私は2人のために、ディナーをすることにした。
親しい人には笑われるのだけれども、私の料理に対する情熱は、周期的にやってくる。 そしてそれは、春の終わる頃と秋のはじまりなのだ。 八百屋の店先にとたんに色が溢れ出すこの季節、私はとても冷静ではいられない。 ズッキーニ、カボチャ、チキンをオーブンで焼いてみたり、栗のパイをつくったりする。 さつま芋で茶巾しぼりをつくるのに熱中したこともあった。 だからよく友人を招く。 この季節だけ私は、料理好きの女ということになるのだ。 いずみ、美由紀とのディナーは、女3人だけだから野菜中心のシンプルなものにした。 蒸したナスのマリネ、秋野菜のラタトゥイユ、トリ肉とモヤシを包んで揚げた春巻き、 イカとセロリの炒めもの、私の得意のチャーシュー、そして最後のシメジの炊き込みご飯も用意した。 2人は土産に赤と白のワインを1本ずつ持ってきてくれたが、ほとんど自分たちで飲み干した。 (中略) やがてテーブルの上に、お茶の用意が整った。 私の持ってきたベビーピンクのバラは、バカラの器に美しく飾られていた。 チョコレートとクッキーで、私たちは紅茶を飲んだ。 紅茶はとてもうまく淹れてあった。 専門店でならともかく、個人の家でおいしい紅茶を飲もうとするのはとてもむずかしい。 たいていがポットのぬるい湯を使ったり、器をあらかじめ温めておくことを省くからだ。 こうして女がさしむかいで紅茶をすすっていると、おのずから自制された上品な会話となるのが我ながらおかしかった。 (中略) 若い頃、イタリアで修行をしていたという彼は、料理も大層うまい。 ハーブを使ったサラダやパスタは、レストランを開いてもいいほどの味だった。 彼は毎晩私たちに、明日の朝ごはんは何がいいかと尋ねる。 パンがいいと言うと、カフェオレと目玉焼き、サラダといった朝食になる。 和食がいいと言うと、炊きたてのごはんに味噌汁、何種類かの漬け物という結構な朝ごはんが並べられた。 (中略) いつのまにか私は、おしゃれで自立した女の代表のようになっているらしい。 女性誌からは、インテリアを見せて欲しい、日々の料理のレシピを教えてほしい、 などといった依頼がひっきりなしだ。 そういう時、私はハーブ入りオムレツにミルクティー、新キャベツのサラダにスコーン、 などといった献立を披露する。 イラストレーターだから、テーブルセッティングはお手のものだ。 厚めのブルーの皿に、白いリネンのテーブルマット、そしてナプキンリングに、 青いチェックのリボンを巻く・・・・・・などという工夫をすると、どの編集者も喜んだ。 けれども実際の私は、こうして昼近くに起き、ジャージー姿のままでコーヒーを淹れ、 チョコレートを朝食代わりに食べるような生活をしているのだ。 (林真理子著 「年下の女友だち」より)
by foodscene
| 2007-02-12 22:34
| 日本
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