L・Hとアンリ・カトルにて食事。
フランス人のやっているこの小さなレストランは、 フランス語で注文を取るボーイ、 だまっていても注いでくれる葡萄酒、 パリのレストランそのままの赤白格子縞のテーブルクロスとナプキン等々、 アメリカ北方のケンブリジにいることを忘れさせる。 シャンピニオン入のオムレツは本場の味である。 それにしては値段が安くてよい。 5ドル出せば立派なデジュネ(昼食)が食べられる。 ケンブリジには手軽でうまい小レストランがかなりある。 有難いことだ。 年齢のせいかしらん。量はいらない。 ちょっぴりでよいから、うまいものがほしい。 食いしん坊になって来た。 ------ 午後ブラトルストリートのセージにゆく。 これはよいマーケットである。 アメリカによい肉はない、などと言う人に見せてやりたい。 霜降りの肉がある。 これはうまい。少々高いが実にうまい。ビフテキ1枚買う。 本場本物のフレンチ・コーヒー豆がある。 中国の香り高い花茶がある。 しかし何と言っても、コンコード通りをまっすぐ行った先の ミスタ・イーガンの店が一番だ。 フリの客をいれない、紹介の客だけを受ける、 現金買いをさせないツケ専門のあの一風変った頑固な店の、ステーキ用肉は、 松阪でも容易には見られない品だ。 ワラビやソテー用山羊歯や、 さまざまの野のベリー類も売っている。 人工加工しない自然食品の豊富さはうれしい。 骨董屋をひやかし、本屋をひやかす。 いつもの悪い癖が出て、バヴァリアのデミタス・カップを買ってしまった。 -------- ひる、ジーン夫妻とハーヴァード・ダートマスのフットボールを見にゆく。 えらいさわぎである。 ジーンもハワドもハーヴァードのスクールカラーのえりまきをして 昂奮している。 試合開始前のひととき、恒例、「伝統」の、 テイル・ゲイティング。 競技場わきの、チャールス河っぷちの野外で、 ステイション・ワゴンのお尻をテーブルにしてお弁当を食べるのだ。 とうに死んだまま執拗に枝にぶらさがっている黄葉の奇妙に物さみしい白樺の根本で、 身に痛いからっ風をまともに受けて、ブルブルふるえながら、 冷え切ったサンドイッチを食べる。 御苦労なことだ。 犬養道子「マーチン街日記」
by foodscene
| 2010-09-07 03:52
| アメリカ
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