一時停止の標識が現れ、アイラはスピードを落として角を曲がり、ルート1に入った。田舎道を走ったあとのルート1は快適だった。トラックが次から次へと流れるように向かってきた。ヘッドライトを点けている車もある。こぢんまりしたカフェのポーチに<夕食をどうぞ>という手書きの看板が出ていた。農場の収穫を使った料理にちがいない―穂軸に着いたままのトウモロコシとか堅パンとか。マギーは言った。
「途中で買い物をしていきましょう。ルロイ、おなか減った?」 ルロイは大きくうなずいた。 「私も、朝からタコ・チップスとプレッツェルしか食べてないの」とマギー。 「それと、真っ昼間からのビールと」とアイラ。 マギーは聞こえないふりをして言った。「ルロイ、何が食べたい?」 「さあ、わかんない」 「何かあるでしょ」 ルロイは握りこぶしをグローヴにパシッと打ちこんだ。 「ハンバーグ?ホットドッグ?炭火焼きステーキ?それともカニなんてどう?」 「カニって、あの殻に入ったやつ?オエッ」 マギーは言葉に詰まった。 「この子が好きなのはフライドチキンよ」とフィオナ。「いつもうちの母に作ってくれとせがんでいるんだから。そうでしょ?ルロイ」 「フライドチキン!最高!途中で材料を買っていきましょう。すてきじゃない!」 ルロイは黙っていた。無理もない。当のマギーでさえ今のはわざとらしかったと思っているのだから。年寄りはつい力が入りすぎる。でも、まだ根は若いのだ。老けた顔の下には若さがあふれていることを、ルロイにはわかってもらいたかった。 (アン・タイラー著 中野恵津子訳 「ブリージング・レッスン」より)
by foodscene
| 2006-04-06 00:22
| アメリカ
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