阪急電車

レジの手前に総菜コーナーがあって、
そこに弁当などと一緒に籠に盛られたおにぎりがあった。
しかもコンビニ風にパッケージされたものではなく、
漬け物の混ぜご飯が手結びされてラップで包まれたものだ。

そのアットホームさに惹かれて埋めしそを一つ手に取り、
飲み物のコーナーで持ってきておいたお茶と一緒に買う。

梅雨の晴れ間の一日でベンチはいい感じに温まっていた。
電車の中で頑なに立っていたことが嘘のように、ドレスの皺など気にもかけずに座った。

お母さんが握ったような素朴な見かけ、素朴な味のおにぎりは、
まるで体のことを気にかけられているようだった。
ゆっくりとよく噛んで、お茶で流し込む。
すると一つで充分にお腹がいっぱいになった。

***
「圭一くん、自分で料理するって言ってたから台所道具は揃ってると思って」
言いながら美帆が持ち込んできたのは、お粥を作る材料と桃缶だ。

***
「いつもごはんとかどうしてるの?」
「コンビニでおにぎりとかさっきのスーパーで総菜とか」
「わー、野菜足りてなさそう。
今日野菜いっぱい食べなよね」
言いつつユキは狭い台所で窮屈そうに野菜類を切りはじめた。

待ち合わせは夕方に設定してあったので、
支度が調うのは晩飯時になった。

ホットプレートで肉や野菜が焼けはじめ、
いよいよ『桂月』の登場である。
「わあっ」
とユキから歓声が上がった。
「すごい、一升もあるんだ!大事に呑もうね!」

有川浩著「阪急電車」
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by foodscene | 2012-07-16 14:43 | 日本


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