いつも、わたしたちの前には、いろんなごちそうがならべられる。
しかし、わたしたちは、ほんのすこししか食べない。
汁の垂れる焼きたての菓子が、いまでも目の前にうかんでくる。
それから、小さく縮れた楔形のトースト、
熱い湯気を立てている薄い菓子、
ふしぎな風味をもっていて、とてもおいしく、なんでつくったのかよくわからないサンドイッチ、
非常にめずらしいしょうがパン、
口へ入れると溶けてしまうエンゼル・ケーキ、
それについてくる干しぶどう入りの、皮の張った、あまりおいしくない菓子。
それはじっさい飢えた一家族の口を1週間は十分にささえて行けるくらいの豊富な
食物であった。
わたしたちの食べ残したそれらの菓子類が、どうなってしまうのか、
わたしたちは知らなかった。
(デュ・モーリア著 大久保康雄訳 「レベッカ」より)