次の日、朝のいつもの仕事がおわると、
ローラとキャリーは雪だらけの通りを横切ってハーソーンさんの店へ行った。 ハーソーンさんが1人でいて、 店の棚はほとんどからっぽだった。 両側の長い壁際に、男性用のブーツと女性用の靴が数足と、 キャラコの反物がいくつかおいてあるだけだった。 豆のたるもからっぽだった。 クラッカーのたるもからっぽだった。 塩漬け豚肉のたるの底にたまったほんの少しの塩水にも、 豚肉は影も形もない。 長い平たいタラが入っていた箱には、底に塩がところどころこびりついているだけだった。 干しリンゴと、干しブラックベリーの箱も、からっぽだった。 ハーソーンさんがいった。 「汽車がくるまでは、食料や雑貨は切れたままさ。 注文したものがくると思っていたら、とまってしまったんだよ」 それでも、かざり棚には、美しいハンカチ、くし、ヘアピン、ズボンつりがふたつ、 並んでいる。 ローラとキャリーはズボンつりをじっと見つめた。 ごくシンプルな、ぱっとしない灰色のだ。 ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」 #
by foodscene
| 2009-11-25 16:28
| アメリカ
「町にはもう灯油はないんだ。
それに肉もない。 店はどこも、ほとんど品物を売り尽くしてしまった。 キャロライン、今日は紅茶を1キロばかり買ってきたよ。 なくなるまえに買っておこうと思ってね。 だから、汽車が通るまで、紅茶だけは飲めるってわけだ」 「ほんとうに、寒いときに熱い紅茶ほどおいしいものはありませんものね」 と、かあさんが喜ぶ。 「それに、今はランプにたっぷり灯油が入っているし。 石油を節約するためにベッドに早く入れば、灯油もその分使わなくてすむから、 しばらくはもつでしょうよ。 あなた、紅茶を買ってくるのを思いついてくださって、うれしいわ。 なかったら、どんなにか味気ないでしょうよ!」 そのうちにやっととうさんも体が温まってきた。 それ以上何もいわずに、窓際に座ると、 最後の手紙の束といっしょにきた『シカゴ・インターオーシャン』という新聞を読みはじめた。 「ところで、石炭がくるまで、学校は休みだそうだよ」 目をあげて、とうさんはいった。 「いいわ、あたしたちで勉強するもの」 ローラはきっぱりいった。 ローラとメアリはお互いに算数の問題をつぶやきながら解き、 キャリーはスペリングを勉強し、 一方、かあさんは繕い物をし、とうさんは、新聞を読んでいた。 ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」 #
by foodscene
| 2009-11-24 18:31
| アメリカ
正午になり、土曜日にいつも焼くパンがオーブンから出された。
かりっと黄金色に焼けたパンが3つある。 それに、ゆでたジャガイモがほくほくと湯気をたて、 紅茶がはいった。 それでもまだ、とうさんはもどらなかった。 ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」 #
by foodscene
| 2009-11-24 18:26
| アメリカ
汽車がくるまでは、肉も食べられない。
バターは切らしてしまったし、 肉を焼いたときに出た脂がほんのぽっちり、パンにつけるだけ残っているだけだ。 ジャガイモはまだあったけれど、 小麦粉はあと1回パンを焼く分しかない。 そんなことを考えると、最後のパンがなくなるまでにどうしても汽車がこなければ困るという気がした。 ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」 #
by foodscene
| 2009-11-24 18:25
| アメリカ
メアリはグレイスをだきあげて、椅子に積みあげた本の上に座らせ、
かあさんは湯気のたつベイクト・ポテト(焼きジャガイモ)の皿をとうさんの前においていた。 「バターがあればいいのにね」 「塩が味をひきたてるさ」 とうさんがそういったとき、台所のドアをドンドンとたたく音がした。 キャリーが走っていってあけると、 大きなふかふかのバッファーのコートをはおったボーストさんが、 クマみたいにのっそり入ってきた。 「やあ、ボースト! どうぞ、どうぞ、中へ、中へ!」 --------- バターをつけたベイクト・ポテトとホット・ビスケットは、ほんとうにおいしかった。 昼食のしめくくりに、かあさんの作った、 こくのあるトマトのプリザーブをそえたビスケットがまた出た。 「町には塩漬け豚肉がもうないんだ。 こんなふうに東部になんでも頼っているから、汽車がこないとすぐに食料不足になるんだな」 と、とうさんがいった。 ワイルダー 谷口由美子訳「長い冬」 #
by foodscene
| 2009-11-24 18:20
| アメリカ
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