夕方、ブラトルの、若やかでしかも粋な通りの、
劇場地下の音楽カフェにゆく。 シェラザードのレコードをしばらく聞き、 珍しく本格的なヴィエナ・コーヒー一杯を楽しく飲む。 -------------------- この通りの中頃にあるドイツからの移民の元貴族夫人がはじめた ウインドウ・ショップ(店はロングフェローの「村の鍛冶屋」の鍛冶屋の住んでいた家)の アバガド・サラダはなかなかいける。 ここの菓子もよろし。 ブラトルそのものではないが、ほんの目と鼻の先にある、 フランス人家族のやっている小さな「アンリ・カトル」は、 パリの学生街のレストランを思わせる小粋な雰囲気で楽しい。 パリのなつかしい白と赤の格子じまのテーブルクロス、 黒いユニフォームのウェイトレス、そしてボルドーやブルゴーニュの葡萄酒。 パリの味の繊細さをちゃんと受け継いだシャンピニオン入オムレツ。 ケンブリジには、もう一軒、アンリ・カトルを上まわる味のフランス料理屋あり。 わが家からきわめて近いのがうれしい。 「シェ・ジャン」少々高く、二人で行って一晩にまず二十ドルかたは飛ぶが、 それだけのことはある。 とくにコック・オ・ヴァン、シャトオ・ブリアン、よろし。 食後のショコラ・ムスよろし。 松阪に劣らぬ肉を売るミスタ・イーガンの、風変りで古風でいっこくなところがあって ふりの客は一切ことわる店から買いつけた肉をシェ・ジャンはうまく食べさせてくれる。 誰であろう、アメリカにうまいものなし、なぞ知ったかぶりを 一番最初に言い出したのは。 だが何とも有難いのは、 このブラトルで、本格的なフランスパンの買えることである。 苦味のあるフランス風のコーヒーや、ノルマンディのチーズの安く買えることである。 スコッチ安く、チーズ安く、他に言うことはない。 犬養道子「マーチン街日記」
by foodscene
| 2010-09-06 15:01
| アメリカ
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