバンクーバーの夜景を望むことのできる席はすべて、 老若取り混ぜた中良さそうなカップル客に占拠されていた。 「ではまず、地元のカキから始めて、スープはクラムチャウダー。 続いて茹でダンジョネスクラブ、そしてサーモンの網焼きという感じでいかがでしょう」 現地接待係氏が、一生懸命吟味してくださるのに対し、 そんなにたくさん食べられませんよ、どうぞもう、 私は男女なしカニさえいただければ満足なんですからと、 断固拒絶の態度に出ておきながら、彼の注文したカキをひとつつまんで驚いた。 「クマモト」という日本名のついた(おそらく種が熊本県からのものなのだろう)小ぶりのカキの甘いこと。 ひえーと感激の声をあげると、接待係氏が、 「どうぞ、もうひとつ」 「いや、それは悪いから。そうですか、じゃ」 かくして結局、4つも横取りする。 そのあとに出てきたクラムチャウダーはまあまあの味だったが、 ダンジョネスクラブは予想していた以上に身がひきしまって新鮮。 続くサーモンもすばらしく、 その脂ののった皮を白い御飯の上に乗せ、 鮭茶漬けにしたらさぞやと思われるおいしさであった。 阿川佐和子「どうにかこうにかワシントン」
by foodscene
| 2009-12-30 11:43
| ノンフィクション・アメリカ
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